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 重点特別研究プロジェクト及び政策対応型調査・研究への助言の年度評価(平成13年4月)
化学物質環境リスクに関する調査・研究

  • 更新日:2001年10月4日

1)研究の概要

化学物質環境リスクの適正管理を目指して、暴露評価、健康影響評価及び生態影響評価のそれぞれについて評価手法の高精度化を図るとともに、簡易なリスク評価手法の開発を行う。また、国民にリスク情報を的確に伝える情報提供システムの開発を試みる。具体的には、1)経年的、空間的変動を考慮した暴露評価手法の開発、2)より少ない情報に基づく暴露評価手法の開発、3)化学物質の感受性を支配する要因の解明とそれを考慮した健康リスク管理方法の開発、4)リスク管理へのバイオアッセイ手法の実用化、5)個別生物に対する毒性に基づく生態リスク評価手法の高度化、6)リスクコミュニケーションを促進する情報伝達手法の開発について調査・研究を実施する。

2)研究期間

平成13〜17年度(5年間)

3)研究計画

平成13年度:環境濃度及び環境侵入量の経年変化を推計するモデルの設計を行う。少ない情報に基づく環境濃度推定手法の設計を行う。感受性要因解明の調査方法を設計するとともに、感受性を決定している要因としての遺伝子多型の抽出・解析と生体試料による暴露指標の有効性について情報収集を行う。実用面から既存バイオアッセイ手法の評価を行い、有効な手法を選び出す。生物影響データを生物種毎に整理・解析するとともに、生物個体の移動を組み込んだ生態影響評価モデルの概念設計を行う。インターネットを用いた化学物質情報伝達方法とデータ加工方法を検討するともに、住民参加型のリスクコミュニケーション手法の試行実験方法を検討する。
平成14年度:暴露量変動推定モデルと製造・使用に伴う環境侵入量推定モデルを試作する。水環境濃度の統計予測モデルを構築する。高感受性群の生体試料の採取・分析を始めるとともに、遺伝子多型要因の抽出・解析を続ける。選出したバイオアッセイ手法を実用化に向けて改良する。生物種毎の毒性の違いを解析するとともに、生態影響評価モデルを試作する。開発した方法に基づく情報伝達システムを試作・運用し、利用者の意見を聴取して改良を加える。
平成15年度:非意図的生成量の推定モデルを設計、試作する。大気濃度の統計予測モデルを構築し、化学物質審査への応用を検討する。高感受性群の生体試料の採取・分析と遺伝子多型要因の抽出・解析を継続する。改良したバイオアッセイ手法を環境モニタリングなどに適用して検証する。生物種と化学物質を組み合わせた毒性の解析を継続するとともに、生態影響評価モデルを検証・改良する。インターネットを用いた情報伝達システムと住民参加型の伝達方法の試行・改良を続ける。
平成16年度:開発したモデルを統合し暴露量変動推定システムを構築する。高感受性群の生体試料の採取・分析を継続するとともに、生活環境条件や健康状態との関連を解析する。改良したバイオアッセイ手法の検証・改良を続ける。生物種を踏まえた生態リスク評価手法を開発するとともに、生態影響評価モデルの検証・改良を続ける。インターネットを用いた情報伝達システム及び住民参加型の伝達方法の試行・改良を続ける。
平成17年度:代表物質について暴露量変動推定モデルの検証を行う。感受性を考慮した暴露モニタリング手法を開発し、それに基づく健康リスク管理手法を検討する。開発したモデルとリスク評価手法を統合し、地域生態リスク評価システムを構築する。インターネットを用いた情報伝達システム及び住民参加型の伝達方法を確立する。

4)研究予算額

平成13年度 約78百万円

5)研究実施の背景

化学物質汚染は複雑化、多様化し、人の健康や生態系に取り返しのつかない影響をもたらすおそれがあり、汚染の未然防止が強く求められている。このため、環境リスク概念を取り入れ、科学的知見の不足に伴う不確かさを踏まえたリスク評価とそれに基づくリスク管理によって、化学物質リスク管理の強化が図られている。しかし、リスク評価が適切でないと、一方ではリスク管理に過大な社会コストを費やすことになり、一方では化学物質の影響を受けやすい人や生物を切り捨てることになりかねず、リスク評価手法の高精度化が求められている。しかし、適正なコストの下で的確にリスク管理を行うには、対象を絞り込んで高精度のリスク評価を行うことが必要となる。このためには、より少ない情報に基づくリスク評価手法や簡易な影響試験法の開発が必要となる。また、化学物質環境リスク管理は、リスクコミュニケーションを促進して社会的な合意の下に進める必要があるが、そのためには住民が自らに判断できるようにリスク情報を正確に伝達する手法を確立する必要がある。

6)評価結果の概要

化学物質環境リスクの評価に種々の変動要因を持ち込んで評価するのは意欲的であり、既存データや手法を最大限に利用することで効率よく実施しようとしていると評価された。一方で、全体としてテーマが拡散しており、絞り込む方がよいとの指摘を受けた。また、個別のテーマについても、生態リスク評価やリスクコミュニケーションは困難な課題であり、研究目標を明確にし、適切な研究計画を立てて実施する必要があるとの指摘を受けた。さらに、複合影響、子供や胎児のリスク評価手法や化学物質リスクについての社会的スコープについても検討するように要望が出された。

7)対処方針

本研究の目的は、リスク管理行政を支える上で必要と考える課題を研究テーマとしており、現時点では特定のテーマに絞り込まずに研究を開始することとする。ただし、生態リスク評価やリスクコミュニケーションをはじめとして、個別のテーマについては指摘を踏まえて目標を明確化するとともに、研究内容の絞り込みを図っていくこととする。生態リスク評価については、化学物質の審査に役立つ知見を得ることを目指して既存データの解析を中心に進める。また、リスクコミュニケーションについては、特段の問題が発生する前に信頼関係を醸成することを目指した手法の開発から始めることとする。要望の出された複合影響や子供・胎児のリスク評価手法等の課題はいずれも重要であると認識しており、現時点での研究テーマとはしないが、将来的に研究テーマとして取り上げることを目指して、議論を深めていく 。