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藤井 敏博

 テーマは何でもいいので,面白く刺激的に書くように依頼された。最近喧しい研究評価に関わる事項について書くことにした。

1.Citation Index

 もう一年ほど前になるが,つくば研究学園都市と石川県の交流の場である石川サイエンスフォーラムが金沢で開かれた。理化学研究所理事長の有馬朗人先生が「科学の基礎と技術の発展」という題で基調講演をされた。その中で,日本の科学,技術の実力はどの辺にあるかということを,アメリカとドイツと比較しながら話された。論文の数,特許の出願件数,学士・博士の数等で比較すると,アメリカには負けるが,少なくともドイツとは遜色なく,日本はともかく頑張っている。「日本はどうしてこんなに基礎科学や基礎技術が進まないんですか」という批判にも,先生は「データの見方が悪いのだ。ちゃんと見ればそんなことはない,大いに我々は自信をもっていい。」と言って締めくくられた。

 その直後,国際共同研究の遂行のためイスラエルのテルアビブ大学の化学教室に出張した。玄関入り口の掲示板に,米国出版社 ISI の雑誌 "Science Watch" の記事が貼ってあり,"Caltech Captures Chemistry Crown" と言う見出しが踊っていた。過去10年間の Citation Index(全引用数/全論文数)を尺度としたランキングの結果である。California Inst. Technologyに続いて世界の化学の研究機関トップ100がリストされており,Harvard, Chicago, MITとお馴染みの大学が上位にランクされている。non-Americanの機関として,初めて20位にTel Aviv大学が現れ,以下Swiss Federal Institute of Technology(33位),Cambridge(35位)と続くが,100位以内に日本の機関は出てこない。がっかりしていると追い打ちをかけられた。一緒に仕事をしたAviv Amiravが「世界第二の経済大国が,どうして化学の世界で影すらないのだろう」と仲間と話したことがあると言われた時,有馬先生の評価との相違に困惑した。

2.Impact Factor

 では Citation Index を挙げるにはどうすれば良いかとなる。昔近藤次郎先生が年末年始の挨拶で「良い論文を良い雑誌にどんどん投稿してください」と度々言われていたが,これが答えである。

 良い雑誌の評価としてImpact Factorという指標がある。この値が毎年雑誌Journal Citation Reports(通称 JCR)に掲載される。投稿誌の選定に役立つ。因みにNature, ScienceのImpact Factorはそれぞれ 22.3, 21.9 である。次に,環境および化学関連の主な雑誌の1993年の値を記す。EST (2.7), Water Environ. Res. (1.3), AMBIO (0.8), JACS (5.4), Anal. Chem. (4.0), J. Org. Chem. (3.2), J. Phys. Chem. (3.4), 日本の化学の論文誌であるBull. Chem. Soc. Jpnは0.9である。

3.若い研究者へのアドバイス

 研究評価に関する世界の潮流はCitation Indexである。市川先生が所長の頃,国環研にCitationの風が吹いたように,いつ何時日本全体にCitationの嵐が吹き始めるか分からない。闇雲に論文の数を増やすとCitation Indexは悪化する。また,科学技術庁が,一部の人を対象に,研究業績を個人ベースでデータベース化していると聞いたことがある。とにかく研究成果が,数値化される時が近づいていることは確かである。特に若い研究者は気をつけてないといけない。

 もう一つのアドバイスは,なるべく早く若い時期に,巧く論文を書くテクニックを修得することだろう。米国化学会が出版する雑誌のeditorが,「日本から投稿される論文の 70% 以上が,論文の体裁をなしてない」と言うのを聞いたことがある。こんなことでは素晴らしい研究も埋もれてしまう。巧く論文が書けるようになった時,初めて競争のスタート台についたといえる。

4.提案

 日本での研究の評価は学会賞で行われている。研究所でも,受賞者にそれなりのボーナスが与えられるべきだろう。さらに,大学では研究の自己点検評価が盛んに行われているようである。鈴木所長がごく最近,研究所にもこの自己点検評価導入の検討を表明された。このことから次ぎのことを思いついたので提案したい。

 一つの論文が過去七年の間に50回以上引用されたとき,その論文をBlockbuster paperと呼ぶ。爆弾ほどの大きい影響力を持つという意味である。私は研究所にもこんな論文が出たら,自己申請できるようにし,研究所は,その年のResearch paper of the yearとして認定し,表彰したらと思う。

(ふじい としひろ,化学環境部上席研究官)

執筆者プロフィール:

昭和39年京都大学理学部化学科卒業,理学博士。
週末自宅近くの禅寺で座禅を組んだ後,多摩川を散策しながら,科学を考えるが,いまだ大発見に至らない。無念。