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水・土壌・地下環境の保全をめざして

論評

須藤 隆一

 水土壌圏環境部は,水環境質,水環境工学,土壌環境,地下環境の4研究室で発足したが,旧水質土壌環境部の7室(主任研究官を含む)からみると大分縮小された。しかしながら,対象とする環境の場は,海,湖,河川,地下水,土壌,地盤と環境のほとんどを含み以前と変わらない。このうち,水環境にかかわる場を対象にした研究は,総合部門においても実施されるので,旧水質土壌環境部の職員の半数は総合部門に配属されている。

 わが部に係わりのある環境問題は,従来から未解決のまま残されているものを含め,ますます多様化,拡大化してきている。水環境では,閉鎖性水域の富栄養化がますます深刻化し,赤潮,青潮,アオコ,内部生産の増大といった問題が依然として大きな問題である。また生活雑排水や小規模事業場排水等による都市中小河川の汚濁も著しく,BODが10mg/l以上を超えるものが多い。土壌環境では,有害化学物質による市街地土壌汚染,ゴルフ場からの農薬汚染などが新たに注目されている。廃棄物処分も土壌汚染と密接に関連している。地下環境のうち,地盤沈下は全般的に沈静化傾向にあるものの,局所的には著しい沈下が認められているところもある。また,大深度地下の開発が具体化されており,環境への影響が憂慮されている。地下水では,トリクロロエチレン等による汚染が拡大する傾向にある。また地下水への硝酸の蓄積も問題になっている。ここに例示した問題のいくつかは総合部門の研究課題として取り上げられているので,それらは基礎的な面を担当して総合部門を支援するつもりである。しかし,土壌及び地下環境については,総合部門においてこれを直接取り上げているプロジェクトがないので,現象解明や汚濁物質の挙動のような基礎的研究から,保全及び対策手法に係わる実務研究までを一貫して遂行することにしている。

 わが部は,先に述べたように多様な場を守備範囲とし,かつ一つの場に対してもミクロ・マクロあるいは生物的・化学的・物理的といった異なった視点からのアプローチが要求されているので,これに可能な限り対応できるようにしなければならない。そうはいっても限られた研究者がいずれの問題についても研究を進めることには無理がある。これまでの専門に関わる研究を深めることはもちろん必要であるが,広い視野と高い視点に立ってクロスメディアとしてそれぞれの研究をとらえるよう努力し,守備範囲の拡大を図るつもりである。従来の水質研究者あるいは土壌研究者から環境研究者へと脱皮し,全員がいつでも総合部門の研究プロジェクトに積極的に参画できる体制づくりができればと願っている。

 ついで,わが部が当面する2,3の問題について触れる。第一は,近隣諸国および発展途上国における水環境問題への研究支援および研究協力である。1990年当初から韓国国立環境研究院との間に,漢江流域の水質保全対策の研究協力プロジェクトがはじめられている。これはソウル首都圏1,200万人の水道原水を供給している漢江中流域にある八堂ダムの富栄養化防止対策を中心としたものである。このほか中国をはじめ多くの国から水質汚濁防止の研究協力が要請されている。これらの期待に少しでも応え,国際的にも水環境保全の推進に貢献したいと考えている。第二は,霞ケ浦湖畔に設置されている臨湖実験施設の効率的活用である。これまで,霞ケ浦の水質や生物の研究を行うフィールドステーションとしての機能を十分果たしてきたが,スペースにも多少の余裕があるので,地方自治体および近隣諸国との共同研究施設として拡充させたい。

 身近な場の環境保全をめざして研究に取り組むわが部に一層の御支援をお願いする。

(すどう りゅういち,水土壌圏環境部長)