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2017年8月31日

温室効果ガス排出量の削減の進捗を評価する-グローバルとローカルー

特集  マルチスケール温室効果ガス観測

向井 人史

 パリ協定からアメリカが離脱するということを宣言しています。アメリカは、現在温室効果ガスの排出量が世界で2番目に大きい国です。二酸化炭素だけで言うと世界の15%程度の排出寄与があるとされています(2014、CDIACデータベース)。もし、二酸化炭素を含む温室効果ガス(GHG)の削減が世界で適切に行われないとすると、現在の温暖化シミュレーションの予測では地球の平均気温上昇は工業化が始まってきた19世紀半ば以来2℃(パリ協定の目標)を超え、より大きな自然変化、一次産業の継続困難や気象災害などの影響を各地で受ける可能性が高まると考えられています。この2℃目標(もしくは1.5℃目標)は、パリ協定で合意された世界共通の長期目標として産業革命後の気温上昇を2℃以内(もしくは1.5℃)に抑えるものであり、2100年ごろまでの温室効果ガスの排出量を実質ゼロにすることを含んでいます。

 従って、もし、アメリカだけが今の排出量をずっと出し続けるならば、他の全世界の国が排出量ゼロにした場合でも、2℃目標は非常に困難になると考えられます。 

 2016年度から開始された低炭素研究プログラムのプロジェクト1(PJ1)「マルチスケールGHG変動評価システム構築と緩和策評価に関する研究」は、グローバルなGHG等の排出量を捉えることに加えて、今後パリ協定などで排出量削減(緩和策)を行っていくに際し、都市や国、地域レベル(つまりローカルなスケール)での排出量を観測から評価していくという目標を持っています(シリーズ研究プログラムの紹介を参照)。パリ協定では、グローバルには実質のGHG排出量をゼロに最終的に抑えていくという内容が採択されてはいるものの、そこに至る緩和策の実行計画はそれぞれの国によって異なっています。例えば、日本ではまず2030年に2013年を基準として、26%のGHGの削減を計画しています。アメリカにおいてもパリ協定から離脱するかもしれないということがあったとしても、何らかの対策は打つかもしれません。

 温暖化対策は、大きくはエネルギーや産業、商業、家庭などの各分野においてなされますが、例えば日本では地域ごとに特色あるGHG排出量削減計画が作られて、緩和策が推進されてきています。このような場合、日本で言うと東京大都市圏のような排出寄与の大きな都市域での排出削減実態がどのようであるかを客観的に評価していくことが重要になってきます。本プロジェクトでは、GHG排出削減の実態を単に紙の上で統計量から推定するだけではなく、実際の排出量削減効果を大気のGHG濃度レベルや変動の変化を観測することで評価していくことを含んでいます。実のところ、これはそう簡単ではないのですが、そういう評価のための観測技術や評価技術の開発や観測点の追加が検討されています。これまで、本研究所では、地上、海洋上、航空機、衛星など各種のプラットフォームを駆使してグローバルな観測が行われてきましたが、今後はより一層ローカルスケールの観測による地域的排出量の把握のための取り組みの充実が重要になってきたということです。例えば、本プロジェクトでの東京スカイツリーにおける東京での観測の開始などは、そういった新たな目標に向かって進むための布石となっています。

 一方、アジアにおいては中国、インドネシア、インドなど急激な発展を遂げている国があり、それによりGHGの排出量は急増し、グローバルなGHG収支に大きく影響しています。そういった国々も今後GHG緩和策は実行されていくことになりますが、そういった各地域や国、また大都市などでの、GHG排出量そのものやその変化(増加または減少)の精度を高く求める観測システムの構築が重要です(インドでの観測については調査研究日誌を参照)。各国の地域特性に合ったGHG発生量観測技術を開発しその実態を捉えていくことは、国際的に緩和策実施の評価の透明性確保にもつながるものと考えています。

 また同時に、気候変動によって引き起こされる自然の変動や人間活動の変化(温暖化影響や適応)が、二酸化炭素のみならず気候に関わる大気質(オゾン、エアロゾル、一酸化二窒素、メタン等)の変化にどのようにかかわっていくのかといったフィードバック系を押さえていくことが、今後より重要になってくると思われます。例えば、気温上昇により高緯度にある凍土が溶けてメタンなどの大量放出が起こるのではといった懸念があります(メタンのグローバル収支については環境問題基礎知識を参照)。また、我々が2℃目標に対してうまく排出量コントロールができない場合は、海洋や陸域自然生態系の変化がおこり、種の絶滅や森林減少など現在の生態系サービスが維持できないことなどが予想されています。また、自然界における生態系機能の変化は炭素循環の変化とつながるため、より強い緩和策を打つ必要に迫られる可能性もあります(研究ノート「地球温暖化で土壌から排出される二酸化炭素の量がどれほど増えるのか」参照)。しかし、そういった温暖化影響による種々の過程を通した大気環境への影響などは現在予測の不確実性が高く、現状の把握の観測を含め今後影響調査のための研究展開が必要です。

 本プロジェクトでは上記のように気候変動影響把握などを含み、かつグローバルからローカルなマルチなスケールでの観測活動により、今世紀末へ向けての地域や都市域でのGHG等の削減の状況の把握ならびに気候変動による各種生態系機能や人間活動の変化による気候変化へのフィードバックなどについて長期的な研究を行っていきます。同時に本プロジェクトでは、緩和策、適応策の展開のために常にアップデートされた情報発信も積極的に行っていきたいと考えております。本特集号では、本プロジェクト研究の研究内容並びに関連する研究の紹介を行っています。

(むかい ひとし、地球環境研究センター長 兼 炭素循環研究室長)

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