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環境科学の研究には複眼的視野をもった専門バカが必要です

松下 秀鶴

 環境科学の歴史は、産業の発展や社会構造の変遷の裏面史としての一面を有しているように思われる。これは、有史以来、人間の活動が環境に何らかのインパクトを与えつづけてきた事と密接に関係している。特に、近年、産業や社会の構造は大きく変貌しつつあり、環境や健康に対する意識の高まりと相まって、環境問題は国際政治の場に於いても重要な議題となりつつある。そしてこのような変化が、逆に、環境科学の在り方や重点研究領域の設定などに大きな影響を及ぼすようになってきている。

 このような影響は、化学環境の場においても強く感じられる。国公研が設立された15年前、Chemical Abstractsに登録された化合物の数は200万種類前後だったように思う。これが数年前には700万種程度となり、現在では約900万種類にも及んでいる。このような化学物質の急激な増大は、一つには化学計測法の発達によって既存の環境化学物質が数多く検出・同定されたことにもよるが、新しい技術や産業の発展に伴って新しい化合物が続々と出現してきたことに基づいている。そしてこの様な事実を反映して、化学物質に係わる環境問題は、個人、近隣、都市、広域都市圏レベルの問題だけでなく、多国間、地球規模レベルの問題にまで急速に拡がり、解決すべき問題も著しく多様化しつつある。

 このため、計測技術分野の研究課題も、従来からの諸研究のほかに、健康影響評価のためのよりきめ細かな個人レベルの被暴計測手法、各種化学物質の環境中での存在様式や地球規模汚染状況を正確に計測する手法、生物活性と化学計測との併用による有害物質の簡易検出法などの開発など、種々の手法開発が要求されるに至っている。国際協同研究における計測法の規格化や精度管理手法の充実も重要な課題となりつつある。

 このような研究は、どれも、思いつきや片手間で出来るものではない。高度の専門性、独創性のほかに、“バカ”と名がつけられるほどの仕事への打込みが必要である。これと同時に、環境科学は数多くの学問分野の密接な連携の上に成り立っており、また、社会の変化に伴って新たな課題が生まれつづけることも十分考慮に入れて研究を進める必要がある。つまり、環境科学の進歩のためには、複眼的視野に立った専門バカとなることが要求されるように思われる。

(まつしたひでつる、計測技術部長)