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廃棄物埋立処分に起因する有害物質暴露量の評価手法に関する研究

研究プロジェクトの紹介(平成9年度終了特別研究)

白石 寛明

 ここ数年来,上水道の水質基準や水質,土壌,大気に係わる環境基準の改訂など,化学物質による環境汚染についての対策がとられ始め,環境中の化学物質の有害性に対する社会的な関心が高まっている。廃棄物の埋立処分では,有害物質を含む廃棄物は埋立処分することができないように持ち込む段階で規制され,この種の廃棄物は特別に処理あるいは管理されることになっている。しかしながら,埋立処分場には,ダイオキシンを含有する焼却灰などのように,法的な規制を受けていない物質を含む様々な廃棄物の埋立てが行われていることは事実であり,このため,埋立処分場から発生する浸出水・漏出水による周辺の水質汚染や法的規制外の物質への不安が報じられるなど,化学物質による汚染は,埋立処分場に対する不信の一因となっている。

 一方,埋立処分場から,どのような物質がどの程度環境中に実際に放出されているかについての報告はほとんどなされておらず,埋立処分場から漏出する化学物質についての知見は皆無に等しかった。このため,平成6〜9年度に行われた「廃棄物埋立処分に起因する有害物質暴露量の評価手法に関する研究」では,埋立処分場に由来する汚染物質をできるだけ多く測定できるような分析法の開発を行うとともに,これを実際の浸出水の分析に応用して,どのような物質がどの程度,埋立処分場から環境中に出ているかの調査研究が開始された。試料の採取や分析にあたっては,地方自治体の研究機関との間で,「埋立地浸出水共同分析プログラム」を立ち上げ,多くの機関で同じ試料を共有し,情報交換しながら分析を進める体制を整えた。400種類以上の化合物を対象に分析を進めた結果,浸出水中の化学物質で濃度の高い物質は,1)低分子の脂肪酸,2)ビスフェノールAを含むフェノール類,3)リン酸エステル類,4)フタル酸エステル類,5)芳香族アミン類,6)ジオキサンなどであることがわかった。埋立地で微生物作用により生成する脂肪酸等を除くと,検出される化学物質の多くは可塑剤などに使用される化学物質であり,これらはプラスチックの埋立てに由来すると考えられた。また,ジオキサンの濃度は不燃物や産業廃棄物が埋立てられている処分場で他に比べ有意に高いことがわかったが,その起源については不明のまま次期特別研究に引き継ぐこととなった。無機成分では,水質汚濁に係る環境基準が設定されているホウ素が高濃度で浸出水中に検出される事例があったが,石炭灰・鉱滓の埋立地のほか,焼却灰を埋立てた処分場の浸出水が高いホウ素濃度を示す傾向があることを示すことができた。

 これら比較的高濃度で検出される物質は水溶性が高いという特徴があり,難水溶性物質であるDDTなどの有機塩素系化合物の浸出水中濃度は周辺の河川水などの環境水の濃度レベルであることがわかった。このことは,難水溶性物質であるダイオキシン類でも同様であった。調査した埋立処分場のなかで,規模が最も大きいうえ,浸出水のダイオキシン類が最も高かった処分場での値を日本全体に外挿してみたところ,一般廃棄物の焼却灰の年間埋立量600万トンに対して,浸出水への溶出量は0.4gTEQ注)/年となった。焼却灰が埋め立てられる管理型処分場の水処理施設では,ダイオキシン類の除去率を60%(低濃度での実測値)と仮定すると,埋立処分場から水系へのダイオキシン類の負荷量は0.16gTEQ/年と推定された。この負荷量は,自動車排ガス(0.07gTEQ/年)からの負荷よりは多く,晒クラフトパルプ漂白工程(0.7gTEQ/年)からの負荷よりも少ない程度であり,焼却排ガスから大気への負荷(4300gTEQ/年)に比較して桁違いに小さいことが示された。

 我が国においては,その狭い国土や地理的な特性から,廃棄物の埋立処分場として利用可能な土地が限られ,水源地や湿地など環境の保全が必要と考えられる地域が埋立処分場の候補になるほど,その用地の確保は困難の度を増している。本特別研究は化学物質の廃棄物埋立処分場からの環境負荷について焦点を絞り研究を進め,未知であった埋立処分場の浸出水などの化学的性状をある程度明らかにすることができた。埋立処分場が抱える様々な問題のほんの一部を取り扱ったにすぎないが,本研究の成果が今後の廃棄物対策の一助になれば幸いであると感じている。

 本特別研究には,処分場関係者をはじめ,行政部局,客員研究員の方々など多くの人々のご協力が不可欠であった。この場を借りて,関係者の皆様にお礼申し上げたい。

注)TEQ:毒性等量(ダイオキシン類は異性体により毒性が大きく違うことから,各異性体の量に2,3,7,8-TCDDを1とする毒性等価係数を乗じて2,3,7,8-TCDDの毒性に換算したものの合計)

(しらいし ひろあき,化学環境部計測管理室長)

執筆者プロフィール:

理学博士,45才,本特別研究を前任(植弘崇嗣)より引継ぎ,研究期間の後半を担当した。