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環境研究総合推進費による研究(地球環境研究)
8.人間・社会的側面からみた地球環境問題に関する研究
〔担当者〕
| 地球環境研究グループ |
: |
森田恒幸 |
| 地域環境研究グループ |
: |
兜 眞徳 |
| 社会環境システム部 |
: |
原沢英夫・青柳みどり・高橋 潔 |
| 水土壌圏環境部 |
: |
大坪國順 |
| 環境健康部 |
: |
本田 靖 |
| 下線は研究代表者を示す |
〔目 的〕
地球環境研究総合推進費における本研究分野は,地球環境変化の人間・社会的側面の国際共同研究計画(International Human
Dimension Programme on Global Environmental Change: IHDP)に積極的に貢献していくために,平成7年度に創設された。
IHDPは地球環境変化の人為的要因とその地球環境変化が人間社会に及ぼす影響の2つの側面を研究するもので,具体的な研究分野として,土地利用・被覆変化,産業構造の変化とエネルギーの生産と消費,資源利用に関する人口・社会的側面,環境倫理や環境教育,資源利用や人口推移を決める各種制度,及び環境の安全性と持続的発展が挙げられる。
〔内 容〕
「環境に関する知識,関心,認識およびその相互疎通に関する国際比較研究」は,市民を社会の基礎単位の個人,及び経済活動の一主体としての消費者及び企業としてとらえ,社会調査法により,個人・消費者・企業の価値観,態度,行動をとらえること,さらに,国際的な比較を行うことにより日本の個人・消費者・企業をとらえ,持続可能な社会のあり方を検討することを目的としている。
「アジア諸国における開発水準と生活の豊かさ(QOL),環境リスク認知・行動に関する研究」では,開発活動と環境問題水準の異なる中国とインドネシアのそれぞれ複数の主要都市及び開発水準の低いインド,ネパール,バングラデシュ及びパプアニューギニアの典型的な農村地域において,健康と生体系に影響する主たる環境要因のリスクを客観的に評価すること,「環境リスク」全般についての知識,認知および対処行動の実態を比較調査し,その結果を「環境リスク転換」の観点から評価することを目的としている。
「地球環境保全に関する土地利用・被覆変化研究(LU/GEC)」においては,アジア・太平洋地域における持続可能な土地利用のあり方という観点から地球環境保全のための適切な政策オプションを提案することが最終目標である。第一期(3年間)では,アジア・太平洋地域各国における2025年,2050年の土地利用・被覆の状況の予測を行い,どの国にどのような荒廃的な変化が起きるかを洗い出した。サブテーマ(1)では土地利用・被覆変化の長期予測モデル(LU/GECモデル)の開発,サブテーマ(2)では国際交流研究としてLU/GECモデルを適用するために必要なデータセットの構築とそれを用いた土地利用変化予測手法の開発と予測を行った。
「アジア地域における人間活動による広域環境変化と経済発展の相互影響に関する研究」においては,アジア地域の発展途上国では,経済活動の拡大に伴う人間活動が一次産業などの基盤となる環境資源の持続不可能な利用等をもたらしているとの観点から,(1)人間活動に伴う広域的な環境変化とその社会・経済へ及ぼす影響を同定するとともに,(2)人間活動−環境変化の相互影響を考慮した人間活動−環境−社会・経済影響を評価するモデルを構築し,持続可能な発展を実現するための施策を検討することを目的としている。
〔成 果〕
(1)環境に関する知識,関心,認識およびその相互疎通に関する国際比較研究
持続可能な社会の形成のためには,個人及び企業等集団の意識改革が必要であり,各主体の価値観,意識,行動規範の把握なくして,持続可能な社会への誘導はあり得ない。本研究は市民を社会の基礎単位の個人,及び経済活動の一主体としての消費者及び企業としてとらえ,それぞれの価値観,態度,行動をとらえることに特色がある。
本研究は,大きく3つの部分から構成される。
1)包括的地球環境調査(GOES)においては,調査項目として,環境(公害項目,自然環境項目,地球環境問題項目を含む)についての認識,知識,態度,行動,それらと社会経済データ,個人属性を取り上げ,各国の成人男女を対象とした調査を行う。
2)アジアの「新中間層」の環境意識と行動,消費生活を比較調査することによりアジアの経済発展の方向を探る。
3)日本におけるグリーンコンシューマーについての調査を,ドイツとの比較調査を行い,制度や法律の差,意識の差が消費者の購買行動にどう影響を与えているのかを比較分析する。
