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環境研究総合推進費による研究(地球環境研究)
1.オゾン層の破壊に関する研究
〔担当者〕
| 地球環境研究グループ |
: |
中根英昭・秋吉英治・笹野泰弘・鈴木 睦・中島英彰 |
| 化学環境部 |
: |
横内陽子・久米 博・柴田康行 |
| 環境健康部 |
: |
遠山千春・藤巻秀和・野原恵子・青木康展・佐藤雅彦・小野雅司・ 本田 靖 |
| 大気圏環境部 |
: |
鷲田伸明・菅田誠治・今村隆史・猪俣 敏・古林 仁・杉本伸夫・松井一郎 |
| 生物圏環境部 |
: |
佐治 光・久保明弘・青野光子 |
| 地域環境研究グループ |
: |
森田昌敏・中嶋信美・松本幸雄 |
| 地球環境研究センター |
: |
神沢 博・横田達也 |
| 科学技術特別研究員 |
: |
長浜智生 |
| 客員研究員34名,共同研究員 7名 |
| 下線は研究代表者を示す |
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〔目 的〕
北半球中高緯度においては,1980年代後半からオゾン減少傾向が顕著になってきた。特に,1995年,1996年,1997年の冬季〜春季に,北極極渦内でのオゾン層破壊が大きく進むなど,最近極域から中緯度にかけてのオゾン層破壊が深刻化している。フロンを主とするオゾン層破壊物質の成層圏大気中濃度は今世紀中にピークを迎え,緩やかな減少に向かうとされているが,臭化メチル等最近その影響がクローズアップされてきたオゾン層破壊物質に関しては,その動態,対策ともに不明な点が多く,研究が急務である。さらに,極域成層圏の寒冷化傾向が続くならば,オゾン層破壊の回復が遅れる可能性があり,観測に基づいてオゾン層破壊の動向と機構を解明することが求められている。1996年に打ち上げられた国産の地球観測衛星「みどり(ADEOS)」は1997年6月30日に停止したが,1997年春季の大規模なオゾン層破壊についてILAS等により詳細な観測データが得られた。これらの衛星データを活用するとともに,地上からの遠隔計測,気球観測を組み合わせた総合的な観測により,オゾン層破壊の機構を解明しモデル化する研究を進めること及び,このように
深刻化したオゾン層破壊が人の健康や生物・生態に及ぼす影響,その蓄積の影響等に関する研究を進めることが本研究の目的である。
〔内 容〕
(1)衛星データ等を活用したオゾン層破壊機構の解明とモデル化に関する研究
ILASデータ等を用いたオゾン層破壊における極渦変動の影響の解明,東シベリア及び日本における地上からの観測による極渦が中緯度のオゾン層変動に及ぼす影響の解明,統計的手法によるオゾン層変動の力学的・化学的要因の関連性の解明,化学−放射−力学結合モデルによる極渦の物理・化学過程の解明,オゾン層破壊にとって重要な塩素分子・ラジカルの不均一反応機構の解明,中層大気における力学・光化学結合過程の解明を行う。
(2)臭化メチル等の環境中挙動の把握と削減・代替技術の開発に関する研究
臭化メチルの環境中挙動を把握するための,その起源と大気中の分布・反応の研究,放射性炭素同位体比測定による臭化メチルの起源の研究,臭化メチル及び代替物質の人への暴露実態と影響の評価に関する研究を行う。
(3)オゾン層破壊関連大気微量物質の衛星利用遠隔計測に関する研究
太陽掩蔽法オゾンセンサーによるエアロゾル計測,衛星搭載リフレクタを用いた地上衛星間レーザー長光路吸収法による大気微量分子の計測,可視・中間赤外・赤外波長域大気透過率データを用いたエアロゾル情報の高精度推定に関する研究を行う。
(4)紫外線の増加が人の健康に及ぼす影響に関する疫学的視点を中心とした研究
ライフスタイルを考慮した標的部位における紫外線有効暴露量評価手法の開発,白内障の実態把握ならびに白内障発症と紫外線暴露との関連性,人の紫外線暴露に対する遺伝的感受性決定要因,発がん物質への複合暴露による発がん過程に及ぼす修飾因子に関する研究を行う。
(5)紫外線増加が生態系に及ぼす影響に関する研究
紫外線増加が野生植物に与える影響の評価に関する研究を行う。
〔成 果〕
(1)衛星データ等を活用したオゾン層破壊機構の解明及びモデル化に関する研究
