〔期 間〕
平成9〜14年度(1997〜2002年度)
〔目 的〕
本研究は,国際共同研究であるJGOFS(Joint Global Ocean Flux Study)の枠組みの中で,北西太平洋高緯度海域の定点時系列観測を行う。高緯度海域の特徴である季節的な水温変化,混合層深度変化によってもたらされる海洋構造の変化を理解した上で,物質循環の季節変化の全体把握を行う。特に海域の二酸化炭素の交換(吸収・放出)にかかわる生物生産の規定要因を解明するために,炭酸系の精密観測,生物生産量と関連因子の解明に重点を置く。既存時系列観測である定期貨物船観測,衛星観測で得られる表面水情報と,この時系列観測で得られる,鉛直プロファイルの情報を総合解析することによって,季節的に変動する現象を正確に把握することができる。北太平洋では,ハワイとアラスカ湾の2点で時系列物質循環観測が継続されているが,我が国では外洋定点での時系列観測は行われていなかった。本研究課題によって,北緯44°,東経155°を定点と定める亜寒帯北西太平洋定点(KNOT:Kyodo
North pacific Ocean Time series)観測が開始されることとなった。
〔内 容〕
北西太平洋亜寒帯域では,CO2の吸収・放出に大きな季節変化があり,3月には二酸化炭素分圧の最大値がみられCO2放出域として作用する。春の植物生産で無機炭酸が固定され二酸化炭素分圧は低下し吸収域に変わる。秋に最低値となった後,混合層深度が増し,無機炭酸の回帰で冬季の二酸化炭素分圧上昇が起こる。栄養塩類も,同様な季節変化を示す。これは,国立環境研究所とカナダ海洋科学研究所の共同プロジェクトによる貨物船観測で確かめられた。このように,西部太平洋で二酸化炭素分圧,栄養塩類に見られる大きな季節振幅は,東部太平洋では顕著でなく,西部太平洋の生物生産性の高さを示す結果となった。
この機構の解明には,表層に限られる商船による観測では不十分で,海洋の鉛直構造と関連物質の分布を計測できる,研究船の観測が必要である。特に時系列的に一定点で計測すると,季節変化を支配する要因の解明を行うことができる。
本研究では,国内研究機関所属研究船の北西太平洋高緯度海域航海の中で,一定点での質の揃った化学・生物観測を行い,時系列的にデータを集めて解析する。開始年度の本年度は,観測の枠組みの確立,観測設備と機器の整備を行った。
観測の枠組みとしては,1998年から2000年の本課題集中観測期間における,本課題協力機関の既存航海予定を考慮し,本課題観測要員が乗船して観測する時系列計画を立てた。
観測設備と機器については,炭酸系の船上測定機器として,二酸化炭素分圧測定装置,全炭酸アルカリ度自動測定装置の新規開発を行った。
〔成 果〕
(1)定点時系列観測体制の構築
海洋定点時系列観測は,海洋での生物化学過程の季節変化と,長期の海洋環境変化を解明するアプローチで,北太平洋ではハワイ,アラスカ湾で継続されている。我が国では,これまでは外洋定点での時系列物質循環観測が行われていなかったが,本研究課題が採択され,亜寒帯北西太平洋定点観測を開始することとなった。
本年は,研究機関の協力体制と近隣海域調査観測船のネットワークで,次年度以降の定点観測維持体制を作り上げた。計画会議,外国研究者を含むワークショップを通じて今後の維持体制を協議し,1998年の観測船定点訪問として9回が確保できること,今後2〜3年にわたり,同程度の回数の定点訪問が継続できることが明らかとなった。
CTD(電導度,水温,深度分布),化学成分(全炭酸,アルカリ度,栄養塩,溶存酸素),生物生産量,植物色素,周辺海域pCO2の測定を,指定航海の必須項目として,それに必要な観測機材の整備を行った。
また,観測の標準化に必要な標準海水試料の調整として,亜熱帯太平洋表層海水を大量に採取し,栄養塩分析作業用ろ過海水,全炭酸・アルカリ度測定用標準海水の調整を行った。
(2)二酸化炭素分圧測定装置の整備
水産庁水産工学研究所の大型室内海水プールを用いて,国内研究機関の測定装置を持ちよる相互比較実験を,戦略的基礎研究課題参加研究者の協力を得て行った。相互比較実験で発案されたバブリング式とミキサー式気液平衡器の組み合わせであるタンデム方式平衡器を応用し,船上使用にあう一体型平衡器を製作した。この装置を,日加間定期貨物船による観測航海でテストし,良い結果を得た。これらの結果を踏まえて,本課題による時系列観測用の標準測定システムを完成させた。
また,定点時系列観測における大気・海洋二酸化炭素測定用標準ガス調製と,標準化システムの準備を行った。
(3)全炭酸・アルカリ度測定装置の整備
全炭酸・アルカリ度の精密測定は,定点時系列観測において,二酸化炭素の収支とその生物活動との関連を解明するために,最も必要な項目である。従来から,船上で電量滴定装置によって全炭酸分析が酸塩基滴定によってアルカリ度が測定されてきたが,特に従来のアルカリ度測定では,開放型のセルで行っているという原理的な問題があった。本課題の観測を進める上で,これらの高精度化と正確さの確保をはかるために,温度管理の徹底した自動全炭酸電量滴定システムと密閉セルによるアルカリ度滴定システムを一体化した自動装置の開発を行った。
アルカリ度は海水中の強塩基と強酸の差の量であり,ほぼ炭酸水素イオン量に対応する量である。これは希塩酸によって海水を滴定して求めるのであるが,開放系での滴定では生成した二酸化炭素が時間を追って逸脱していくので,終点決定が不正確になる。
これまでも,二酸化炭素の逸脱がない密閉セルに酸を加えていく方法が,高精度化,正確化のために行われている例があったが,この方法では,セルの交換,洗浄の自動化が困難であった。今回,一定量の海水を滴定セルの密閉度を保ったままで自動的に送液する方法を,光検出素子の応用で実現し,十分な繰り返し再現性を得た。その結果,全炭酸,アルカリ度を自動測定する小型の船上装置が完成した。
(3)生物・物理・化学的因子の制御による微生物細胞の活性化・機能強化
|