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2017年10月31日

ナノ材料と廃棄物

特集 資源循環分野における次世代基盤技術の開発
【環境問題基礎知識】

山本 貴士

 私たちの日々の豊かな生活は、様々な工業材料により支えられています。その中で、近年注目を集めている材料の一つにナノ材料があります。ナノ材料の定義は国や機関により様々ですが、環境省の「工業用ナノ材料に関する環境影響防止ガイドライン」(2009)によると、「3つの次元(縦、横、高さ)のいずれかがナノスケール(1 nmから100 nm)の物質及びその凝集物であり、工業的使用を目的に意図的に製造されたもの」とされています。身近なナノ材料には、紫外線をブロックする機能を持ち日焼け止めなどの化粧品に使用される二酸化チタンや酸化亜鉛、強い抗菌作用を持ち生活用品などに使用されるナノ銀などがあります。また、高い引っ張り強度や優れた導電性を有するカーボンナノチューブ(CNT)は、ニュースや新聞などでよく見聞きするナノ材料です。近年問題となっているPM2.5は直径2.5 μm以下の大気浮遊粒子状物質を指しますが、2.5 μmは2500 nmですから、ナノ材料はPM2.5よりも微小であることになります。ナノ物質の例として、透過型電子顕微鏡(TEM)で撮影した酸化アルミニウムのナノ粒子を写真1に示します。左下のスケールバーと比較すると、直径100 nmよりも小さい粒子が多数存在することが分かります。二酸化チタンや酸化亜鉛、銀のナノ粒子は写真1のような球状ですが、CNTはその名前の通り長い繊維状の粒子です。

写真1 酸化アルミニウムナノ粒子のTEM画像

 ナノ材料の健康や環境への影響については分かっていないことも多く、現在精力的に研究が進められているところです。ナノ材料の健康影響は、その化学的組成によるものだけでなく、サイズの小ささや表面積の大きさといったナノスケールであることによるものとの複合的なものです。CNTはその繊維状の形態がアスベストに類似していることから、特に関心を払われているナノ材料の一つであり、実験動物に用量依存的に中皮腫を引き起こすことが確認されています。IARC(国際がん研究機関)は、多層CNTの一種であるMWCNT-7の発がん性について、グループ2B(ヒトに対する発がん性が疑われる)に分類しています。

 日本国内におけるナノ材料の使用の状況については、先出の「工業用ナノ材料に関する環境影響防止ガイドライン」では2006年の使用量として、カーボンブラックやシリカ、二酸化チタン、ニッケルが年間1000トン以上、酸化アルミニウムや酸化亜鉛、モンモリロナイト、顔料やアクリル微粒子が年間100~1000トン、多層CNT、カーボンナノファイバー、ナノ銀、デンドリマー、ポリスチレンが年間10~100トン、酸化セリウムやフラーレンが1~10トンと取りまとめられていました。これを最近(2015年)の国内需要と比較すると、二酸化チタンが約1250トンから957トン、酸化亜鉛が約480トンから595トンとほぼ横ばい、多層CNTが約60トンから100トン、ナノ銀が約50トンから230トンと増加、半導体関連の研磨剤として用いられる酸化セリウムは約2~3トンから約290トンと著しく増加しています。主なナノ材料の使用量の推移について、表1にまとめました。

表1 ナノ材料の2006年及び2015年の国内使用量

※「工業用ナノ材料に関する環境影響防止ガイドライン(平成21年3月)」(環境省、平成21年3月)に掲載の表を改変。2015年の国内使用量は「2016年微粉体市場の現状と将来展望」(富士キメラ総研、2016)より引用しました。

 このような、ナノ材料の使用の拡大とともに、ナノ材料自体やそれを含む製品の廃棄物の発生も同様に増加することが見込まれます。こうした廃棄物の適正な管理及び処理処分は、ナノ材料の環境放出を低減する上で重要な課題です。ナノ材料の製造現場では、曝露防止対策として局所排気装置の設置や保護具の着用、また一部の事業所では全体換気装置の設置も行われています。これにより、作業環境中や一般環境へのナノ材料の飛散・放出は制御されていますが、排気・換気装置に回収されたナノ材料を含む粉じんやフィルター、保護具は産業廃棄物として排出されます。また、製造現場からの排水は、処理設備においてナノ材料を凝集沈殿させ排水から汚泥として除去し、汚泥は産業廃棄物として排出されます。製品使用段階でのナノ材料の放出については、水系への放出と含有製品の廃棄の2つの経路が考えられます。前者は主に化粧品中に使用されるナノ材料であり、入浴や洗濯により生活排水として下水処理施設に流入し、一部は汚泥として回収されます。後者はプラスチック製品などに添加されるナノ材料です。CNTを含む音響製品やゴルフクラブからは、その使用時にCNTは放出されなかったとする研究例があります。従って、これらの製品は寿命を全うした後にナノ材料を含んだままで一般廃棄物として排出されることになります。

 一般廃棄物や産業廃棄物の可燃物や一部の下水処理汚泥は焼却されます。また、不燃物や焼却残渣(ばいじん、燃え殻)、一部の汚泥は埋立処分場に埋設されます。従って、廃棄物処理過程からのナノ材料の環境放出経路は、一つは焼却排ガスからの環境大気への移行、もう一つは埋立処分場浸出水からの水系への移行となります。日本国内では、廃棄物焼却炉はダイオキシン類対策のため高温(850℃、2秒間)で運転されています。CNTなどの炭素系ナノ材料はこの温度では分解する可能性が高いと考えられていますが、一部の研究ではCNTは焼却時に完全に分解しないとするものもあり、より詳細に検討を進めてゆく必要があります。一方、無機系ナノ材料は焼却では分解せず、一部は燃え殻中に残存し、残りは焼却排ガス中のばいじんに移行すると考えられており、ナノ材料を含むばいじんを焼却排ガスから有効に分離する設備が必要となります。埋立処分場に埋設された不燃物や焼却残渣に含まれるナノ材料は水系へ移行する可能性があり、廃棄物や焼却残渣の溶出液や埋立処分場浸出液をTEMにより観察し、ナノ粒子を検出したとする研究例もあります。

 廃棄物処理過程でのナノ材料の挙動に関する研究は端緒についたところであり、今後、廃棄物焼却施設や埋立処分場での実データの取得を進めていくとともに、複雑な媒体中のナノ材料を効率よく測定できる手法も合わせて開発していきたいと考えています。

(やまもと たかし、資源循環・廃棄物研究センター 基盤技術・物質管理研究室 主任研究員)
 

執筆者プロフィール:

年齢が大台に乗りました。健康のために山歩きを再開し、最近も木曽駒・宝剣岳に登ってきましたが、高山の紫外線を侮り、ひどい目に遭いました。面倒がらずに日焼け止めを使用すべきだったと後悔しています。

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