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環境研究総合推進費による研究(未来環境創造型基礎研究)
1.亜熱帯域島嶼の生態系保全手法の開発に関する基礎研究
〔担当者〕
| 生物圏環境部 |
: |
渡邊 信・椿 宜高・野原精一・佐竹 潔・多田 満・上野隆平・矢部 徹・広木幹也・名取俊樹・清水英幸 |
| 社会環境システム部 |
: |
山形与志樹 |
| 地域環境研究グループ |
: |
笠井文絵・五箇公一 |
| 地球環境研究グループ |
: |
竹中明夫 |
| 下線は研究代表者を示す |
〔目 的〕
亜熱帯域は生物多様性がきわめて豊富であり,特に島嶼では島ごとの独自の生物相がみられ,固有種が数多く存在していることで,種分化を促進し,種多様性を増加した重要な生態系として認識されている。しかしいっぽうで島嶼の多様な生物は,開発,土地利用の変化等の人間活動による撹乱や侵入外来生物に対して無防備であるため,その多様性の存続が危惧されている。そこで,この地域の生物種,遺伝子,生態系の多様性を保護し,いかにして生物多様性を未来世代に引き継ぐかを緊急の課題として,島嶼の生態系保全手法の開発に関する基礎研究を行う。
〔内 容〕
本研究では,先端的手法を用い,小笠原諸島等の亜熱帯域の島嶼を対象に,地史的・地質的特性及び土地利用の変遷を考慮しつつ固有種を含む生物多様性の現状把握を行い,生物多様性の維持機構の解明を行った。さらに移入種が生物多様性に及ぼす影響評価と島嶼生態系保全手法の開発に向けた基盤整備のための研究を行った。この地域の生物相の進化起源の一つでアジア・太平洋地域の中で海洋島や島嶼を有し,日本と研究交流がある米国(ハワイ諸島)等と共同研究を行った。研究は以下の4サブテーマについて行った。(4)は総合的なまとめとなっている。
〔成 果〕
研究に先立ち平成9年11月に全体会議を開催し,研究体制の検討を行った。12月には研究代表者が小笠原関係の官公庁・漁協等に研究の説明と研究協力の要請を行った。各研究者は各調査地の下見及び許可を伴わないサンプルの採取・観察を実施した。3月にはハワイより著名な生態学者Muller−Dombois氏を招へいし,小笠原の父島・母島の現況視察と講演会を実施し,島嶼研究の世界的動向の検討を行った。当研究所の研究員がハワイ大学昆虫学研究室及びビショップ博物館を訪問し,共同研究の合意を得た。
先端技術として当研究プロジェクト専用に自然同位体分析計MAT-252と遺伝的多様性解析用にDNAシークエンサーを購入して調整を始めている。
これまで得られている各研究サブテーマごとの研究成果は以下のようである。
(1)島嶼生態系における生物多様性の把握手法に関する研究
東京都建設局公園緑地部の協力を得て,これまでの小笠原研究の文献リストを入手した。平成3年7月環境庁撮影の航空写真ネガを入手し解析を開始した。
琉球列島産の種類を含む他の日本産の種類とともに分子系統学的な解析を行ったところ,母系遺伝する葉緑体DNA情報の比較による系統樹と核DNA情報の比較による系統樹とでは4種の系統関係が明らかに異なっていた。また,奄美大島産の2種でも同様の矛盾があった。形態的な分類と比較すると,葉緑体DNA情報の比較による系統樹がよく一致している。
伊豆七島は,本州と比較して降水量が多く,温暖なため,生態系特性に特殊性がある。このことは,地理的に島嶼であるが故に自然環境がそれぞれの島嶼ごとに異なった特異性を有していると考えられる。特に,水文特性は生態系の発達にあたって基本となる役割が大きい。
冷涼で窒素負荷量の小さな麦草峠,一ノ瀬高原でほぼ同じ同位体比を示すのに対し,気温が高く,窒素負荷量の多い波丘地で低い値を示すことがわかった。
沖縄列島の河川水の溶存有機炭素(DOC)は一部を除いて全体に比較的低く2ppmC以下であった。また,全炭酸(TIC)は高いところで60ppmCを越えた地点があり,石灰岩で形成された地盤の影響であろうことが推測された。それに対して,小笠原の河川のDOCは大変高い傾向があり4ppmC以上になる場所もあった。採水した場所は特に人為影響の多い場所ではなく,自然の有機汚濁と考えられた。熱帯のグアムで採取したサンプルは沖縄と同じ程度であった。
(2)島嶼の生物多様性の維持機構に関する研究
