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新しい時代への発展

巻頭言

前所長 不破 敬一郎

ふわけいいちろうの写真

 十八世紀後半,英国に興った産業革命の中に,人類が招いた公害の原点があることは良く知られている。新興工業都市マンチェスターに新たに出現した公害の街とその中に住むみじめな労働者の生活を見た F.エンゲルスが,後に K.マルクスを助けて共産党宣言を起草した。その原理に基づいて形成された共産主義国家群が昨年から今年にかけて,音をたててめざましい変革をとげつつある。歴史の流れは,我々が予想するよりも,ずっと早い速度で動いているのであろう。

 今世紀後半に入り,急速に経済成長をとげた日本の社会に数多の公害事象が続発したのは,今から考えると当然であった。このような事態に対処するため,環境庁が設置され,ついで我々の国立公害研究所がいわば急遽発足したのはつい,この間のような気がするけれども,数えて見ると16年の歳月がそれから経過した。今まで経験のない社会的要請に答えるための新研究所であったのは勿論であるけれども,同時に広範かつ,底の深い学際的環境科学に対して基礎的,根本的に研究を進めることが要求された。若い研究者諸君にとって,この両面の使命を果たすことは必ずしも容易ではなかったが,全員一致して最大の努力を続けた。

 上記の使命は,今もって変っていない。そしてこの十余年間に積み重ねられた研究者の努力は着実に実り,世の期待は益々大きくなっている。殊に昨今の地球規模環境問題に対する取り組みにおいては,研究者の純粋な基礎研究がそのまま,社会に対する貢献につながるという例が極めて多いのが特徴である。この点から見ても,歴史の流れの早い変化を痛感せざるを得ない。

 名称を国立環境研究所に改め,地球環境研究センター,環境情報センター,環境研修センターの三センターを備えて,今夏を期して再出発の準備が進められているのを見ると,時の流れに伴う歴史の必然性と共に限りない将来に対する豊かな展望を思わせられる。所員諸兄姉の益々のご健闘を期待すると共に,外部のすべての皆様の今まで以上のご理解とお励ましを研究所に対してお寄せ下さるようお願い申し上げたい。

(ふわ けいいちろう)