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事後評価(平成11年5月)
ディーゼル排気による慢性呼吸器疾患発症機序の解明とリスク評価に関する研究

  • 更新日:1999年11月19日

1)研究の概要

近年、都市部の大気汚染の元凶とみられているディーゼル排気(DE)あるいはディーゼル排気微粒子(DEP)が気管支ぜん息、アレルギー性鼻炎、肺がんなどの慢性呼吸器疾患を引き起こすものかどうかを研究した。また、浮遊粒子状物質(DEP)の個人曝露量を調べ、大気汚染物質の中で何がヒトの呼吸器疾患の発症に最も強く影響しているかを推定することを試みた。

2)研究期間

平成5〜9年度(5年間)

3)研究成果

ディーゼル排気(DE)あるいはディーゼル排気微粒子(DEP)ともに実験動物に気管支ぜん息、アレルギー性鼻炎あるいは自己免疫疾患など様々なアレルギー性疾患を引き起こすことを実証した。また、気管支ぜん息等の発症機序はヒトで知られている機序と同じであったことから、ヒトでもDEあるいはDEPで気管支ぜん息等が起こりうることを示唆した。特に、DEによるぜん息は、ハウスダストなどのアレルゲンとの共存下でのみ起こることも判明した。

また、DEPの影響は従来の変異原性等から述べられてきた発がんメカニズムとは全く異なって、活性酸素により生じることを証明した。これは、発がん率とDNAの活性酸素による損傷物質(8HdG)との間に極めて高い相関性があること、活性酸素を消去する食品成分によって発がん率が低下することなどから支持された。

さらに、DEがマウスの精子数の減少をもたらし、DEに環境ホルモン様の作用があることが認められた。その原因物質の究明のため、DEP中のダイオキシン濃度やAh受容体と容易に結合して生殖異常を引き起こすと考えられている多環芳香族炭化水素類の測定を行ったところ、ダイオキシン濃度は極めて低く、生殖に影響しているのは後者と推測された。

また、浮遊粒子状物質(SPM)とNO2のヒトの個人曝露量調査を行った結果、外気の汚染物質の中でPM2.5が個人曝露量と最も高い相関を示した。NO2は外気濃度と室内濃度あるいは外気濃度と個人曝露量との間には全相関はなく、室内NO2は台所に由来すること等が判明した。これらのことから、ヒトの大気汚染の呼吸器疾患に及ぼす影響はNO2よりPM2.5が関与する可能性が高いことが示唆された。

4)研究予算額

  • 総額約165,000,000円

5)研究実施の背景

近年、都市部の大気環境が悪化しており、また気管支ぜん息患者の増加が報告され、この両者間の因果関係の有無が問題となっている。このため、都市大気汚染の主要部分を占めているDEあるいはDEPが気管支ぜん息をはじめとするアレルギー性呼吸器疾患あるいは肺がん等を引き起こしうるか否かを実験的に調べることが求められている。

6)評価結果の概要

本研究は、ディーゼル排気による人の健康影響に着目した点において、環境研究としてのオリジナリティとともに、環境政策の推進の上でも重要であり、ディーゼル排気微粒子(DEP)及びディーゼル排気ガス(DE)の呼吸器疾患発症のメカニズム解明に一定の手がかりを与えたものとして、高い評価を受けた。

一方、実験動物に曝露したディーゼル排気中のガス状物質(NO、NO2、SO2、CO2)の濃度等から判断して、DEPのヒトへの健康影響を科学的に説明するためには、今回のデータでは充分とは言えず、更なる科学的データの蓄積が必要であり、また、実験に使用したディーゼル・エンジンの運転条件に関する詳細な記録が重要となる点にも充分な注意を払うべきとの指摘を受けた。

また、今後は、ディーゼル排気の詳細な同定についての科学的な追求とともに、浮遊粒子状物質(SPM)の発生源寄与率などに関する研究を行う必要性と、ディーゼル排気に係わる総合的なリスク・アセスメントを実現するための、新たな研究計画に基づく研究提案への期待が示された。さらに、本研究において示されたディーゼル排気の内分泌撹乱作用の可能性の問題についても、今後の研究展開が必要とされた。

7)対処方針

ディーゼル排気の発がんに関するリスク・アセスメントはかなり行われているが、ヒトへの外挿の係数の使い方次第で6グループの研究者間に80倍もの差が報告されており、実験的研究だけからリスク・アセスメントを行うことは、学問の発展段階としてなお困難な状態にあり、疫学的研究から得られたリスク・アセスメントと比較検討しながら進める必要がある。

また、ディーゼル排気の詳細な同定と粒子状物質の発生源寄与率の研究については、本研究においては医学、生物学からのアプローチを基本としたが、化学物質の詳細な同定や発生源寄与率の解析には化学的な見地からのアプローチが必要である。

なお、本研究は、近年呼吸器・循環器系障害によるヒトの死亡率とPM2.5との間に極めて高い相関性があることが疫学的研究から明らかになってきたことから、「空中浮遊微粒子(PM2.5)の心肺循環器系に及ぼす傷害作用機序の解明に関する実験的研究」として発展的に継続する。