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特別研究
6.海域保全のための浅海域における物質循環と水質浄化に関する研究
〔担当者〕
| 地域環境研究グループ |
: |
森田昌敏・木幡邦男・中村泰男・今井章雄・堀口敏宏 |
| 水土壌圏環境部 |
: |
渡辺正孝・竹下俊二・井上隆信 |
| 社会環境システム部 |
: |
大井 紘・須賀伸介 |
| 化 学 環 境 部 |
: |
柴田康行 |
| 客員研究員 5名 |
| 下線は研究代表者を示す |
〔期 間〕
平成8〜10年度(1996〜1998年度)
〔目 的〕
浅海域,特に干潟は,水産資源にとって重要なばかりでなく,自然環境保全上その役割の重要性が認識されつつある。さらに,浅海域では,高い有機物分解速度などから水質浄化能力が高いと言われている。環境基本計画でも,自然海岸・干潟・藻場・浅海域の適正な保全,人工干潟・海浜などの適切な整備,特に内湾の環境について富栄養化の防止等を推進するよう定められている。
一方,現在まで,浅海域の機能評価が十分にできなかったこと,開発による環境影響を評価するのにも定まった手法がなかったこと等から,過去に行われた開発は,環境への配慮が必ずしも十分でなかった。富栄養化は陸域からの負荷と同時に,底泥からの溶出のような浅海域での栄養塩の挙動も考慮されるべきであるが,この点に関する現在の科学的知見も,まだ不十分といえる。
したがって,浅海域環境の保全を図るためには,科学的な調査法・評価法がさらに進歩する必要がある。本特別研究では,現場調査・室内実験・数理モデル等を用いて標題の研究を遂行し,浅海域の機能を明らかにし,その重要性を明らかにすることを目的とする。
〔内 容〕
本年度の研究は,以下の2課題に沿って実施された。
課題1 浅海・干潟域における物質循環の実証的研究
課題2 海域における物質循環モデリングと浅海域機能の評価に関する研究
課題1では,食物連鎖に関連し,内湾においてこれまで注目されてこなかった生態系の経路に光を当てて,その重要性を定量的に明らかにすることが目標の一つである。前年度までの「微小動物プランクトン」から「かいあし類」とつながる食物連鎖経路の解析に加え,本年度は「尾虫類」「夜光虫」の生態的役割を,瀬戸内海家島での現場調査・現場実験で明らかにした。また,本課題では,浅海・干潟域において,現場調査・室内実験等を基に,水界生態系・底泥での,一次生産・摂食・分解等による炭素・窒素・リンの物質循環を明らかにすることを目的としている。本年度は,前年度に引き続き三番瀬を調査対象とした調査・現場実験を,平成9年5月,7月,9月と平成10年1月に行った。潜水夫を使った採泥や生物採取を行い,水質と底生生物(マクロ・メイオベントス)の存在量を調査した。
課題2では,浅海域生態系や,内湾生態系をモデル化し,環境要因の変動に対する反応を解析する。また,これらの解析に加え,水質以外の環境要因をも考慮して,浅海・干潟域の価値の評価法を検討する。本年度は,モデル化に必要なパラメータを得るため,浅海域生態系で最も重要である二枚貝に着目し,シオフキガイについて,室内実験によりその酸素消費速度やろ水速度を測定し,また,糞・擬糞の排泄速度を測定した。また,前年度に作成した現場にて酸素消費速度や栄養塩溶出速度を正確に測定するための装置を,三番瀬で使用し,栄養塩溶出速度と生物量との関連を調査した。
〔成 果〕
課題1 浅海・干潟域における物質循環の実証的研究
前年度まで,本特別研究において,従属栄養性渦べん毛藻や尾虫類といった,生態学者によって余り注目を集めなかった生物群集が,夏の瀬戸内海の物質循環にきわめて重要な働きをしていることを示してきた。本年度は,このような立場を継続し,夜光虫の物質循環に果たす役割を評価した。夜光虫は珪藻赤潮とともに個体群を拡大し,その生産量は,これまで植物プランクトンの主たる捕食者と考えられてきた,カラノイダ目かいあし類の生産量に匹敵することが判明した。また,瀬戸内海における調査期間中に,原索動物であるウミタル(Dolioletta