極渦内のオゾン及びオゾン層破壊関連物質の変動を明らかにするために,北極域の二地点(キルナ,フェアバンクス)及び南極域の二地点(昭和基地,アライバルハイト)で地上からのオゾン層観測を行うとともに,ILASによって得られたデータの解析を行った。これらのデータの解析から,1996/1997年の冬の北極域のオゾン破壊においては脱窒(dinitrification)が重要であること等が示された。また,東シベリアのヤクーツク及び北海道母子里でオゾンゾンデ観測を継続するとともに,ヤクーツクで1997年に得られたデータ等の解析を行い,高度15〜20kmを中心に各高度のオゾン破壊速度を求めた。得られたオゾン破壊速度は,ILASデータから得られた値と良く一致していた。さらに,過去と現在の衛星観測データに見られる基本統計量の比較検討,大気力学場・温度場に基づく極渦の安定化に関する年々変動の解明,窒素酸化物相互間の変動の特徴の解明,成層圏エアロゾルがオゾン層に及ぼす影響に関する研究等を行った。
化学輸送モデルに関しては,CCSR/NIES大気大循環モデルにClOx系を組み込み,このモデルとNCEP客観解析データを同化した。同時に,極域成層圏雲上の不均一反応を含んだトラジェクトリーボックスモデルを開発し,観測結果との比較を行った。また,ヨウ化メチルの光分解について調べ,CH3+Iの過程のほかに,HII分子を生成する過程が存在することを見いだした。また,レーザーレーダーから得た気温鉛直分布をロケットゾンデデータ等と比較し,さらに,鉛直方向の波動構造について検討した。
〔発 表〕A-3〜6,44〜50,F-1,27,I-13,14,a-1〜8,61〜77,f-8〜10,43,47,65,74,i-10〜24
(2)臭化メチル等の環境中挙動の把握と削減代替技術の開発に関する研究
北緯30°から南緯70°までの海洋上の臭化メチル濃度の観測を行った結果,北半球で10〜12pptv,南半球で7〜9pptvであった。この中で,カリマンタン東岸の赤道付近でバイオマス燃焼の影響によると思われる高濃度の臭化メチルを観測した。ΔCH3Br/ΔCH3Cl比に基づいてバイオマス燃焼による臭化メチルのグローバルな発生量を推定すると10〜55Gg/年であった。臭化メチル代替品の一つであるクロロピクリンの大気質への影響を評価するための光化学チャンバー実験を行い,その主な消失過程は光分解であること,ホスゲンが収率1で生成することが分かった。クロロピクリンは都市郊外で使用されるので光化学スモッグとの相互作用が問題となるが,クロロピクリンが光化学オゾンの増大をもたらすことが明らかになった。加速器質量分析測定の精度と確度の向上と微量炭素資料測定条件の検討,臭化メチル捕集・生成装置の作成と評価を行った。さらに,臭化メチルの使用実態調査及び暴露の影響調査を行った結果,ハウスの開放の時期,ハウス内の臭化メチル濃度等,その使用実態には種々の問題があることが明らかになった。
〔発 表〕D-10〜12,39〜40,F-1,26〜30
(3)オゾン層破壊関連大気微量物質の衛星利用遠隔計測に関する研究
太陽掩蔽法を測定原理とする改良型大気周縁赤外分光計(ILAS)の赤外分光計データの信号処理において,エアロゾル/PSCs(極成層圏雲)等による連続吸収スペクトル成分を,気体などによる吸収スペクトルと分離し,補正することが要請されている。同時に,分離されたエアロゾル/PSCs等による連続吸収スペクトルは,エアロゾル/PSCsの種類の同定や,定量化の情報を与える。本研究では,解析手法の提案,シミュレーションによる検討,実データへの適用を行った。
シミュレーションによれば,提案した方法でエアロゾル/PSCs種類の判定と,粒径分布パラメータの推定が可能であることが示された。実際のILASデータへ適用したところ,気体成分による寄与,エアロゾル/PSCsによる寄与以外に,オフセット成分の存在が認められ,提案した方法そのままでの適用は困難であった。現実的な対処として,線形補間法を採用し気体成分の導出を行った。また,エアロゾル/PSCsによる吸収スペクトルとオフセット分の線形結合で,非気体成分を表現し,気体成分との同時推定を行った。いずれも,合理的な補正が行われている。
衛星搭載リフレクタ(ADEOS搭載RIS)を用いて地上衛星間レーザー長光路吸収法によるオゾンの観測実験を行い,測定誤差の評価,地上システムの改良等を行った。1997年6月30日にADEOSが運用停止となったため十分な観測データの蓄積が得られなかったが,測定手法を実証し,評価を行うことができた。RIS搭載システムの光学性能,分光測定手法,測定誤差等の評価を行い,地上衛星間レーザー長光路吸収による大気微量分子測定の手法の考察を行った。
