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環境リスク研究の展開

巻頭言

副所長 小泉 明

こいずみあきらの写真

 環境研究の動向として,リスク評価・リスク管理に向けての関心の高まりが,いま特に注目をひく。本年9月には,国内はもとより,米国EPAなどの国外の専門家を交えたワークショップを初めて国公研で開催した。また10月に産業医科大学(北九州市)で開催された第1回汎太平洋協同シンポジウム・第9回産業医科大学国際シンポジウムでは,“リスクアセスメントとその管理”をテーマとして,国公研不和所長の基調講演に続いて,5日間にわたっての討議が繰り広げられた。

 しかし,環境関連研究でリスク・アプローチが試みられたのは必ずしも最近のことではない。たとえば電離放射線に関しては,身体影響と遺伝影響の両面にわたってのリスクが許容線量の設定などの放射線管理に直結した研究課題として早くから取り上げられた。食品保健の分野で,食品添加物の発癌性リスクの量反応関係をめぐる数理モデルが開発されたのも新しいことではない。

 SCOPE(The Scientific Committee on Problems of the Environment)が環境リスクの評価に関するプロジェクト研究の報告を刊行したのは1978年であった。ここではリスク評価の要素として,Hazard identification,Risk estimation および Social evaluation を取り上げ,例示による検討を加えている。また引き続いて研究の展開が1980年に公表されている。

 環境リスク評価をリスク管理と一貫させて体系的に取り上げ発展させてきた最近のEPAでの一連の研究活動には注目をひくものがあり,冒頭に述べたワークショップとシンポジウムでその大要を知ることができた。

 もっとも,EPAの活動はあくまでも米国の環境研究・環境政策を指向するものであり,環境リスク研究にそれぞれの国での独自の展開があるのは当然であり,また望ましいことである。

 環境問題が新しい段階にさしかかったいま,環境リスク研究にも新しい展開が期待される。