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事後評価(平成11年5月)
化学物質の生態影響評価のためのバイオモニタリング手法の開発に関する研究

  • 更新日:1999年11月19日

1)研究の概要

環境は多種多様な化学物質で汚染され、その濃度も変動している。本研究では、予測困難な環境汚染が生態系に及ぼす影響を評価することを目的とし、水生生物に着目した常時監視手法を開発するとともに、その有効性を検討するため、茨城県内の桜川河畔に、「バイオモニタリング施設」を試験的に整備した。この施設内で、ウキクサなど数種の水草、ヌカエビ、二枚貝(ドブガイ、マシジミ)、メダカ、ゼブラフィッシュなどの試験生物を常時河川水に曝露し、その生物反応を常時監視することにより河川水の環境リスクを評価する手法の開発を試みた。

2)研究期間

平成7〜9年度(3年間)

3)研究成果

春に河川に流出する除草剤汚染により、ウキクサ等の水草類は著しい生長阻害を受けること、河川水連続曝露により、ヌカエビの死亡率が慢性的に徐々に高まる場合と、殺虫剤により急性的に数日以内に100%に達する場合があり、現実の河川でも感受性生物にとっては致死的な環境リスクが起こっていることが明らかとなった。さらに、より微量な化学物質の汚染に高感度で反応するヌカエビの運動量を指標としたバイオモニタリング手法を開発し、その有効性を示した。

また、二枚貝(ドブガイ、マシジミ)の生長変化や水管伸縮は、底質(泥)汚染を含めた水環境の総合的な影響を長期間モニタリングする指標として有効であることが判明した。

また、メダカやゼブラフィッシュを、水温や照明条件のコントロール下で河川水に連続曝露し、生長や繁殖に及ぼす影響の評価手法を検討した。ゼブラフィッシュでは雄で繁殖障害を示唆する結果が得られたが、モニタリング施設からの汚染防止措置を講じた上で、更に検討する必要があると認められた。

また、化学物質(特に除草剤)の一次生産者への影響を、藻類群集の耐性の獲得過程から評価した。除草剤汚染環境(実験水田・実河川)から単離培養した緑藻では、汚染前後の時期に単離培養しものに比べ、除草剤耐性を増した系統が見られ、除草剤汚染環境の指標性となり得ることを示した。

4)研究予算額

  • 総額約108,000,000円

5)研究実施の背景

個々の化学物質に対する生物試験のみでは、実際に環境中で進行する複合汚染による生態影響を評価できない。このため、現実の環境汚染が生態系に及ぼす影響を評価する手法の確立とこれに基づく効果的な環境保全施策が求められている。

6)評価結果の概要

「環境ホルモン」が大きく社会問題化するのに先がけ、化学物質の複合的な生態影響評価の手法として、従来の物理化学的な環境モニタリングに対し、生物反応を検出(モニタリング)する手法開発に取り組んだものとして、高く評価された。

また、今後、有害化学物質の濃度と生物反応の変動の関係を定式化する研究にも取り組み、諸外国の評価ガイドライン(生物種、モニタリング期間、データの分析法、評価手順等)に対し、日本独自の環境影響評価のあり方を提案することへの期待が示された。

また、本研究の成果は、現実の環境行政に反映されることにより、その価値が高まるとして、実用化を目指し、モニタリング施設の改善や更なる研究展開を図り、成果を適切に情報提供していく必要性と、バイオモニタリングに用いる生物の維持・分譲等の体制整備の必要性についても指摘を受けた。

7)対処方針

具体的な環境行政へ反映されるよう、実用化に向けてモニタリング手法について更に検討を進める。特に、農薬類だけでなく、その他の化学物質も含めて濃度〜生物反応の因果関係を明らかにすることを目指す。

また、報告書の公表、学会での発表等を通じて積極的に情報提供を行うとともに、試験生物の維持・分譲等の体制整備についても検討していく。なお、微量化学物質の魚類等への繁殖影響を長期モニタリング可能な施設とするため、モニタリング施設からの汚染防止措置を講じた。