〔発 表〕A-22,23,25,27,F-10〜19,a-32,36〜38,40,f-33〜40,46,51,57
(4)紫外線の増加が人に及ぼす影響に関する研究
「ライフスタイルを考慮した,標的部位における紫外線有効暴露量評価手法の開発に関する研究」においては,1)紫外線照射量をはじめ,自然環境の大きく異なる国内外の数地区(能登,つくば,奄美,アイスランド)で紫外線暴露の第一の規定要因である人々の戸外活動時間並びに地域住民の諸属性(居住歴,職業歴,行動パターン,帽子やメガネの着用等)に関する実態調査を行い,紫外線暴露量推定のための基礎データを収集した。さらに,2)紫外線暴露に及ぼす各種要因(眼鏡,帽子着用の効果等)の効果についてマネキンモデルを使った野外実験を開始した。
「白内障の実態把握並びに,白内障発症と紫外線暴露との関連性解明に関する国際比較研究」においては,これまでの国内外での調査結果をより明確にするために,あらたにシンガポール(中国系住民)で同一の手法による眼科検診を実施した。シンガポールの調査から,奄美,沖縄と同程度あるいは,より進行の早い水晶体混濁が観察された。
「人の紫外線暴露に対する遺伝的感受性決定要因の解明に関する実験的研究」においては,HSV-チミジンキナーゼ遺伝子を導入したラット細胞を用いて紫外線によって引き起こされる突然変異の波長依存性を調べた。300nmにおける突然変異の発生頻度を基準にした場合,320nmでの変異発生頻度は従来バクテリアを用いて調べられたよりも,一桁上昇していた。
「発がん物質への複合暴露による発がん過程に及ぼす修飾要因に関する実験的研究」においては,疫学的データのモデルとなる実験系を作成して検討を開始した。本年度は,酸化ストレスに対する除去機能を有するタンパクであるメタロチオネインを欠損したマウスに,7,12-ジメチルベンズ(a)アントラセンと紫外線を暴露した。これまでの予備的な結果においては,メタロチオネイン欠損マウスにおいて,皮膚の潰瘍などの障害が出やすい傾向があることが判明した。
〔発 表〕E-1,9,e-12,22〜23,26,31
(5)紫外線増加が野生植物に与える影響の評価に関する研究
紫外線の増加が野生植物にどのような影響を与えるかを検討するため,白山地域の異なる高度に生育しているアキノキリンソウの種子を採取し,水耕栽培及び土耕で栽培した。その結果,発芽率に関しては水耕,土耕ともに40〜85%の良好な値を示した。土耕では順調な生育が見られたが,水耕栽培では播種後6週間で生育が止まり,葉にクロロシスが見られた。次に播種後3週間の幼苗(土耕)にUV-B照射実験を行った。光及び温度の条件は日長12時間,明期18℃,暗期14℃で光強度は250μE/m2/secで行った。UV-Bの照射条件は,0.08W/m2の強度で明期に連続照射を行った。その結果,UV-B照射区では照射開始後7日目で8地点すべてのグループで生育阻害が見られた。また,本葉及び子葉が著しく赤化した。葉の赤化はアントシアニンの蓄積によるものと推定される。
また,太陽光紫外線が植物のDNAに損傷を与えるかどうかを検討するため,キュウリの子葉に太陽光を照射したときに,生成するシクロブタン型ピリミジンダイマー(CPD)及び6,4-光産物(6,4-PP)の量を測定した。照射は札幌の5月25日〜7月19日の快晴の日を選び10:30〜13:30の3時間行った。照射後速やかにDNAを抽出し,CPD及び6,4-PPをELISA法で定量した。その結果,U-330フィルターで光回復に必要な波長域を除去した場合,CPD,6,4-PPともに照射量に依存して増加する傾向が認められた。一方,太陽光からの全放射スペクトルを照射したときには照射量と損傷物質の量との間に明確な相関は見られなかった。またUV-32フィルターで紫外線を除去した場合,損傷物質の蓄積量は検出限界以下であった。以上の結果から太陽光のUV-Bは植物のDNAに損傷を与えるレベルであること,形成された損傷は太陽からの可視光により光回復を受け,その多くが修復されることが明らかとなった。
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