人間活動の急速な拡大が種々の地球規模での環境問題を生起している。その原因,影響,対処についての要因はきわめて輻輳しており,研究には既存学問分野を組み合わせての問題指向型取り組みが必須である。当研究グループは,1990年の発足時より,地球環境の諸問題ごとにチームを結成し,中核の研究を自ら推進するとともに,地球環境研究総合推進費を中心として,内外の研究を組織化しながら,環境保全に有効な科学的知見の集積と利用に努めてきた。
本年度は,1997年12月京都での気候変動枠組み条約第三回締約国会議の開催で,内外で地球環境問題へ注目が集まった年であった。京都議定書に盛り込むべき温室効果ガスの削減量とその方策について議論が高まる中で,当グループで開発された「気候変動に関する統合評価モデルAIM」は,日本の政策検討に数量的な根拠を与えるために広く利用された。削減手段に吸収源が含まれたことから,再び炭素サイクルの研究が重視されるようになったが,当グループでもシベリア温室効果ガス吸排出観測,北太平洋二酸化炭素収支観測がまとまりつつあり,今後の炭素循環論議に一石を投じるであろう。
6月になって地球観測衛星「みどり」が太陽電池系統の故障で機能を停止し,それまで順調に行われていたオゾン層観測センサーILAS/RISによる観測が続けられなくなったのは,きわめて残念なことであった。しかし8カ月間に集積された観測データは極域高層大気の変動状況を極めて明瞭に示しており,取得データを用いた解析が世界で始まっている。これと並行してオゾン層チームは,昨年顕著であった北極域オゾン層の減少に着目した地上観測,モデリングを強化している。
西暦2000年の酸性雨国際学会つくば開催ならびに東アジア酸性雨観測ネットワークの構築の決定に対応し,酸性雨研究チームは航空機観測・大気移流モデル・生態系影響評価等の研究を強化している。海洋研究チームでは,商船利用の観測や水中画像取得により,アジア海域の海洋生態系変動や微量有害化学物質分布の状況,サンゴ礁生態系変質状況の把握を続けている。
森林減少・砂漠化研究チームでは熱帯林の保全・研究管理を目指して,択伐などが森林の機能にどのような影響を与えるかについて調査を行っている。マレーシア半島部のパソ保護林内の天然林と択伐後約40年経過した二次林との間で,森林組成,構造等の比較を行ったところ,二次林では,熱帯林の特徴である突出木層の復活が見られず,林冠高,林冠の表面積において天然林と大きな隔たりがあることがわかった。生物多様性保全の分野では,絶滅過程の解析などとともに,多様性の価値についての研究へと拡大しつつある。
自然の解明をさらに進めると同時に,これをベースにして人間社会がどう持続可能な発展の道筋をつけるかが模索される段階に入った。人間・社会的側面研究チームでは,アジア地域の水資源・農業生産面での環境安全保障,アジア地域特有の環境保全意識や行動を政策に反映させるための調査研究を進めている。
地域環境研究グループは“保全対策”と“リスク評価”の2分野について9課題の特別研究を11チームによって実施した。また,4課題の“開発途上国環境技術共同研究”を4チームによって実施した。それら成果の要点を研究チームごとにまとめると以下のようである。
海域保全研究チームは浅海域における,物質循環と水質浄化能に関する研究を行い,そこでの生態系機能を明らかにした。
湖沼保全研究チームは湖水中の有機物の特性・起源を適切に把握する手法を確立し,湖水中での難分解性有機物濃度上昇の原因を解明し,さらに湖水有機物の質的・量的変化が湖沼環境・水道水源としての湖沼水質に及ぼす影響を評価した。
都市大気保全研究チーム及び交通公害防止研究チームは,VOCによる大気汚染および光化学スモック等の二次的汚染の解明のために,走行中の自動車からの排出量調査などを行って発生状況の把握に努めるとともに,データ解析プラットフォームとしてのGISシステムの開発を行った。また,公共交通,自動車交通,電気自動車等の次世代交通システムのLCA等による比較評価を行い,今後の交通システムのあり方に関する検討を進めた。
