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ホーム > 刊行物 > 国立環境研究所ニュース > 17巻 > 2号 (1998年6月発行) > 加速器質量分析法による放射性炭素測定:環境研究への展開

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研究ノート
加速器質量分析法による放射性炭素測定:環境研究への展開
米田  穣

皆さんは「放射性炭素」(14C)をご存知だろうか?考古学で年代測定に使われていることはよく知られているが,近年進歩の著しい加速器質量分析法(Accelerator Mass Spectrometry; AMS)を用いて環境研究にも応用されるようになっている。当研究所でも1995年に加速器を導入して,実際の試料を用いた研究を開始した。本稿ではこの14Cを用いた研究例とAMSについて簡単に紹介する。

天然に存在する炭素の大部分は質量数12であるのに対し,14Cは質量数が14の炭素の同位体である。名前のとおり放射線を出しながら壊変し,約5730年で量が半分になる。この性質を利用して,14Cの量を放射線で間接的に計測し年代を決定する手法は1940年代から用いられてきた。しかしながら放射線による測定ではグラム単位の試料が必要となる。そのため極微量しか採取できない環境試料には応用されることが少なかった。もしも放射線ではなく14Cそのものを測定できれば,より微量試料で高精度の測定が可能になることが予想され,様々な試みがなされてきた。しかし,現在,すべての炭素における14Cの割合は1兆分の1にすぎず,通常の質量分析器では検出することが困難であった。しかし,1980年代に実用化されたAMSは,数百万Vの高電圧でイオンを加速することによって14Cの数を直接カウントすることに成功し,ミリグラム単位の少量試料による14Cの測定を実現した。

環境研究における14Cの利用法は2つに大別できる。ひとつは14Cを時間軸とする年代決定,もうひとつは14Cを指標(トレーサー)として物質の挙動や起源を解明する研究である。14Cによる年代決定に関しては,海底・湖底堆積物など過去の環境変動を記録した試料に応用されている。例えば,堆積物に含まれる有孔虫の殻や花粉など,非常に少量の試料でも年代測定が可能である。現代の有孔虫の殻を約10mg集めた場合,1年間測定を続けたとしても放射線が計測されるのは約7200回(統計誤差1.2%に相当)に過ぎない。しかし,我々の装置では同じ試料を用いて約10分間で4万個(統計誤差0.5%)の14Cを検出できる。したがってAMSでは,試料中の汚染が少ない微量成分を選択的に測定することによって高精度な年代決定が可能である。

一方,14Cをトレーサーとして利用した代表例は海水循環に関する研究である。1945年以降に実施された大気圏内の核実験に伴って大量の14Cがつくられた。これをトレーサーとして測定し,表層から深層への海水の動きを調べる研究が盛んに行われている。深層水の大循環は地球規模の気候変動に影響することが知られており,また地球温暖化現象との関係で注目を集める二酸化炭素の挙動を解明する上でも深層水と表層水の間の炭素交換量は重要な研究課題である。さらに地球温暖化ガスのメタン,あるいはオゾン層破壊物質である臭化メチルにおける14C存在比を測定することによって,各々の化合物の中で生物活動により生産された現代炭素を含む分子と,化石燃料由来の14Cを含まない分子がどの程度の割合で混合しているかを明らかにできる。これらの化合物は大気に含まれる量が少ないため,従来法では測定が困難だったが,AMSにより14C測定が可能になった。

最後に当研究所に設置された装置を紹介する。装置の中心をなす加速器は全長約8.4m,直径2.1mの高圧タンク内に収められており,全体のビームラインは約38mという大型装置である。現在,世界では約40台の加速器がAMS装置として用いられている。国内ではこの装置が実質的に3台目である。現在,約1mgの固体炭素で誤差0.5%前後の測定が可能であり,国内では最も高精度,国際的にも第一級の分析精度を達成した。また気体試料を直接導入するシステムを試験中で,これは世界で2台目の新しい試みである。AMSの分野では装置に愛称をつける習慣があり,我々はNIES-TERRA(Tandem accelerator for Environmental Research and Radiocarbon Analysis)と命名した。TERRA(テラ)とは大地・地球を意味するラテン語である。多岐にわたる研究が実施されている当研究所の利点を活かし,幅広い分野で地球の役にたつ研究を発信していきたい。

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図  加速器質量分析装置

(よねだ  みのる,化学環境部動態化学研究室)

執筆者プロフィール: 東京大学大学院理学系研究科にて人類学を専攻。学生時代はネアンデルタール人の骨を求めてシリアにまで行ったりしたが,現在は加速器と格闘する日々である。


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