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環境容量から見た水域の機能評価と新管理手法に関する研究

プロジェクト研究の紹介

相崎 守弘

 本特別研究は環境容量の概念を水域の管理に適用することを目標に昭和62年度より5年間の計画で開始された。研究は以下の4つのサブテーマに分けて行われている。(1)環境容量の概念を導入した水域環境管理の研究、(2)湖沼の物質循環速度と生態系管理に関する研究、(3)汚濁負荷流出管理に関する研究、(4)複合利用湖沼の環境保全システムに関する研究。

 初年度は環境容量のこれまでの概念を整理することから始まった。環境容量は環境の収容力と言い替えても良さそうである。一般的には環境汚濁物質または汚染物質の収容力をさすが、生態学では生物の現存量や多様性の収容力を意味している。容量を決める領域は、水環境の場合、図に示すような3つの領域があるように思われる。第1は水域の環境容量(受け側の環境容量)、第2は流域の環境容量(作用者側の環境容量)、第3は利用者側の環境容量である。第2と第3の領域は、一致することもあるが、東京や大阪などの大都市周辺では流域外での水利用が普通であることから一致しないことも多い。

 この3つの環境容量の領域の関係は以下のように考えられる。水域の環境容量を明らかにできればそれに基づく基準を設定し、そこから流域における許容負荷流出量を求めることができる。流域の環境容量の中では発生負荷量を技術開発や発生負荷の地域的また業種的配分その他の方法で許容流出負荷量内にいかにして納めるか、言い替えれば収容力をいかに高めるかが研究対象となる。利用者側の環境容量では水の循環利用とか、中水道の建設等といった手法により水の量と質の収容力をいかにして高めるかといったことが考えられる。本特別研究では、第1及び第2の領域の容量を中心に研究を行っている。

 環境容量概念の検討を通して、概念そのものの議論よりもそれらの概念をいかにして施策に結び付けるかが問題であるとの結論に至った。第1の水域の環境容量に関しては、容量をいかにして決めるかが問題となっている。水域の環境容量はその生態系構造に依存しており、生態系の構造が異なれば容量も異なってくる。どのような生態系構造が最も汚濁物質の収容力が大きいかを求める必要がある。しかしながら、実際には生態系構造の異なった湖沼でそれぞれの収容力を求めることは不可能に近い。幸い、我々の研究対象としている霞ケ浦は、生態系構造がここ数年で激しく変化しており、自然の実験の場となっている。これらのデータから、大型の動物プランクトンの存在は水域の汚濁物質の収容力を高めていることが明らかになった。しかしながら、霞ケ浦の場合、大型動物プランクトンの増加は生態系の単純化によってもたらされたものであり、生物群集の多様性や現存量の収容力を高める観点の環境容量の議論からは好ましい現象とは言い難い。

 COD等の物理化学的な指標の場合、連続的に数値が変化するところから、この数値の変化から基準となる値を見つけ容量を求めることはできない。したがってこのような指標を使う限りにおいては、基準となる値は利用目的から決められる。現在の環境基準もこのような観点から決められたものである。湖沼環境基準は指定以来達成率が極めて低いことから、その原因について解析を行った。湖沼環境基準の指定された湖沼について、基準から求められる流域からの許容発生負荷量を計算し、実際の負荷量の推定値との比較を行った。その結果、COD濃度が環境基準値の2倍以上の濃度を示すような湖沼では、栄養塩の負荷量が許容負荷量の数倍に達している湖沼が多く、栄養塩の削減が重要であるとの結論が得られた。また負荷量の推定に用いている原単位にも検討の余地があり、特に自然由来の負荷量の原単位には問題があることが分かった。

 水域の水質や水環境はそこに生息する生物の影響を強く受け、生物の種や存在量によって規定されている。物理化学的指標は連続的であるが、生物現象は生物種の交代という形で現れることが多く、不連続的であるので、不連続になる点を基準として容量の算定が可能である。すなわち生態系の構造の変化点を見つけてその点を湖沼管理の基準としようとする考えである。本特別研究においてはアオコに焦点を当て、アオコを指標とする湖沼管理について、いくつかの県の環境・衛生研究所との共同研究を実施している。

 流域の環境容量に関しては、環境容量の概念を流域管理に利用できる手法の開発を行っている。霞ケ浦流域を対象に各種の社会・経済情報、発生負荷情報、物理的諸元、流域情報、気象情報などをメッシュ情報や市町村単位の情報として収集し、これらの情報と水質情報を組み合わせ、水質変化と流域の土地利用や社会・経済活動状況変化との関係を解析している。流域の土地利用はかなり急速に変化するところからランドサットデータを利用して土地利用状況の変化を解析する研究も行っている。流域からの発生及び流出負荷量は原単位法を用いて解析される場合が多いがその検証は非常に困難である。本研究ではモデル地域を設定し、河川水質の高頻度の測定を通して実際に流出される量を正確に把握し、流域の変化との関係を調べている。

 本特別研究は環境容量の概念をいかに水域管理と結び付けるかが課題である。これからの湖沼管理にはこのような概念に基づいた施策が必要とされており、水質から水環境へ変化しつつある環境行政に対処するための基本的な手法の提示は本特別研究を通してできるものと考えている。

(あいざき もりひろ、地域環境研究グループ湖沼保全研究チーム総合研究官)

図  環境容量の3つの領域と指標及び基準との関係