有害廃棄物対策研究チームは,有害物質の環境に対する影響を評価する上で不可欠な化学物質の環境濃度を測定するために,最新の物理・化学的分離分析手法の適応性の拡大をはかり,さらにこれを標準化するとともに,埋立処分に関する暴露量評価手法を提示した。
水改善手法研究チームは,今日の社会を特徴づける「人やモノの流れ」を支える技術である自動車交通等の輸送システム及び廃棄物処理・リサイクル等の循環システムを対象とした具体的な事例研究を軸にして,環境負荷インベントリーの作成手法及びこれによる環境影響を総合的に評価する手法を開発した。
環境リスク評価を対象としている分野では,4つの特別研究が行われた。研究内容は,健康リスク評価と生態系リスク評価とに大別できる。
新生生物評価研究チームは,汚染土壌・地下水の浄化に有用な浄化微生物を探索し,浄化機構を解明するとともに,土壌環境中において浄化能を発揮できる環境浄化型微生物を創生する。さらに,浄化微生物の検出法並びに微生物による汚染土壌・地下水の浄化効果の試験方法・本技術のリスク評価手法を開発した。また紫外線及び乾燥ストレス等の植物の代謝活性に及ぼす影響を調べた。
化学物質健康リスク評価研究チームは,環境中のホルモン様化学物質の子(次世代)への影響,とりわけ生殖能力への影響のリスク評価に関する研究を開始し,そのリスク評価のための基礎的データを得ることができた。
都市環境影響評価研究チームは,人間個体レベルのリスクを評価するため,ヒトを対象とした低レベル電磁界暴露実験動物及び培養細胞系を用いた,低〜高レベル電磁界暴露実験を行った。
大気影響評価研究チームは,気管支ぜん息やアレルギー性鼻炎が本当にディーゼル排気の吸入によって発症するのかどうか,発症するとしたらどのようなメカニズムで,またどれくらいの濃度で発症するのか,また肺がんの発症はどのようなメカニズムによるのか,ヒトはどの程度ディーゼル排気に暴露されているのかなどを明らかにし,これらの疾患の予防対策を講じるために有効なデータを得た。
化学物質生態影響評価研究チームは,生態系の実態を十分配慮した,化学物質の生態影響評価のためのバイオモニタリング手法を開発した。特に,河川(桜川)に隣接してバイオモニタリングステーションを設置し,試験生物を河川水に連続暴露し,生物の反応から環境水の毒性を見る手法は有効であった。
健康影響国際共同研究チームは,中国におけるフッ素汚染及び浮遊粉塵汚染による健康影響について,国際共同調査を行うとともに,当研究所の暴露チャンバーを用いて,フッ素及び浮遊粉塵暴露による生体影響を実験的に明らかにし,健康影響の予測と健康被害の予防のための対応策を確立した。
水環境改善国際共同研究チームは,開発途上国における生活排水等の処理方法として,多大な施設とエネルギー消費が伴う処理ではなく,有用生物を活用することによって,自然の浄化能力を強化し,効率化した水処理技術が求められていることを踏まえて研究を推進している。またその開発技術は我が国における水質改善手法の多様化を計る際においての基礎となるものであることから,適正化手法をめざした開発を行っている。
生態系管理国際共同研究チームは,揚子江流域という特有の地域を事例として,広く湖沼の生態系管理手法としての汎用性のある施策の提唱を目的とし,調査を実施し,また国内において霞ヶ浦に設定した隔離水界を用いて,食物網の構成要素,水界透明度等について検討した。
大気環境改善国際共同研究チームは,大きさの異なる人為由来の大気エアロゾルと土壌起源(黄砂)エアロゾルとの通年同時観測を中国各地で行い,その結果をもとに大気環境保全に寄与するような化学的解明を行うために,精密化学分析と鉱物分析を行った。
環境問題は,すべて人間活動が原因であり,人の自然外囲である大気,水,土,生物等の環境を介して,ふたたび人間の生存,生活,社会経済活動等に回帰してくる問題であるといえる。それゆえ,環境問題は一面すぐれて社会的な問題でもある。社会環境システム部では,こうした問題意識のもとに,システム分析等の手法により環境保全に関する政策科学的及び情報科学的な基礎研究を行うことにしている。
