野生生物を保全するためには遺伝子に関する情報が欠かせません。野生生物の生存には遺伝子の多様性が重要であると言われていますが、多様性を測るために遺伝マーカーが使われます。私たちが使っている遺伝マーカーには、アロザイム酵素タンパク・ミトコンドリアDNA遺伝子・マイクロサテライトDNA遺伝子の3種類があります。

 以上の遺伝マーカーのうち、初めの2種類は1つのマーカーがさまざまな生物種に対して使えますが、マイクロサテライト遺伝子は個々の生物種に対する固有性が高くなります。マイクロサテライト遺伝子は[−CA−]や[−CAG−]のような塩基配列が繰返し並んでいる部分です。マーカーにするためにはこのような部分を個々の種について見つける必要があります。具体的には、細胞に含まれるDNAを数百塩基程度に短く切断したものを遺伝子組換え技術を用いて増幅し、その中から繰返し配列を含むものを拾い出します。遺伝子の塩基配列は大変長いので、その中から見つけるのは根気の要る作業です。

(青線:雄、赤線:雌、線が太い程、遺伝的類似度が高い)
霞ヶ浦周辺のオオヨシキリのヨシ原間の遺伝的類似度

 それでは、遺伝マーカーは野生生物保全のためにどのように使われるのでしょうか。オオヨシキリは霞ヶ浦周辺のヨシ原で繁殖する夏鳥ですが、性染色体上のマイクロサテライト遺伝子をマーカーとしてヨシ原間の遺伝的類似度をオスとメスについて別々に求めました。その結果、オスは自らの生まれた場所の近くで繁殖するのに対して、メスは数十 km離れた場所で繁殖する事が推測されました。このような生物の動きについての情報は保全を図る上で貴重です。

 侵入生物による生物多様性の減少を防ぐためにも遺伝マーカーが活用されています。侵入生物は、人や物の動きが地球規模に拡がるにつれて、世界各地で増加しています。近年、我が国でも様々な外国産昆虫が生物資材あるいはペットとして大量に輸入されていますが、その例として、ハウストマト授粉用にヨーロッパから輸入されるセイヨウオオマルハナバチやペット用に東南アジアなどから輸入されるクワガタ類があります。これらの虫が野外で繁殖して、交雑によって日本産昆虫の遺伝子組成を攪乱しないか、また、外国産の寄生生物を持ち込んでいないか、が懸念されるので調査を進めています。この調査には、外国産昆虫や寄生生物に特有の遺伝子をミトコンドリア遺伝子やマイクロサテライト遺伝子から選び出し遺伝マーカーとして利用しています。適当なマーカーを選択できれば有効な道具となります。

日本産オオマルハナバチ女王バチと交尾するセイヨウオオマルハナバチ雄

日本産ヒラタクワガタ雌に交尾を迫るマレーシア産スマトラヒラタクワガタ雄

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