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外因性内分泌撹乱物質(環境ホルモン)の研究

研究プロジェクトの紹介(平成11年度開始内分泌撹乱化学物質総合対策研究)

森田 昌敏

 外部からの化学物質暴露によって体内の内分泌(ホルモン)系が影響を受ける,いわゆる環境ホルモンの問題は,有害化学物質の毒性の中でこれまで系統的な取り組みが遅れていた。国立環境研究所では,本課題に対する我が国の中心的な研究機関の一つとして,広範囲な研究を大学,国公立研究所の協力を得て実施中である。また国内外に開かれた研究と情報の中心となるべく,所内に環境ホルモン研究棟の建設がすすめられている。

 環境ホルモンに関する研究として,微量分析並びに生物検定法の開発,動態解明と野生生物への影響調査,分解技術の開発,リスク評価・管理のための統合情報システムの開発など,多くの研究テーマで研究を開始している。まず環境中における環境ホルモンの種類と量の迅速な把握を目的として,1)環境ホルモンの環境中微量計測法の開発に関する研究,2)環境ホルモンの新たな生物検出法に関する研究の2分野で研究を行っている。超微量分析として誘導体化後GC /MS 法をエストラジオール及びフェノール類に応用し,あらたな機器分析法として LC /NMR を用いた環境ホルモンの同定手法,LC / MS /MS 法を用いた環境ホルモンの定量分析手法,加速器MS 法による起源の探索法等について検討を始めた。またインプリント法と呼ばれる選択的な吸着法を用いた前処理法について予備的な検討を行った。

 一方で,陸水系の現場連続生物モニタリング手法,底生生物種(ユスリカ,二枚貝等)を用いた繁殖障害試験法,魚類の性行動変化および生殖機能を指標とした検出手法,巻貝の雄性化を指標とした生物検定法を検討した。さらに本年度より,カエルを用いた甲状腺ホルモンの試験系をラインアップに加えつつある。また,ヒトエストロゲンリセプターとの競合結合を用いた生化学的検出法,酵母を用いたT wo Hybrid 法,MCF-7等ほ乳動物およびヒトの細胞を用いた女性ホルモン作用の検定法,さらに環境ホルモンによってほ乳動物細胞に誘導される未知タンパク質及び遺伝子を指標とするホルモン活性検出法等について検討を行っている。

 ホルモン作用を示す化学物質の水圏,土壌圏および大気圏における存在量,存在形態,蓄積・分解速度,生物における濃縮速度あるいは分解速度といった動態に関する知見はほとんどない。このため,3)環境ホルモンの動態に関する研究も実施している。具体的には,霞ヶ浦およびその流域および東京湾における環境ホルモンの存在量,存在形態,生物蓄積,分解速度等の動態に関する研究を行う。すなわちこれらの閉鎖性水域での残留状態を水中でのいくつかの環境ホルモン(ビスフェノールA 等)の化学分析を通して明らかにする。また,土壌圏および大気圏における環境ホルモンの動態に関する研究として,土壌および植物における環境ホルモンの分布状況を明らかにするとともに,植物による吸収と分解および光分解等物理化学的分解等の知見を得ることとしている。

 また,4)野生生物への影響調査にも取り組んでいる。環境ホルモン物質の多くは閉鎖性水域に流入し残留するため,そのような地点で影響が出やすいと考えられる。このため魚類や多種多様な水生生物および水鳥の繁殖機能に及ぼす影響を霞ヶ浦及び東京湾等のフィールド調査により明らかにしようとしており,魚や貝の生殖腺を主として観察している。また,陸上の生物では,環境ホルモンの影響が顕著に現れやすいと考えられるカエルや比較的捕獲しやすいネズミ類などに関し,生息密度,性比,体内の薬物代謝活性などに関した調査・研究を行い,環境影響について予備的な知見を得ている。一方で,5)人に対する影響の研究として,本年度より脳神経系への影響の研究が予算化された。人の観察手段の1つとして磁気共鳴イメージング(MRI )を予定している。またラットの行動異常の指標化を目的として実験を始めている。

 環境ホルモン対策として,6)対策技術的な研究も展開されている。環境中に残留する環境ホルモンの分解処理を意図し,環境ホルモンの中で最も難分解性のダイオキシン等の分解処理に焦点があてられている。すなわち,土壌等に残存するダイオキシンを消失させ,その二次発生源としてのリスクを低減させることを目的として,超音波の利用,熱水抽出法を軸に新規の技術開発を展開している。また,7)環境ホルモン等の多様な環境リスクの評価と管理のための統合情報システムの構築に関する研究を行っている。この課題は,多様な環境リスクの管理に関して,さまざまな主体の参加のもとでの科学的知見に基づく透明な意思決定の支援のために,(1)環境リスク要因物質の環境排出推計モデルの開発,(2)環境中動態モデル・暴露評価モデルの開発,(3)環境リスク評価・管理のための統合データベースの構築,多様な環境リスク管理のためのコミュニケーション手法に関する研究を実施するものである。そのために,化学物質の排出,環境残留と分布や人口動態等の影響指標を地理情報システム(GIS )上にのせて,因果関係にかかわる解析を開始した。

 環境ホルモンの研究は上記のような国立環境研究所の研究費による研究ばかりでなく,科学技術庁の予算などにより,別途の研究も進行している。例えば化学物質の構造活性相関や作用メカニズム,長寿命生物である人や鳥での生殖影響の観察等があるが,これらについては次の機会に紹介したい。

(もりた まさとし,地域環境研究グループ統括研究官)