本年度は,上席研究官及び環境経済,資源管理,環境計画及び情報解析の4研究室,及び主任研究官が,それぞれ基幹となる合計11の広範な経常研究課題を選定し実施した。同時に,3つの奨励研究課題を環境経済,環境計画及び情報解析研究室で各1課題ずつ実施した。
上席研究官を中心として2つの基本的研究課題を実施した。この中で,環境学の形成に当たって,個別科学と環境問題への認識の関係を明らかにし,また,自由記述法による環境意識調査結果から,大規模開発に関して,その回答から多様な意識を抽出できることを示した。
環境経済研究室で行う経常研究課題では,事例的に環境問題の社会経済的側面の解析と具体の環境保全施策の分析評価を行った。また他の研究課題では,気候変動枠組条約に関する国際交渉をとりあげ,2000年以降の締約国間の具体方策に関し,その動向を予測する調査手法の開発を行った。さらに,炭素税の経済影響についても比較分析を行った。なお,奨励研究では,新たに施行された容器包装リサイクル法について,拡大生産者責務の視点から,外部費用の算定を行い,引き取り事業者の負担割合を明らかにした。
資源管理研究室で行う2つの経常研究課題では,水資源と水環境との関係について調査及び検討を行った。また,廃棄物減量化とその影響に関連し,ライフサイクルによるトータルな環境負荷の算定に重要となるライフサイクル・アセスメント(LCA)手法の確立のため,具体の事例解析を行った。
環境計画研究室では,国の環境基本法及びこれに基づく環境基本計画の策定を受け,自治体レベルでの計画策定が進んでいることに鑑み,その策定プロセスにおける問題点や,専門家の役割について検討した。本年度は,また,奨励研究として,気候変動による河川水量への影響を算定する手法開発を行い,今後のモデル改良の指針を得た。また,主任研究官により,景観評価について,従来の研究成果をとりまとめ,さらに自然風景地利用行動の計測方法に関する調査を行った。
種々の環境システムのデータや情報を的確に解析し,その構造や変動に関する有用な新たな科学的知見を得るためには,効率的な解析手法の開発が不可欠である。情報解析研究室で実施している2つの経常研究課題では,一つが人工衛星,地図,写真等による地理・画像データの解析手法の開発であり,他の一つは種々の環境システムの評価に資するモデル化やシミュレーション手法,特に線型計算手法の開発を行い,さらに,シミュレーション結果のCGによる可視化を行うものである。なお,奨励研究では,騒音伝搬の境界要素法による数値計算の精度改良を行い,従前のシミュレーション手法を改良することが可能になった。
一方,当部における上記の経常及び奨励研究課題の多くは,総合部門の地球・地域環境研究グループで行われている多くのプロジェクト研究課題の一部,及び地球環境研究センターの総合研究課題とも関連して実施している。このため,上記の個別の経常研究課題の実施に当たっては,これらとの連携を十分配慮して研究の方向づけを行っている。
環境問題の解決には,実態把握,機構解明,モデル化,対策立案といった一連の作業が必要となるが,いずれでも,正確かつ信頼性のある環境計測が不可欠となる。化学環境部では,環境中での各種汚染物質の計測・監視技術及び毒性評価方法の開発と,汚染物質の環境動態の解明への応用に関する研究を行っている。
本年度も,それぞれの研究室が業務に合わせた経常研究を実施した。計測技術研究室では,環境汚染物質の測定技術及び測定手法に関する研究を実施した。計測管理研究室は,ダイオキシンやPCBを対象に分析法の精度管理・高精度化の研究を行うとともに,悪臭物質の発生や水の塩素処理による有害物質の生成に関する研究を行った。動態化学研究室では,状態分析法を用い環境/生態系での元素の動態の解明や油流出事故による汚染状況及び生態系被害の調査を継続するとともに,タンデム加速器質量分析システムの測定条件の調整を進め,海水や人骨試料などの分析に適用した。化学毒性研究室では,アオコの毒物質の化学構造と毒性発現機構の解明とバイオアッセイ系によるガス状物質の毒性検定手法の研究を進めた。また,スペシメンバンキングの研究で二枚貝,イカなどの環境試料収集・保存・分析を継続するとともに,環境標準試料の研究ではダイオキシン類をターゲットにしたフライアッシュ抽出物と,ヒ素化合物の形態分析をターゲットとしたヒト尿などの作成や共同分析などを行った。