gegenbauri)によるブルームが突如発生し,珪藻赤潮を数日のうちに消滅させた。ウミタル群集の消長を日単位で詳細にモニターした例は世界的にもきわめて希であり貴重なデータとなった。
富栄養海域に生息する懸濁物食二枚貝は,摂食,排泄を通して浅海域の物質循環に重要な役割を果たしていることが知られている。そこで本研究では,東京湾奥に位置する三番瀬に出現する底生生物量等を調査した。本年度の野外調査では,三番瀬の岸寄り(水深約1m)から沖合い(水深5m)に向けて4定点(st.1〜4)を設け,ダイバーによる各定点3回のエクマンバージ採泥によりマクロベントスを採取し,10%ホルマリンで固定後種類を同定し,湿重量を測定した。平成9年9月の調査では,三番瀬の中央からやや沖合いの2定点(地点2と3:水深約1.5m)で採取された二枚貝の湿重量は,全生物量の99%を占めた。出現した底生生物のうち,砂質性浅海域に優占するシオフキガイについてはその生理・生態はもとより物質循環に果たす役割についても知見が乏しいのが現状であるが,シオフキガイは二枚貝の中でも地点2では17%(殻長:16mm;殻付湿重量:276.7g/m2),地点3では69%(殻長:26.4mm;殻付湿重量:1705g/m2,貝軟体部乾燥重量:105.7g/m2)を占めた。
課題2 海域における物質循環モデリングと浅海域機能の評価に関する研究
浅海域では,二枚貝の生物量が多いことと二枚貝のろ過速度が大きいことから,二枚貝の水質浄化や物質循環に果たす役割が大きいと言われる。そこで,上記シオフキガイを始めとする二枚貝について,そのろ過速度,呼吸速度,排泄速度等を室内実験系で求めた。アサリ,シオフキガイ,バカガイ,シジミについて,呼吸速度の温度依存性を測定したところ,15,20,25℃の実験では,どの貝でも,25℃における呼吸速度が最も大きかった。シオフキガイの貝軟体部乾燥重量当たりの海水ろ過速度は,クロロフィルa濃度が17.9及び44.9μg/lの実験時でそれぞれ5.3及び2.9l/g/hrであった。貝は一日中同じ速度で海水をろ過している訳ではないが,仮に実験で求めたろ過速度と上記三番瀬での生物量を考慮すると,数時間程度で水深約2mの海域の海水すべてを二枚貝がろ過する計算となり,二枚貝のろ過速度が非常に大きいことがわかる。
また,シオフキガイについて,室内実験系で,貝軟体部乾燥重量当たりの糞,偽糞の排泄速度とアンモニア(NH4)の排泄速度を測定し,上述した野外調査の結果から,9月の三番瀬でのシオフキガイによる窒素循環量を推算した。図1に見られるようにシオフキガイの窒素循環に果たす役割が大きいことが推察された。
現場にて栄養塩溶出速度等を正確に測定するための装置を前年度に制作した。本年度は,平成9年7月に本装置2台を三番瀬に3日間設置し,現場での栄養塩回帰速度などを測定した。撤収の際に,装置で覆われていた部分の底生生物を採取し,その組成や湿重量を測定した。測定装置2台について得られた栄養塩回帰速度はそれぞれ異なっていたが,底生生物量で規格化した値は同程度であった(表1)。
瀬戸大橋に関する住民意識調査結果を分析し,海域での開発に対する住民の関心事を調べた。瀬戸大橋と海とのかかわりについて,汚染,景観,自然との調和の3項目について選択肢式で尋ねた。その結果,すべての調査地域で80%以上の回答者が汚染への影響はないと評価していた。他の2項目についても各地域で肯定的な評価の方が上回ったが,漁業を主な産業としている調査地域では他の地域と比べて否定的な評価の割合が高かった。自由記述形式で瀬戸大橋の便利さや現状を尋ねた結果,四国側の回答者の方が岡山県側の回答者よりも多くの点で便利さ認識している反面,地域産業の停滞などを含めた通過点という意識も岡山県側の回答者よりも高かった。
〔発 表〕B-42,54,C-24〜27,b-95,97,98,c-12,13,g-3,4,21
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