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2018年6月29日

社会協働型の災害環境研究-環境研究の新たな展開を目指して-

特集 福島で進めている社会協働型研究

大原 利眞

 2011年3月に発生した東日本大震災と東京電力福島第一原子力発電所(福島原発)事故から7年が過ぎました。福島県内では環境放射能汚染からの環境回復が徐々に進み、多くの地域で避難指示が解除されるとともに、汚染廃棄物の中間貯蔵施設が整備されつつあります。福島原発の廃炉事業に係わる動きも活発化しています。一方、農林水産物の風評被害、避難指示解除区域への住民帰還の遅れ、廃炉作業に伴う周辺環境への影響の懸念などなど、新たな問題・課題も発生しています。日本全体に目を転じると、豪雨や地震などの大規模災害が多発して、災害廃棄物や環境汚染への対応等の環境面での取組の重要性が増しています。

 国立環境研究所では、被災地の環境回復・創生に貢献する調査研究に発災直後から取組んできました(国立環境研究所ニュース34巻2号参照)。現在は、放射能汚染からの環境回復に貢献する「環境回復研究」、被災地の持続可能な発展を目指して環境配慮型の復興まちづくりを支援する「環境創生研究」、そして東日本大震災等の検証や災害時の緊急対応などで得られた知見を一般化・体系化することによって将来の災害に環境面から備える「災害環境マネジメント研究」を実施しています。2016年4月には福島県三春町に整備された福島県環境創造センターに国立環境研究所福島支部を開設し、ここを現地拠点として、環境省、福島県などの地元自治体、日本原子力研究開発機構などの研究機関や大学、民間機関と連携して調査研究に取組んでいます(国立環境研究所ニュース36巻2号参照)。

 このような調査研究を進める上で、被災地を始めとする社会との協働が重要です。被災地における問題解決に貢献する、あるいは災害に備えた調査研究を進めるためには、その地域の状況を把握し、地域社会を構成する方々と情報交換・意見交換しつつ、問題解決策を一緒に考え、その実施を科学面から支援していく社会協働型の研究スタイルが求められます。かつて公害問題発生時には、環境研究に携わる多くの先達が住民と協働して調査研究に取組んだことを考えると、決して新しい研究スタイルではなく、原点に立ち戻るということかもしれません。このような研究の考え方や手法は環境研究分野全体に必要ですが、災害環境研究においてはとりわけ重要です。私たちは環境回復、環境創生、災害環境マネジメントのそれぞれの研究において、地域の自治体やNPO、住民、企業などと結びついた様々な調査研究に取組んでいます。

 本特集では、代表的な社会協働型研究として3つの取組について紹介しています。最初の「『環境創生型まちづくり』に向けた総合的な分析と計画の支援」(五味 馨)では、環境に配慮した復興まちづくりを支援することを目指して、自治体や民間企業と協働して進めている、地域に適した情報・エネルギーシステムに関する研究について紹介しています。2番目の「生活環境中の原発事故由来の放射性セシウムの調査」(高木麻衣)は、大部分の地域で避難指示が解除された福島県飯舘村において、住民や自治体と一緒に取組んでいる環境放射能汚染のモニタリング調査を取り上げています。3番目の「自治体との協働による災害廃棄物に係る研修手法の開発」(多島 良)では、将来の発生が予想される災害への備えとしての資源循環・廃棄物マネジメントの強靭化を目指して、全国の自治体等と協働して取組んでいる災害廃棄物管理を対象とした人材育成研究について紹介しています。更に、「環境問題基礎知識」では「環境創生研究キーワード」として、1番目の記事で紹介しているような「環境創生研究」分野で使用されるキーワードを解説しています。

 私たちは、これらの社会協働型の災害環境研究を更に進めることにより、被災地における環境回復と創生に貢献するとともに、得られた知見を一般化・体系化して、社会と協働して今後の災害に備える新たな環境研究分野「災害環境学」の構築を目指しています。本研究所で進める災害環境研究に引き続き御期待下さい。

(おおはら としまさ、福島支部 研究総括)

執筆者プロフィール

筆者の大原利眞

災害環境研究をテーマに執筆するのは3度目ですが、そのたびに本欄で我が家の老犬とのジョギングについて書いてきました。3年前には毎週末の走行距離が20~30kmでしたが、昨年には数kmとなり、この頃はついに走れなくなってしまいました。