上記1)のGOESにおいては,平成9年9月にGOES日本分の調査を実施した。調査項目は,環境問題に関する認識,価値観に関する項目,消費者行動,資源節約行動,交通選択行動,属性などである。単純集計結果から得られる知見について簡単に述べる。「一般的に最も危険だと思われる環境問題」「自分や自分の家族にとって最も危険だと思われる環境問題」についてあげさせた結果,一般の人々はローカルな環境問題(水質汚濁,大気汚染,農薬や化学肥料など)をより危険だと認識しており,地球規模の環境問題(オゾン層破壊,地球温暖化)などを危険と認識するものは少ないことがわかった(図1)。しかし,「重要な環境問題」について挙げさせたところ,大気汚染などローカルな環境問題以外に,「地球温暖化」問題があげられ,地球環境問題の重要性についての認識は高まっていることがうかがえる結果となった。また,最も深刻な問題としては産業廃棄物,大気汚染,化学物質の順にあがった。大気,水,廃棄物,化学物質など,いわゆる「汚染」の問題が非常に深刻な問題としてとらえられていることがわかる。逆に,生物多様性の減少や森林の減少,土壌浸食など生態系の問題は汚染の問題に比べると,あまり深刻だとはとらえられていないことがわかった。
〔発 表〕C-5〜8,c-2,3
(2)アジア諸国における開発水準と生活の豊かさ (QOL),環境リスク認知・行動に関する研究
アジア地域の開発途上国における環境意識・行動について,その背景要因と考えられる社会・経済及び環境の開発水準および生活・健康水準(したがって人口転換の水準)を基本として把握・整理することを目的として,中国とインドネシアの主要都市部,およびインド,ネパール,バングラディシュ及びパプアニューギニアの農村地域での調査を行った。
各国における調査対象地域を,都市と農村に分けた。都市における環境負荷には,大気汚染・水質汚濁・土壌汚染・騒音・振動等の地域型の環境問題と,同時に地球温暖化やオゾン層破壊を初めとする地球型の環境問題に関するものがあるが,それらは「健康リスク,生態系リスク及び生活の質(QOL)」の3つの側面から評価し,環境負荷を比較検討する。一方,農村での「環境リスク」としては,急激な人口増加を背景に,自然環境の乱開発による森林破壊・耕地の荒廃,砂漠化や飲料水の枯渇,農薬汚染,その他衛生環境の問題が大きい。このことは,とくに開発水準の低い国の場合の疾病・死亡構造が,感染症や新生児死亡が多いことによって特徴付けられる。
平成9年度は,中国では北京と成都の中心市街化地域,またインドネシアではジャカルタにおいて,それぞれ工業化地域,商業化地域,住宅地域及び農村からの流動人口集積地域を区分し,それぞれの代表的小地域を抽出して,質問紙による住民の「環境リスク」に関する知識と認知と対処行動に関する調査を実施した(各都市で少なくとも成人男女1,000人と彼らの15歳未満の子供を対象)。インドネシアでは,さらに大学生についての調査も追加した。一方,インド,ネパール,バングラディシュ及びパプアニューギニアでは各50の農村での自然破壊の実態とそのメカニズムに関する村を単位とした調査を行った。
例えば,中国の都市調査の予備的解析では,「環境リスク」の知識と認知および対処行動には,都市による違いのあることが示唆された。一方,各都市とも工業地域では大気汚染など環境汚染が深刻な状況にあり,小児の呼吸器疾患の有病割合が他地域に比較して高い傾向があった。この傾向には,屋外の大気汚染のみならず,一般に劣悪な状況にある室内汚染の問題も大きい。しかし,住民の意識としては,車の大気汚染に比較して低いことが明らかになった。WHOのHealthy
Cities Projectなどの客観的なデータがある程度利用可能なので,今後そうしたデータも用いながら,さらに詳細な評価を行う必要がある。
〔発 表〕e-54
(3)地球環境保全に関する土地利用・被覆変化研究 (LU/GEC)
LU/GECプロジェクトの第1期は2つのサブテーマからなり,平成9年度が最終年である。
1)アジア・太平洋地域の土地利用・被覆変化の長期予測に関する研究
土地利用・被覆変化の長期予測モデルを構築するためにLU/GEC検討会を設置し,以下の4つのグループに分かれて作業を分担した。
@基本モデルグループ・・・・本サブテーマの中心となる基本モデル(LUGEC-T)の開発と適用を図った。
A中国モデルグループ・・・・華東地域長江最下流と内蒙古地域の現地調査に引き続いて,商品作物農業が最も進行している珠江デルタ(広東省)の現地調査を実施した。
B東南アジアモデルグループ・・・・ジャカルタ周辺での調査に基づいて道路整備に伴う都市的利用拡大のモデル化を行った。また,森林面積の減少に関する社会・経済的要因について島単位にマルチロジスティックモデルを適用して検討した。
C全域拡張グループ・・・・アジア・太平洋地域の各国について,土地利用・被覆変化に関連するデータの所在調査およびデータ収集を行った。ほとんどの国で,国レベル以下の行政単位ではヒストリカルデータが全く整備されていないことが明らかとなった。LU/GEC-Uモデル(一般化KSIM法)をインド,韓国に適用した結果,国レベルでの土地利用シェアの変化予測は一応可能と判断した。
