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 事後評価の年度評価(平成13年4月)
超低周波電磁界による健康リスクの評価に関する研究

  • 更新日:2001年10月4日

1)研究の概要

超低周波磁界への暴露によって小児の白血病などの発がんリスクが上昇している可能性については、いくつかの高圧送電線による磁界に着目した疫学研究によって示唆されてきた。また、一部の実験研究では生理的影響(急性影響)がありうるとの知見も示されてきた。本研究では、それら急性影響の妥当性や再現性あるいは疫学研究における暴露評価の方法上の問題点を検討するために、日常生活で遭遇する暴露レベルの範囲内で、精密にコントロールした条件下でのヒトへの暴露実験を行い、生理・生化学的変化の有無を観察した。また、磁界に対して感受性を持つとされているヒト由来培養細胞を用いた暴露実験を行った。さらに、住民の磁界暴露レベルを規定する要因を抽出するために、小型モニターを用いて一般家庭における長期測定と高圧送電線沿線家庭での繰り返し測定の二つの調査を実施した。

2)研究期間

平成9〜11年度(3年間)

3)研究成果

ヒトを対象とした低レベル磁界暴露実験では、強度、極性、持続性の異なる50ヘルツの磁界(20〜100マイクロテスラ)によって心拍数・心拍間隔変動、および夜間における各種ホルモン、特にメラトニンの分泌動態への影響など(急性影響)について検討したが、磁界暴露の影響は、いずれの条件においても統計学的に有意ではなかった。これまでのヒト実験研究の成績と考えあわせると、メラトニンの分泌に影響を与える可能性は低く、また、心臓自律神経系への作用についても否定的であり、中枢神経系機能や免疫機能、内分泌機能などに影響を与える可能性は全体的に低いことが示唆された。一方、磁界に感受性を示すヒト乳がん細胞(MCF-7)を用いた実験では、メラトニン添加の培養条件に磁界暴露を組み合わせると、1.2マイクロテスラ程度の磁界によっても細胞増殖に対するメラトニンの増殖阻害が減少することが確認され、さらに、そのメカニズムを探ると、磁界は[メラトニン受容体]−[Gタンパク]−[アデニレートサイクレース]複合体の連結部に作用して刺激のリレーを阻害(アンカップリング)する可能性が示唆された。 また、高圧送電線近傍の世帯で実施した磁界測定によれば、対象世帯の家屋内(寝室、ないし居間)の磁界レベルは、家庭内の種々の発生源よりも高圧送電線の有無によって大きく規定されていることが明らかであり、一方、個人暴露のピークレベルについては生活行動の影響をうけることが示唆された。

4)研究予算額

総額約68百万円

5)研究実施の背景

電力利用の増加した現代社会では日常的となっている50~60ヘルツの低レベルの超低周波磁界への暴露によって、とくに小児の白血病のリスクが上昇している可能性を示唆する疫学的データが報告されている。これらの疫学研究でリスクが示されているレベルは、これまで生理的影響を考慮して安全とされてきたレベルより極端に低く、その妥当性についてWHOをはじめ国際的に盛んに研究されており、我が国ではとくに暴露人口が大きいことが予想されるため、示唆される健康影響・リスクの検証具体的検討が急務となっていた。

6)評価結果の概要

社会的に関心の高い磁界の健康リスクの解明に寄与する結果が得られたことに対して高い評価を受けた。一方で、今回の結果は、憂慮される生活環境中の磁界の健康影響のすべてに適用できるものではなく、とくに急性影響に限定されているものであるとの指摘を受けた。また、このような不確実性の高いリスク情報をどのように国民に伝えて行くべきかという課題についても指摘があった。

7)対処方針

WHOの国際電磁波プロジェクトとの連携をさらに深めながら、平成11〜13年度に科学技術振興調整費で実施している「生活環境中の電磁界による小児の健康リスク評価に関する研究」において、小児白血病と脳腫瘍など慢性疾患の疫学調査による解明にも取り組み、磁界のリスクに関するコミュニケーションのあり方についても研究を進めていく予定である。