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開発途上国環境技術共同研究
1.自然利用強化型適正水質改善技術の共同開発に関する研究
〔担当者〕
| 地域環境研究グループ |
: |
稲森悠平・水落元之・森田昌敏 |
| 地球環境研究センター |
: |
中島興基 |
| 水土壌圏環境部 |
: |
西村 修 |
| 下線は研究代表者を示す |
〔期 間〕
平成6〜10年度(1994〜1998年度)
〔目 的〕
タイ王国では生活排水,産業排水等の未処理放流により水辺環境の汚濁が著しく進行し,安全な水資源を確保することも困難な状態にある。このままの状況を放置することは極めて危険であり,特に環境衛生上,一刻の猶予も許されない状況であると考えられる。タイ王国の水質を改善していく上で,発生源対策と直接浄化対策が必要であるが,多大な施設とエネルギー消費が伴う浄化手法ではなく,有用生物を活用することによって自然の浄化能力を強化し,効率化した浄化技術が求められている。本研究では上記の点を鑑み,タイ王国を対象とし,開発途上国に適した水質改善技術を開発することを目的として検討を行うこととする。
〔内 容〕
(1)水源域における汚濁物質の質と量の調査に関する研究
タイの国情に適した発生源対策・直接浄化対策技術を開発する上での基礎的知見を得ることを目的として,バンコク周辺のクローン,池の水質調査を行った。
(2)直接浄化機能の高い有用生物の検索と培養に関する研究
自然利用強化型適正水質改善技術において極めて重要な役割を果たす浄化機能の高い有用生物を排水処理施設,汚濁水域において探索し,我が国に出現する有用生物との質的・量的面での比較を行った。
(3)低濃度汚濁水域の直接浄化手法の開発に関する研究
クローンや汚濁湖沼の直接浄化技術を開発することを目的として,ヨシやガマ等の水生植物を植栽した水路浄化手法に着目し,それぞれの水生植物について有機物・窒素・リンの浄化能力を明らかにし,直接浄化技術に活用する最適な水生植物の選択を行った。さらに,根圏における硝化脱窒の浄化機構を解明することを目的として,膜分離活性汚泥法において活用されている中空糸膜により水生植物の根圏を再現した連続式硝化脱窒装置を用いて窒素除去能力についての解析・評価を行った。
(4)高濃度汚濁排水の直接処理手法の開発に関する研究
食品工場の活性汚泥処理施設の沈殿槽に生息しているグッピーの生息密度等を計測し,排水処理における高次捕食者としての魚類の役割を評価した。また,タイの浄化槽の現状を把握することを目的として,ホテルの浄化槽の水質調査および微生物調査を行った。
(5)直接浄化・排水処理システムから発生するバイオマスの資源化・リサイクルに関する研究
我が国のバイオマスのリサイクル技術をベースとして対象地域の気象条件,社会条件等を考慮して,現地協力研究機関と共同して,より簡易な処理方法および資源循環・有効利用方法について検討を行った。
(6)汚濁水域の水質改善効果の評価に関する研究
本研究の成果をもとに対象水域の水質汚濁の改善効果を評価し開発途上国における実用的な水質改善手法の提案について検討を行った。
〔成 果〕
(1)水域の汚濁物質の質と量の調査研究
バンコク周辺のクローンや池の水質調査を行ったところ,人口の密集しているクローンでは水質汚濁の進行が著しく,溶存酸素の低下がみられ,クローンは人々の生活にとって極めて重要な水資源であるが,その役割を著しく損ねていること,汚濁負荷としては生活排水の占める割合が大きく,大腸菌群が観察され,衛生面で極めて大きな問題を有することが明らかとなった。
(2)微小動物の現存量と役割の調査研究
タイ王国の食品工場をはじめとする排水処理施設において原生動物肉質虫類Euglypha tuberculata,繊毛虫類Aspidisca属,Dorepanomonas属,Coleps属,Chaetospira属,Paramecium属,Epistylis属,Trachelophyllum属,Didinium属,Litonotus属,Vorticella属等の微小動物の捕食活性およびバイオマスが高く,流入BOD1,000mg/lに対し,適正条件下ではBOD10mg/l以下,透視度1m以上の水質が得られ,微小動物の定着能の強化の重要なことが明らかとなった。
人工湿地を活用した低濃度汚濁水の処理施設においてヨシ,ガマ,フトイの根茎部に付着していた微小動物は原水の流入部付近ではBeggiatoa
albaが3種に共通して優占するのに対し,流出地点においてはヨシでVorticella属,ガマでCyclidium属,フトイにおいてVorticella属,Cyclidium属,Euplotes属が優占し,水生植物の違いにより付着する生物種が異なり,生物間相互作用が浄化能強化に重要なことが明らかとなった。
(3)水生植物の浄化能における根圏部の役割調査研究
1)水生植物植栽法としてヨシ,ガマ,フトイを植栽した水路の水質浄化能について検討した結果,ヨシを植栽した水路及びガマを植栽した水路の水質浄化能が極めて高いことが明らかとなり,この2種の水生植物の根圏が発達していることにより,根圏に酸素が送られ硝化脱窒能が高まったものと推測された。これらの水生植物は,年間を通して部分的には枯れることがあってもガマ全体が枯れることはなく,常に再生産が行われることから,熱帯地域における安定した効果的処理手法になり得ることが明らかとなった。
2)中空糸膜により水生植物の根圏を再現した硝化脱窒処理実験より,槽内の攪拌を適正に行うことにより,流入全窒素濃度50mg/lに対し,処理水の全窒素濃度が10mg/lとなり,約80%の窒素除去率が得られたことから,ヨシやガマといった水生植物の根圏は極めて高い窒素除去能力を有し,水生植物の活用を強化することが水質改善を推進する上で重要なことがモデル解析から明らかとなった。
(4)生物処理施設の浄化能解明調査研究
1)食品工場排水の活性汚泥処理施設において固液分離槽としての沈殿槽にグッピー等の魚類を生息させ,食物連鎖を長くすることにより透視度1.5mの極めて清澄な処理水が得られることがわかった。さらに,沈殿槽から採取したグッピーを飼育し,活性汚泥を食物源としてグッピーに与えたところ,その収率は約10%であり,グッピーのような魚類を沈殿槽に定着させ,食物連鎖を長くすることにより,汚泥の減量化が図れることが明らかとなり,熱帯地域の水処理施設においては捕食被食系の強化を図ることが重要なことが明らかとなった。
2)タイのホテルの浄化槽を調査したところ,処理水の水質が極めて悪化しており,同時に生物処理反応槽のバイオマスが著しく低く,維持管理の適切になされていないところが多く観察され,熱帯地域のタイ王国では水温が30℃付近であるため浄化の反応速度が極めて高いものの,Vorticella属といった原生動物繊毛虫類やPhilodina属,Aeolosoma属等の生物処理において極めて大きな役割を果たす微小後生動物が適切に生息できるよう定着の場創りのための固定化技術の開発および容易な維持管理手法の技術開発が極めて重要なことが明らかとなった。
以上の調査研究より特に水生植物植栽浄化手法が熱帯地域では重要なシステムとなることを実証試験研究及びモデル解析研究から明らかに出来たと同時に,生物処理システムにおいて捕食連鎖を高次化することが高度な水質保持と汚泥減量化を図る上での重要なことを明らかにできた。また,浄化槽の実態調査より,適切な性能の得られない施設が多く,維持等の最適化のための省エネ,省コストの技術開発の重要なことを明らかにできた。
〔発 表〕B-12,16,17,b-2,32,41,42,54,55,65
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