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 重点特別研究プロジェクト及び政策対応型調査・研究への助言の年度評価(平成13年4月)
東アジアの流域圏における生態系機能のモデル化と持続可な環境管理プロジェクト

  • 更新日:2001年10月4日

1)研究の概要

  1. 衛星データを利用したアジア・太平洋地域の統合的モニタリング
    アジア・太平洋地域を対象として、広域の地表面を定期的に観測することのできる各種の衛星センサを利用することにより、自然資源の持続的管理に資する情報を得る。
  2. 長江・黄河流域における水循環変化による自然資源劣化の予測とその影響評価
    長江での三峡ダム建設、長江から黄河への導水事業(南水北調)等による水循環変動が流域生態系・水資源保全等に与える影響を予測する陸域環境統合モデルの確立を図る。
  3. 東シナ海における長江経由の汚染・汚濁物質の動態と生態系影響評価
    長江流域内で発生し、水産資源に恵まれた東シナ海に流入し、日本近海や日本海に到達する汚濁負荷の海洋環境管理手法の確立を国際的連携のもとに行う。
  4. 沿岸域環境総合管理
    人間活動の影響を大きく受けてきた沿岸域への汚染や開発による環境影響を軽減、修復方策の効果検討のための変動予測モデルを開発し、沿岸域環境管理手法を整備する。

2)研究期間

平成13〜17年度(5年間)

3)研究計画

(1)衛星データを利用したアジア・太平洋地域の統合的モニタリング
平成13年度:衛星データによる環境観測手法の開発、及びそのデータベース化
平成14年度:土地利用・土地被覆及び生態系の分類マップと変化マップを作成
平成15年度:植生生産量の現状と変化を推定し分布図を作成
平成16年度:重要及び攪乱サイトの同定し、温暖化と砂漠化の影響の検知
平成17年度:上記の成果に基づく自然資源の持続的管理に向けた提言
(2)長江・黄河流域における水循環変化による自然資源劣化の予測とその影響評価
平成13年度:長江・黄河流域の自然環境、社会経済情報のデータベース構築
平成14年度:葛州覇ダム調査に基づく水界生態系モデルの基礎的知見の取得
平成15年度:大流域対応型の水・物質動態モデルの枠組み構築
平成16年度:土壌-植物-大気連続系での熱・水・物質収支モデルの開発
平成17年度:統合モデルに基づく水循環の変化と農業生産との相関関係解析
(3)東シナ海における長江経由の汚染・汚濁物質の動態と生態系影響評価
平成13年度:長江河口域にて、流入物質の定量と河口域生態系の遷移機構調査
平成14年度:長江流域経由の環境負荷の東シナ海での拡散輸送過程調査
平成15年度:化学物質の海洋生態系への取り込みと生物濃縮経路に関する実験
平成16年度:化学物質の海洋生態系への取り込みと生物濃縮経路のモデル化
平成17年度:長江経由の環境負荷の海洋生態系内での物質循環のモデル化
(4)沿岸域環境総合管理
平成13年度:自然及び修復生態系の代表生物の個体群動態、機能の観測
平成14年度:底生生態系の維持機構に基づく生態系への影響評価手法の開発
平成15年度:浮遊・底生生態系の相互関係に基づく沿岸域生態系修復技術検討
平成16年度:沿岸域開発の浮遊・底生生態系への影響と生物の応答のモデル化
平成17年度:生態系への影響評価に基づく沿岸域環境管理の指針の提言

4)研究予算額

61百万円/年(予定額)

5)研究実施の背景

1992年の地球サミットで採択されたアジェンダ21により地球環境問題に対して世界的レベルで各種対策が推進されてきた。しかし人口及び産業の著しい増大が見込まれるアジア・太平洋地域においては様々な発展段階が共存し、森林減少、水質汚濁、水資源枯渇、土壌流出、自然環境の劣化等多様な問題が一挙に顕在化しており、この地域における問題解決が世界的にも極めて重要となっている。一方、日本国内にあっても総合的水・物質循環の把握に基づく自然資源の保全・修復は日本の新たな環境保全・創造にとって最も重要な政策課題である。このため、環境の基本ユニットである流域圏が持つ受容力を科学的に観測・把握し、モデル化を行うことにより環境受容力の脆弱な地域を予測した上で環境負荷の減少、環境保全計画の作定、開発計画の見直し、環境修復技術の適用等環境管理を行っていくことが日本及びアジアの持続可能な発展にとって極めて重要となっている。

6)評価結果の概要

我が国として推進する必要性の高い研究である、長期的・広域的環境問題の解決に対して極めて貢献度が高い、等おおむね肯定的な評価を受けた。一方、1)持続可能な環境管理への具体的な提言ができることが望まれる、中国での食料自給率低下と農耕地拡大及び水不足が予想され、経済的視点も加味して予測する必要がある、2)アジア戦略を明確にしその中で本研究の位置づけをするべき。 モデルを用いた中国の国土開発・保全のための検討手法開発が望まれる、3)モニタリングの成否は現地検証データの質にかかっている。5ステーションでカバーしきれるのか、といった指摘を受けた。

7)対処方針

1)UNEPのプロジェクトとしてミレニアム・エコシステム・アセスメントが2001年6月にスタートし、世界の生態系機能についての評価を4年間で各国の科学者が参加して行うことになった。現在コアプロジェクトの1つとして中国西部におけるアセスメントが決定されている。国立環境研究所が行っている長江流域プロジェクトは中国政府・中国科学院・UNEPとの共同による中国西部アセスメントの一部として参加することが正式に認められている。中国西部開発にともなう環境劣化特に長江上・中流域への影響を評価するもので水資源変化と食料生産への影響について経済的要因も加味した評価を行っていく。2)アジア戦略を考える上でアジアの水問題が最重要であると考えている。本プロジェクトの成果をミレニアム・エコシステム・アセスメントにも発信する予定である。これらの活動を通してアジアの科学者及び政策決定者に対する科学的貢献を行い、アジア戦略を構築していく上での不可欠な基礎としていく。3)畑地、水田、草地、森林、半乾燥地の5つのタイプの生態系ステーションを選んでミクロな生態系変化の追跡を行うとともにMODIS衛星データによるマクロな研究を結合させる予定である。中国を対象とした場合この5つのタイプの生態系が基本であり、まずシステムを完成させたい。