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「有害廃棄物特別研究」の開始に当たって

プロジェクト研究の紹介

植弘 崇嗣

 国立環境研究所では平成2〜4年度に特別研究「産業構造の変化及び生活様式の高度化に伴う多様な環境汚染に関わる対策に関する研究」の一環として「有害廃棄物のモニタリングに関する研究」を実施してきた。平成6年度からは4年間の計画で有害廃棄物に関する新規の特別研究「廃棄物埋立処分に起因する有害物質暴露量の評価手法に関する研究」を行っている。今期は,前期の特別研究の成果を踏まえ,有害廃棄物関連の問題の中でも,特に埋立処分に係る有害物質の環境負荷の実態を明らかにすることを主要な目的としている。

 廃棄物埋立処分に伴う環境汚染については,近年,埋立地からの浸出水・漏出水中に有害物質が検出されたことにより,上水水源汚染等の人間の健康に対する影響あるいは生態系に対する影響が危惧されているところであるが,その実態についてはいまだ未解明な状態にある。また,埋立地から発生する揮発性成分による大気汚染に関しては,埋め立てられた廃棄物等に含有されているトリクロロエチレン等,地球温暖化問題で対象とされているメタンと同様の還元的な化学環境下において生成し得る金属および非金属元素メチル誘導体等の揮発性有害物質,あるいは粒子状物質等による汚染についてはほとんど情報がない状態である。さらに,過去の埋立地の再開発・再利用に伴う健康および環境影響についても知見が乏しい状況にある。

 このため,本特別研究では,埋立処分に伴う有害物質による環境汚染に焦点をあて,埋立処分地からの浸出水等の水系および土壌を経由する有害物質の負荷量や揮発性成分および粒子状物質等の大気系経由の有害物質の負荷量とその環境影響を評価する上で不可欠な化学物質の環境濃度を測定するために,最新の物理・化学的分離分析手法の適用性の拡大を図る。さらにこれらの分析法を標準化するとともに,暴露量に関する評価手法を確立することを目的として,(1)埋立地由来汚染物質の検出法および特定法の高度化,(2)埋立処分に係る有害物質暴露量評価手法の検討,(3)モニタリング手法の検討の3課題を設定して研究を進めることとしている。これら3項目について順次説明しよう。

 (1)埋立地由来汚染物質の検出法および特定法の高度化に関する研究では,ガスクロマトグラフ−質量分析法(GC/MS)では測定困難な高分子,難揮発性物質あるいは熱的に不安定な物質の測定に液体クロマトグラフ−質量分析法(LC/MS)の適応を検討し,浸出水中の汚染物質等の捕捉・同定率の向上を目指す。一方,埋立地から発生する揮発性物質に関する測定手法について自動化を検討・開発する。また,廃棄物汚染の指標となる物質群の効果的な検出手法として,同位体比や多成分測定の統計的処理等を検討する。

 (2)埋立処分に係る有害物質暴露量評価手法の検討では,複雑で多様な埋立地という環境下で実態をより反映した溶出試験法の検討を行い,実行可能性も考慮にいれた標準化も検討する。また,測定された物質や存在の予想される物質の環境影響を評価するために,それらの物質の人の健康や生態系に対する毒性等についての文献的な検索を主として行う。変異原試験・毒性試験などの生物学的な検出手法を用いて,強い毒性を発現する物質(群)や分画についての検索を行い,これらの物質(群)をGC/MSやLC/MS等を用いて同定する。さらに,数種類の形態の異なる埋立処分地を対象として,浸出水に起因する水・土壌経由および揮発性物質による大気経由の汚染物質の環境への放出量を実測データ,モデル化等を用いて評価する手法を検討・開発し,環境濃度の測定データの蓄積,放出量推定,統計/物理モデルによる環境暴露の推定,人による摂取量の推定等を行い,人および生態系に対する暴露評価手法の検討を行う。

 (3)モニタリング手法の検討においては,地方公共団体の公害・環境研究所(以下地公研)等との共同研究により,共通試料の作成・分析による測定手法の統一化・標準化を検討する。また,模擬廃棄物およびフィールド試料に関して,試料前処理法の検討,測定項目・対象の選定・分担,およびデータ取りまとめ等を行うとともに,定常的なデータ取得と監視のできる測定法を開発し,標準的な測定法を提示できるようにしたいと考えている。

 廃棄物問題は,廃棄物処理施設・処分地の立地条件の困難性に伴う発生地と処分地の分離による国内版越境汚染問題や廃棄物処理コストの負担問題等,解決が困難な課題が山積みになっているが,環境問題の中でも地域の能力が今後最も発揮されなくてはならない分野の一つであろう。また,環境計測の面でも地公研等が先導的な役割を演じてきており,将来もそのポテンシャルを発展させなくてはならない分野である。国立環境研究所の実施する本研究も,また,地公研等との共同研究なくしては砂上の楼閣的なものと成らざるを得ない。本研究を進めるにあたり,地公研等関係各機関との協力を推進するとともに,関係各機関のご協力をお願いしたい。

(うえひろ たかし,地域環境研究グループ有害廃棄物対策研究チーム総合研究官)

図 研究計画フロー

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