緑藻類の遺伝学的解析の情報量を増大するために,従来用いられていたrbcL遺伝子1128塩基対に加えて,葉緑体コードatpB遺伝子1128塩基対を加えて解析するための方法論の確立を群体性のボルボックス目を用いて実施した。そのために,atpB遺伝子のPCR法による増幅とそれを用いた直接塩基配列決定のプロトコールを確立した。さらに,これを実際に群体性のボルボックス目約30種を用いて実施してみると,従来のrbcL遺伝子だけの場合と比較してブートストラップ値が上昇し,解析の精度が増大することが明らかとなった。
従来の研究で使用されている植生・土壌マップ(大循環モデル用)から内挿して求めたものを用い,用意したデータセット(1993年1月分)を用いて陸面水文課程モデルを実行した。父島をはじめ伊豆・小笠原諸島でAMeDAS観測点のあるすべての地点での結果が出ているがどの地点でもモデルは安定に走った。
シロテツ属(小笠原固有属)の形態と生理特性を調べた。オオバシロテツは特に明るい場所に生育し,光合成速度は著しく高かった。オオバシロテツとシロテツは林内の様々な光環境に生育していた。
オオハマギキョウは小笠原固有種で絶滅危急種であるが,東島に自然集団が見つかり,一度絶滅に瀕した地域個体群の回復過程の解析を始めた。発芽開始の遅延と発芽に光要求性が見つかり,実生の死亡の危険を下げるものと解釈された。ロゼット個体のサイズ分布を調べたところ,オオハマギキョウの繁殖様式はサイズ依存的であることがわかった。
父島におけるオオハマボウ(アオイ科の広域分布種)の自然集団の分布を明らかにした。陸側からの淡水が伏流として海岸に流れ込む立地にのみオオハマボウは純群落として生育していた。マングローブ林を欠く小笠原の特徴と考えられるが,特に八瀬川河口には学術的に貴重な群落で,他の小集団の遺伝子流動(ジーンフロー)の源になっている可能性が示唆された。
(3)島嶼における移入種の侵入・定着過程に関する研究
移入種セイヨウオオマルハナバチと在来種エゾオオマルハナバチの種間差および種内変異をとらえる有効な遺伝的マーカーの開発を目的として,二種の様々なコロニーにおけるアロザイムおよびDNA(マイクロサテライト)変異の解析を行った。
自生樹木43種のフェノロジー調査の結果とつき合わせてみると,ハシブトガラスは人間が好む果実を中心に一年中果実を利用していることがわかった。果実の利用が低くなる初夏から夏にかけては大型の昆虫,セミ類,コガネムシ類を,秋にはカマキリ類の成虫と卵鞘を利用していた。しかしながら,真冬には果実が枯渇する端境期があり,ねぐらの位置が人家に近くに移動して,多くの個体が一日中集落内に留まるようになった。この時期の餌資源として,生ごみやサツマイモの干しいもなどが利用されているようである。
(4)島嶼の生態系保全のためのモデリング・評価に関する研究
父島におけるオガサワラノスリの現在の生息数をより精度高く知ることを第一の目的にした調査を行った(3月8〜17日)。その結果,一部地域の調査がまだ不十分であるものの,父島には従来報告されている推定生息数より多い,少なくとも20番以上の個体が生息することが明らかになってきた。
鳥類の保全のためにモズとイソヒヨドリの行動圏・営巣場所・餌生物を調べた。営巣場所はほとんど重ならずモズは樹上,イソヒヨドリは岩上や人工物上に多かった。
樹木個体群の動態モデルTINAを開発した。TINAはそれぞれの個体を独立の存在として扱う個体ベースモデルである。各個体はサイズ,位置,樹種などのデータのまとまりとして表現され,それぞれがおかれた光環境,現在のサイズ,および種の特性に応じて成長・繁殖・死亡する。光環境はまわりの個体による被陰の効果を逐一計算して求める。種子捕食者,送粉者との相互関係や外部撹乱要因も組み込まれている。
環境が人為的に分断化されている状況の中を生物が侵入したとき,それが定着して存続する条件,分布域を広げることのできる条件,ならびに,その空間的な伝播速度を数理モデルを用いて求めた。
沖縄本島で採集した帰化種,Kalanchoe tubifloraとK.gastonisの2種は,潅水を十分に行った植物でも有機酸の日変化が見られ,典型的なCAM植物であることが明らかとなった。一方,十分に潅水した在来のSedum属4種では有機酸の顕著な日変化は見られなかったものの,乾燥処理によってSedumaizoon
var. aizoon, S. aizoon var. fleribundumでは夜間に酸度が高く日中低下するCAM植物特有の酸度の日変化が見られた。
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