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21世紀に向けたわが国の環境問題の長期予測

特別研究活動の紹介

森田 恒幸

 環境政策や環境研究の長期的な展開方向を見出す際に,「予測」は不可欠な作業である。将来に向けていろいろな可能性を見定めて,はじめて展開方向が定まってくる。

 産業のソフト化,人口の都市集中,技術革新,高度情報化,国民の価値意識の変化,国際交流の活発化等,21世紀に向けたわが国の社会経済の基本潮流は,環境問題に大きなインパクトを与えようとしている。このインパクトの全容を予測するため,昭和60年度から特別研究「環境指標を用いた都市及び自然環境等の変動予測手法開発に関する総合解析研究」を実施してきたが,この度,予定の研究活動を終了したので報告する。

 研究はまず,21世紀に向けての日本社会のトレンドを分析し,図に示すように13の基本潮流を同定した。そして,この基本潮流が七つの分野の環境問題に及ぼすインパクトを,合計100近いシナリオに整理した。次いで,デルファイ法という多数の専門家の知見を活用する手法によって予測を行い,これらのシナリオの確からしさを評価した。さらに,特に重要なシナリオについては,コンピュータシミュレーションによって詳細に検討した。

 こうして得られた予測結果をまとめて,表に示す。その要旨は,「21世紀初頭に向けて現在のまま進めば,交通公害問題と廃棄物問題は明確に悪化の方向,有害化学物質問題と自然保護も悪化する可能性が高い。水質汚濁問題は方向が読みにくく,都市アメニティ問題はやや改善,環境保全への市民参加は活性化の方向に推移する可能性が高い。」というものであった。さらにこの予測結果を踏まえて,予測を左右する不確実な要因や環境政策の展開方向についても検討した。

 今後,状況変化に応じてこの予測結果を見直す必要があるが,この場合には,本研究の過程で開発した長期予測支援システムが利用できる。1000系列もの数値データを収録したデータベース,上記の予測シナリオを全て収録した知識ベース,予測モデルづくりを助ける計算機システム,各種の予測シミュレーター等,これらの支援システムは政策立案に大いに役立つと期待している。

(もりた つねゆき,総合解析部環境経済研究室長)

図  予測シナリオの概念図
表  各分野の長期予測結果のまとめ