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事後評価(平成12年4月)
海域保全のための浅海域における物質循環と水質浄化に関する研究

  • 更新日:2000年12月1日

1)研究の概要

近年、干潟等を含む浅海域の重要性が広く認識されてきたが、その重要性を定量的に評価する方法について十分な検討が進んでいない。本研究では、浅海域の機能や価値を評価する手法を検討し、浅海域の重要性を明らかにすることにより、その環境保全に資することを目的とした。このため、浅海域の一例として、東京湾の北部にある三番瀬及びその前面海域をフィールドに、水質・底生生物の調査を行い、浅海域の持つ食物連鎖による物質循環や水質浄化機能を定量的に把握するとともに、海域の社会的価値の評価を目的として住民意識調査を行った。

2)研究期間

平成8〜10年度(3年間)

3)研究成果

東京湾奥の中央部(水深12〜18メートル程度)では、夏期に底層が貧酸素化するため底生生物が極めて少ないが、浅海域では通年、底生生物が豊富に存在すること、また光合成による有機物生産量より、底生生物の呼吸やバクテリアの分解などによる消費量が上回っていることなど、浅海域の生態学的特徴を明らかにした。

従来から認識されてきた植物プランクトンから始まる食物連鎖に加え、従属栄養性渦鞭毛藻類による植物プランクトンの捕食、カイアシ類による従属栄養性渦鞭毛藻と繊毛虫の摂食などが物質循環において重要な役割を果たすことを明らかにした。さらに、「尾虫類」「夜光虫」の生態的役割について明らかにした。

三番瀬の底生生物の主役である二枚貝に着目し、その水平分布を明らかにするとともに、二枚貝、特にシオフキガイの呼吸速度、ろ過速度及び排泄速度を室内実験で求め、底生生物による水質浄化能力が大きいことを明らかにした。

また、大規模開発に対する住民意識を把握し、海域の社会的価値評価を検討する一助とするため、瀬戸大橋についての利便性、地域への影響、問題点などについて地域住民を対象に調べた結果、岡山県側と香川県側の調査地域間で、橋の便利さや橋の利用についての意識の相違を見た。

4)研究予算額

  • 総額約85,000,000円

5)研究実施の背景

浅海域、特に干潟は水産資源にとって重要なばかりでなく、自然環境保全上の役割や有機物分解速度の高さに見られる水質浄化機能の面などから、環境基本計画において自然海岸・干潟・藻場・浅海域の適正な保全、人工干潟・海浜などの適切な整備を推進するよう定められている。一方、現在まで、浅海域の機能評価手法の開発が不十分であったこと、開発による環境影響評価の手法も未確立であったことなどから、過去の開発は、環境への配慮が必ずしも十分でない。また、平成11年6月施行の「環境影響評価法」では、こうした浅海域の機能に関する評価だけでなく、公開により住民意見を求めるという手続きが定められた。

6)評価結果の概要

浅海域が持つ物質循環や水質浄化などの環境保全機能について詳細に検討された点が高く評価された。但し、今後、この成果をどの様に環境政策に展開するのか、その方向性が不明瞭であり、浅海域の機能をベネフィットとして環境影響評価の中で定量的に取り上げる手法を提案すべきとの指摘を受けた。また、住民意識調査を浅海域の社会的評価の一つとして取り扱った試みは評価されたが、その関連が未だ不明瞭であり、住民意識は社会情勢とともに変化するのでその推移に留意しつつ解析すべきとの指摘を受けた。

7)対処方針

浅海域の評価は、従来型の生物の現存量調査だけでなく、将来は、物質循環や水質浄化といった浅海域の機能の観点からの評価が、ますます重要になると思われ、本研究で得られた成果を、現在進行中の「沿岸域環境修復技術の生態系に与える影響及び修復効果に関する研究」の中で更に検討し、本研究で不十分であるとの指摘を受けた点などの改良も含め、より一層総合的な沿岸域の環境影響評価手法の開発研究を進展させていく。