2)地理情報システムを用いたアジア・太平洋地域の土地利用・被覆データのスケーリング手法の開発に関する研究
@中国における土地利用・被覆データセットの開発
中国全土を対象とした県(日本の郡)単位での農業関連のデータセット,長江下流域を対象とした県または地区(日本の広域市町村)単位での社会・経済データセット及び省単位のデータセット(特に,入手が困難な森林面積に関するヒストリカルデータ)を整備した。アジア各国では,国レベル以下の行政単位でのデータ整備が非常に遅れていることが判明したため,国単位データを用いて土地利用のシェア変化が予測できるLU/GEC-Uモデル(一般KSIM法)を開発し,2050年までの中国での土地利用のシェア変化を予測した。
Aインドネシアにおける土地利用・被覆データセットの開発に関する研究
インドネシアにおける土地利用・被覆変化を論じるために必要なデータセットを整備するとともに,これらのデータが利用できる土地利用・被覆変化予測モデルを構築してその適用を図った。このモデルは,土地面積,土地の生産性,作物生産量及び食糧の需要供給バランスの間に成立する基本的関係を単純化して誘導されたもので,モデルの性格から土地利用変化に関する定弾性動的均衡モデルと名付けられた。
Bタイにおける土地利用・被覆データセットの開発に関する研究
タイにおける土地利用・被覆変化の将来予測シミュレーションに必要な人文科学的および自然科学的データのデータベースの構築と2050年までのタイの土地利用・被覆変化の予測を目指した。土地利用・被覆変化に関係するデータの所在を調べ,国,州,県レベルに分類してデータを収集しデータベースを整備した。タイでは,全土を北部,北東部,中央部,南部の4区分した単位でヒストリカルデータが揃っている。タイにおいてもデータの不足からLU/GEC基本モデル(LU/GEC-T)を適用するのは困難と判断し,4つの地方に対してLU/GEC-U(GKSIM法)モデルの適用を試みた。4地域ごとに人口の将来予測がなされ森林保護政策が打ち出されているので,GDPを中位の成長シナリオで与えて,LU/GEC-Uモデルを用いて土地利用のシェアの強化を予測した。
〔発 表〕I-4,i-6,9
(4)アジア地域における人間活動による広域環境変化と経済発展の相互影響に関する研究
本研究は,アジア地域の発展途上国における一次産業を中心とした人間活動の変化と環境変化・温暖化の相互作用を解析,評価,予測しているが,平成9年度は,前年度の成果に基づいてモデル開発を中心に進めた。
1)人間活動−環境変化−社会・経済の相互影響のモデル化
人間活動−環境変化(気候変動)−社会・経済変化を総合的にとらえるためには統合モデルによるアプローチが適している。既存のこの種のモデルのレビュー結果をもとに,『人間活動−環境変化−社会・経済』モデルの基本的なフレームワークを示した。本モデルは農業,水資源,健康の各サブモデルとそれらを経済的視点からリンクする経済モデルから構成される。モデル開発に当たっては,アジア地域で将来の経済発展の鍵を握る人口増加,経済発展も著しい中国,インドを取り上げ,各国研究者の協力を得て,モデルの基本構造や検証・適用に必要な環境,社会,経済データを収集した。
2)アジア地域における食糧安全保障
アジア地域の各国の食料事情を比較検討するために,一人当たりのGNPなどの4つの要因を考慮した食糧安全保障の評価指標を作成した(図2)。この指標値から,アジア地域においては,中国とともに食糧需給の悪化が懸念されているのが,インドをはじめとしたインド亜大陸の各国である。インドでは,人口増加が著しく2050年には,中国(15.6億人,世界銀行による世界人口長期推計による)を抜く人口(16.2億人)を擁すると予測される。温暖化により,この地域の穀物収量が大幅に減少すると予想される。アジア各国で穀物収量が将来変化した場合の影響を貿易データベースをもとに,一般均衡型経済モデルを用いて検討した。農業生産性の変化を外的変数として与え,現在の貿易条件を仮定した場合の影響を見たが,貿易を通じて穀物市場価格が変化することにより,各国経済に与える影響が異なることが指摘できる。例えば,インドで農業生産性が悪化すると農産物価格が高騰し,消費者余剰で図った社会的厚生が5%程減少した。人口の急増による食糧需要の増大と,温暖化など環境変化による生産性減少による供給量の減少から生じる需給のアンバランスは,国際的な貿易を通じても解消しない可能性が高く,農産物価格の高騰は人々の食糧確保を困難にする可能性が高い。
〔発 表〕C-29,30
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