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事後評価(平成12年4月)
微生物を用いた汚染土壌・地下水の浄化機構に関する研究

  • 更新日:2000年12月1日

1)研究の概要

全国各地の土壌より、浄化能を有する微生物の探索・分離を試み、高濃度のトリクロロエチレン(TCE)及びトリクロロエタン(TCA)分解菌の分離を行った。また、高濃度の水銀化合物を還元して水中より水銀を除去できる微生物を創生した。次いでこれら微生物の環境中での挙動を把握するため、迅速・高感度検出法の開発を行った。さらに、自然環境を模したフラスコ・カラム土壌系や土壌シミュレーター等を用いて、微生物の持つ浄化機能の定量化試験方法及びリスク評価方法の開発を行った。

2)研究期間

平成8〜10年度(3年間)

3)研究成果

全国各地の土壌のうち、TCE及びTCAを分解するTA5株をPCE汚染土壌から、TA27株をクリーニング工場周辺土壌から分離した(いずれもMycobacteriumに属する新菌株)。TA27株は高濃度のTCE(50mg/l)及びTCA(150mg/l)を分解し、TCEとTCAの複合汚染の土壌浄化に有効であることを示した。

また、メタン酸化細菌Methylocystis sp. M株のTCE分解に関与するメタンモノオキシゲナーゼ遺伝子を突き止め、全塩基配列を解読した。

さらに水銀浄化遺伝子を組み込むことにより高濃度の水銀(100mg/l)を浄化できる各種組換え微生物を作成し、遺伝子操作の有効性を示した。

また、遺伝子の構造解析の結果を用いて、ポリメラーゼ増幅反応(標的DNAを100万倍程度に複製)を利用した迅速かつ高感度の微生物計数法を開発した。

さらに、フラスコ及びカラムを用いて、微生物の浄化能の定量化方法の開発を行い、M株は50mg/lのTCEでも分解が可能であることを明らかにした。

ついで開発した土壌シミュレーターを用いて,M株は比較的土壌中での生残性が高い微生物であり、107菌数/g乾土壌の濃度においては、土壌微生物数や土壌酵素活性にほとんど影響を及ぼさないことが判明した。

4)研究予算額

  • 総額約106,000,000円

5)研究実施の背景

全国各地の土壌・地下水中から揮発性有機塩素化合物並びに重金属等が検出され大きな問題となっており、浄化対策として様々な物理化学的手法が用いられているが、これらの手法はコストが高く、根本的な分解・除去法とは言えない。このため、このような問題点を解決できる新しい技術として、微生物機能を活用した汚染環境を修復するバイオレメディエーション技術が注目されているが、その効果と安全性に関し不明な点が多い。

6)評価結果の概要

特定の環境汚染物質をターゲットとして、分解菌を新たに単離しただけでなく、その分解遺伝子を単離・解析した点や、安全性に関して多くの有益な成果を得て、環境庁のガイドライン作成に貢献したことに対して高い評価を受けた。さらに、バイオレメディエーションというユニークな環境浄化技術の開発に対して、遺伝子組換え菌だから使うのは良くないという非科学的な議論ではなく、正当な科学的見地から最も安全で効果が高い手法開発への期待を受けた。一方、さらに効率を高めること、遺伝子組換えでなく天然のままの微生物種の使用も視野に入れること、水銀回収の技術的問題点の解決などが、最終目標である実用化への近道との指摘を受けた。

7)対処方針

バイオレメディエーション技術の実用化に向けて、限定野外試験の実施も検討しつつ、浄化機能と安全性の評価に関する更なるデータの蓄積を進める。