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循環・廃棄物研究棟

新設の研究施設の紹介

是澤 裕二

 循環型社会,すなわち天然資源の消費と環境に対する負荷を最小限に抑えることを目的とする物質循環を基調とした社会を実現することは,21世紀を生きる人類に課せられた最大の課題であると言っても過言ではありません。20世紀の大量生産,大量消費,大量廃棄型社会から脱却し,新しい価値観に基づく循環型の経済社会を構築することなくして人類の持続可能な発展はあり得ないでしょう。

 2002年3月に竣工した循環・廃棄物研究棟は,循環型社会を目指す私たちの行く手に待ち受ける数々の課題を克服するために必要な研究活動の拠点となるよう建設された施設です。すなわち,経済社会の現状や各種施策の効果を適切に把握,評価する手法を開発することにより,人類社会を乗せた船の目指すべき方角を示す羅針盤を整備する研究を第一に進めていきます。次に,廃棄物の発生抑制から資源化,処理処分に至る様々な局面での対策技術やシステムを開発することにより,循環型社会に向かう船のエンジンを高性能化する研究を行います。さらに,循環・廃棄過程における有害物質の挙動を解明し,その制御手法を開発することにより,航海の行く手に待ち受ける危険を予測・回避するアンテナを整備する研究を推進していきます。以上のような三つの研究の柱を立て,循環型社会の形成を支援する研究成果を社会に提供していくことを目指しています。

 国立環境研究所の北側のほぼ中央に位置し,研究本館奥に建設されたこのL字型の建物(写真1,2)は,1階がプラント関係の実験室,2階が最新の分析機器等を整備した実験室,3階が執務室や会議室となっています。外観は,コンクリート打放しの壁面の中で,L字の角に当たる部分がガラスを中心に構成されているところが特徴的です。また,L字の上端に当たる部分の3階が船の煙突を思わせる半円柱形をしており,人目を引きます(内部は何かとよく聞かれますが,ただの空調設備の機械室です)。

正面からの外観写真
写真1 循環・廃棄物研究棟(正面)
中庭からの外観写真
写真2.循環・廃棄物研究棟(中庭)

 以下,棟内の主な研究設備についてご紹介します。

 1階には,資源化プラント実験室,熱処理プラント実験室,最終処分プラント実験室などがあり,各種のプラント実験設備が設置されています。

 資源化プラント実験室には,乳酸菌などの有用微生物の働きにより生ごみから生分解性プラスチックの原料となる乳酸を回収する装置(写真3),廃液中からリン酸マグネシウムアンモニウムを用いてアンモニアを吸収・回収する装置などが設置されており,廃棄物を再資源化し,有効利用していくための技術やシステムの開発・評価を行います。

装置の写真
写真3 乳酸発酵・回収装置

 熱処理プラント実験室には,滞留時間を変えることができ,かつ,高温になると金メッキの施された外筒が透明になり燃焼過程を視覚的に観察できる焼却炉(写真4)と,各種の排ガス処理設備が設置されています。廃棄物の種類や燃焼条件を変えた実験を行い,熱処理過程や排ガス処理過程における物質挙動を解明する研究を行います。

プラントの写真
写真4 熱処理プラント(一次燃焼室)

 最終処分プラント実験室には,埋立地の安全性や安定化の評価,埋立技術やシステムの開発等に関する研究を行うために,埋立処分シミュレータが設置されています。実際の処分場の環境を模して埋立槽内の温度や降水,酸素雰囲気等をコントロールすることができます。また,直下に設置した精密な秤により,物質収支を把握することができます。

2階には,物理・化学・生物系の各種分析を行うための実験室が配置されています。

 循環資源分析室には,有機化合物の分析機器として,ガスクロマトグラフ質量分析装置,高速液体クロマトグラフ装置,フーリエ変換赤外分析装置などが設置されています。また微小部分の表面分析機器である走査型電子顕微鏡装置があり,化学組成を測定できる検出器も装備しています。

 微量分析前処理室とGC/MS室は,廃棄物や関連試料中に含まれる微量有機成分を正確に測定する分析室であり,高分解能ガスクロマトグラフ質量分析計などが設置されています。PCBや臭素系難燃剤などの微量汚染物質を精度よく測定する方法の開発を行うとともに実試料の測定を行い,環境汚染防止や無害化技術の開発研究に活用します。

 生物恒温実験室には,様々な環境に生息する水生生物を飼育することができる恒温水槽が設置されています。また,隣室のバイオクリーンルームは,微生物等を安全に取り扱うために外界から隔絶できる構造となっています。微生物からカエルや魚まで種々の生物を用いて,廃棄物や循環資源,またそれらを再資源化・処理・処分する施設の排ガスや排水に含まれるおそれのある多くの種類の化学物質を総合評価する手法の開発を進めます。

 循環型社会情報室には,情報解析用コンピュータ,情報発信用サーバー,大型ディスプレイ装置などが設置されています。私たちをとりまく資源や製品,廃棄物などのモノの流れ(マテリアルフロー)に関する分析,原料採掘から製造,消費,廃棄されるまでのモノの一生を通じての環境負荷を総合的に評価するライフサイクルアセスメント(LCA)手法の開発,地理情報システム(GIS)やリモートセンシングなどの情報技術による循環資源・廃棄物の適正管理の支援等の研究を行います。また,この部屋は循環型社会形成推進・廃棄物研究センターの活動情報を広く内外に発信する機能も果たしています(http://www-cycle.nies.go.jp)。

 3階は,執務室や会議室等の一般的な事務スペースです。若手研究者の数が多いこともあり,研究室の壁を越えた活気あふれる議論が繰り広げられています。西側に並ぶ研究室の前には広いベランダがありますが,今のところコンクリートの床面が広がっているだけの状態であり,使い方を思案中です。

 循環型社会を構築するための取組みは緒についたばかりであり,検討すべき課題が山積しています。循環型社会の形成を支援できるような研究成果を循環・廃棄物研究棟から一つでも多く発信できることを祈念して,施設の紹介を終わります。

(これさわ ゆうじ,循環型社会形成推進・廃棄物研究センター研究調整官)

執筆者プロフィール

愛媛県出身。フランス,ナイジェリア,アルゼンチン・・・二歳の娘の応援するチームはことごとく負けていったにもかかわらず,トルコ戦で日本を応援させてしまったことを後悔しているサッカー観戦愛好者。