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事前評価(平成12年4月)
大陸規模広域大気汚染に関する国際共同研究

  • 更新日:2000年12月1日

1)研究の概要

中国をフィールドとした共同研究により、現在の中国で問題となっている硫黄酸化物系の大気汚染と、今後益々重要となってくるものと予想される窒素酸化物・光化学大気汚染系の大気汚染とが混在する広域の大気汚染について観測、モデルの両面から現象を解明する。
具体的には、

  1. 硫黄酸化物と窒素酸化物を含んだ大都市近傍での大気汚染の実態の解明、
  2. 航空機による、2〜3日の輸送期間を経た汚染大気の立体的な把握、
  3. ガス・エアロゾルを含めた大気汚染物質の立体構造の解明、
  4. 中国国内のSO2、NOx、炭化水素の発生源インベントリー調査を行う。

これらの成果を取り入れたモデル解析により2,000〜3,000kmスケールの大陸規模広域大気汚染現象を解析し、その管理・制御の方策を提言する。

2)研究期間

平成13〜17年度(5年間)

3)研究計画

平成13年度は中国における観測地点を選定し、地上観測を開始するとともに、既存大気汚染モデルのチューニング、大気汚染モデルへの地形データ等のインプットを行う。発生源インベントリーデータを作成するためのエネルギー使用量等の県別データ収集を開始する。

平成14年度は大気汚染物質の多点集中同時観測を行い、中国におけるライダー観測を開始する。既存の大まかなインベントリーデータを用いた大気汚染モデルのテストラン、問題点の抽出、モデル改良を行う。中国の県別詳細発生源インベントリーの作成を継続する。

平成15年度は中国における大気汚染物質の多点集中同時観測と中国におけるライダー観測を継続し、さらに飛行機を用いた大気汚染物質の立体分布の観測を行う。大気汚染モデルへの詳細発生源インベントリーのインプットによる詳細解析と、地上観測データによる検証を行う。社会科学モデルを用いた発生量変遷要因の実証分析を行う。

平成16年度は、大気汚染モデルへの詳細発生源インベントリーのインプットによる詳細解析と、航空機観測データによる検証を進める。また、社会科学モデルから得られた発生量変化シナリオを取り入れて、大気汚染モデルにより大気汚染予測を行い、社会科学モデルを用いて、有効な発生源削減シナリオの策定を検討する。

平成17年度は、観測成果を取りまとめ、モデルによる解析を行って、広域大気汚染の管理・制御への提言を行う。

4)研究実施の背景

中国では現在もエネルギーの80%近くを石炭に頼っており、硫黄酸化物系の大気汚染が深刻であるが、経済発展とともに自動車の数が飛躍的に増加し、窒素酸化物を主因とする光化学大気汚染の深刻化も懸念されている。そのため、大気汚染現象の解明とその将来予測に基づく大陸規模の広域大気汚染の管理・制御は緊急に着手すべき課題である。従来の我が国における広域大気汚染の研究は、高々関東平野くらいの空間スケール(〜200km)のものであった。

また、大陸規模の大気汚染に関する研究は、北米や欧州等の冷涼な地域を対象に多く行われて来たが、温暖・多湿な地域における研究はこれまで十分になされていない。東アジアでは人口の密集、温暖・多湿な気候、モンスーンの存在、硫黄酸化物放出量が依然多い中での窒素酸化物放出量の上昇など、北米・欧州とは大きな違いがあり、地域の特性を考慮した解析が必要である。今後、インドや東南アジアなど高温下での広域大気汚染が懸念される地域にも適用することを考える上で、この地域での研究は不可欠である。

5)評価結果の概要

中国中南部という広大な地域を対象にした本研究に対しては、中国の内陸部における大気汚染状況の観測、温暖・多湿地域における光化学大気汚染の解明に対する期待が示された。一方、限られた予算の中で研究スタッフやカウンターパート等研究体制の整備への配慮やモデル開発、モニタリング計画の戦略の明確化、気候・気象学者の参加が必要との指摘を受けた。

6)対処方針

当初提案した4つのサブテーマを3つに絞り、地上観測とモデル、発生源とその将来予測の3つを主要なサブ課題とする。中国側のカウンターパートである中国国内の大気汚染研究に実績のある中国環境科学研究院との緊密な連携のもとに調査・研究を進めていく。航空機観測を5年間の研究期間中に1回とし、地上観測点も対象領域の東西端と中央付近の3カ所程度にする等、モニタリング計画を絞り込み、人材と予算を集中的に投じることとするとともに、中国をフィールドとする他の所内プロジェクトとも連携して人材の活用、情報の交換を図る。モデルについては、全く新たに開発するものではなく、既に北米で実績のあるモデルに対して、中国の地形等のデータをインプットするなど、この地域に適用出来るように必要な改良を行った上で計算を進める。また所内外の気候・気象の専門家の助言を受けられるよう、研究協力体制を整える。