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2012年4月27日

公の研究機関の役割

【巻頭言】

理事長 大垣 眞一郎

 行政改革などに関連して、ここ数年、独立行政法人の制度の是非を問う議論が政府で続いています。研究開発を担っている多くの法人があり、国立環境研究所もその一つです。これら研究開発を担っている法人の存在意義も問われています。国民はこれら研究機関に何を期待しているのでしょうか。少なくとも国立環境研究所の存在意義について改めて答えなければなりません。

 国立研究機関長協議会という組織があります。全国の20の国立研究機関と35の独立行政法人から構成されています。(独)国立環境研究所もその一つです。この協議会は昭和43年に国立研究機関の相互の連携強化、研究環境の向上を目的として設立されました。直近では、「我が国の研究開発力強化のための国立研究機関の役割」というテーマで、2012年2月22日に東京で協議会が開催されました。趣旨は、グローバル化に伴う世界的競争の激化の中で、我が国の研究開発力を強化するために、国立研究機関に求められる機能は何か、を議論することでした。協議会の平成23年度の代表幹事は、(独)産業技術総合研究所理事長の野間口有氏です。基調講演に、産業界から日本経済団体連合会副会長(日立製作所会長)の川村隆氏を、学術界から東京大学総長の濱田純一氏をお迎えし、その後に続くパネルディスカッションでは、総合科学技術会議議員の相澤益男氏などと共に、私もパネリストのひとりを務めました。

 「我が国の研究開発力強化のための国立研究機関等の役割—国立環境研究所の視点から—」と題して私が話した内容は次の通りです。国民が期待する公の研究機関の役割はなんでしょうか。それは、社会的課題の解決のための研究開発ではないか、と話題を提供しました。もちろんこれでは抽象的過ぎてその内容が伝わりませんので、国立環境研究所の歴史と現在実施中の研究内容を紹介して、まさに国立環境研究所の研究内容は、この典型例であると申し上げたのです。38年前の発足の時の名称「国立公害研究所」から明らかなように、当時、戦後の高度経済成長に伴う水質汚濁や大気汚染など公害の対策が社会の緊急課題でした。その後、気候変動枠組み条約や生物多様性条約など地球規模の環境の課題も生じ、廃棄物・資源問題、環境リスク、持続可能な社会の設計など、現在の研究活動へと展開してきているわけです。

 社会的課題解決のための公の機関が持つべき性格、あるいは、その研究活動が依拠すべき方法を挙げますと、(1)科学的真理に依拠すること、(2)中立性・非営利性、(3)公開性、(4)継続性、(5)非常事態への即時対応性、(6)国際的な約束への対応、(7)国の安全保障への貢献、になります。繰り返しになりますが、まさに、国立環境研究所が現在推進している研究活動のすべてに当てはまります。国立環境研究所は、公が設置すべき研究機関の典型と言えるでしょう。

 東日本大震災を契機に、国民が知りたいことを科学界は伝えることができているか、あるいは、科学界は政府へ迅速に適切な助言ができたか、などを検証する議論が進んでいます。この検証の俎上に国立環境研究所を載せてみれば、上に示した公の研究機関が持つべき7つの特性を十分に発揮していると言えるのではないでしょうか。また、この危機の中で、改めて、環境の長期的観測研究や基礎研究の深化と継続の重要性も認識されたところです。

 国立環境研究所は、このような実績の上に、東日本大震災の経験を踏まえ、改めて環境研究の新しい理念を打ち出し、新しい時代の公的研究機関の典型にならなくてはなりません。

(おおがき しんいちろう)

執筆者プロフィール:

理事長 大垣 眞一郎

放射性物質による広域汚染は環境研究へ新しい緊張をもたらしています。これに対処するには、他の国立研究機関、大学、産業界等との重層的な連携が必要と考えています。