本年度は,革新的環境監視計測技術先導研究として,大気中の有害化学物質の自動連続多成分同時計測センサーの開発研究を新たに開始した。また,バイカル湖の底泥を用いて地球環境の変動を解析する研究を始め,科学技術振興調整費などに基づくプロジェクト研究を継続実施するとともに,地球・地域環境研究グループが実施するプロジェクト研究にも多くのメンバーが参加した。
環境健康部においては,環境有害因子(窒素酸化物・ディーゼル排気ガス等の大気汚染物質,有害化学物質,重金属,スギ花粉,紫外線,騒音等)がいかにヒトの健康に影響を及ぼすかに関する実験的・疫学的研究を行っている。この研究には,健康影響の現れ方のメカニズムの解明,並びに影響の検出及び評価方法の開発等が含まれる。これら環境有害因子の空間的広がりにより,地域規模での環境問題と地球規模の環境問題に分けられるが,それぞれ総合研究部門の地球環境研究グループ及び地域環境研究グループの研究チームと連携をとりながら,「地球環境研究総合推進費」,「特別研究」,「特別経常研究」を行ってきた。さらに,環境リスク評価のために,重金属,大気汚染物質,紫外線,ダイオキシン等についての文献レビューも行った。
環境因子の影響を臓器や個体レベルで解明する試みとして,大気汚染物質による酸素欠乏と心・循環機能への影響,並びにメチル水銀を投与したラットを対象としたin
vivo状態でのNMRによる機能測定法等について検討した。細胞レベルでの研究としては,気道への影響機構解明のため,炎症細胞の遊走・活性化,T細胞の増殖分化,肺構成細胞の相互作用,並びに神経細胞初代培養系を用いた神経毒性の検出系の開発等の検討を行った。毒性発現を遺伝子レベルで解明するためカドミウム感受性に関与する遺伝子クローニング,メタルチオネインのノックアウトマウスを用いて,DMBAによる皮膚がんに関する研究環境水中の変異原の検出のため,さらにトランジェニックゼブラフィッシュの作成に関する研究を行った。
人間集団を対象とした研究として,国民健康保険受療記録の健康影響指標としての有用性の検討,気象条件と死亡現象との関係,睡眠障害の解析による騒音暴露の影響評価などを引き続き行うとともに,大気中ダイオキシン汚染と健康指標との関係についての検討を開始した。本年度は,13課題の経常研究と1課題の奨励研究が行われた。
大気圏環境部では,地球温暖化,成層圏オゾン層破壊,酸性雨といった地球規模の環境問題や,都市の二酸化窒素問題に代表される地域的な環境問題を解決するための基礎となる研究を推進している。本年度は15課題の経常研究と2課題の奨励研究が行われたほか,地球環境研究グループ(温暖化現象解明,オゾン層,酸性雨各研究チーム),地域環境研究グループ(都市大気保全研究チーム)の準構成員として,さらには地球環境研究センターの併任または協力研究者としてプロジェクト研究推進への協力も行われた。
大気物理研究室では気象力学・流体力学を基礎とした大気循環についての研究が行われた。具体的には気候変動にかかわる気候モデルの開発と応用(大気海洋結合大循環モデルを用いた温室効果ガスおよびエアロゾル増加に伴う気候変化のシミュレーション,熱帯域での積雲対流活動の解析及び雲の放射効果の解析,大気・陸面での熱輸送過程の数値モデル化など),100km程度の地域スケールの大気循環と物質輸送のシミュレーション研究,極中心の大気の渦運動に関する理論的研究が行われた。
大気反応研究室では,気相の化学反応論を基礎とした大気圏での物質の反応の研究が行われた。特に,気相中のフリーラジカル反応としてエチレン及びそのメチル置換体と酸素原子との反応によって生成する一連のビノキシ型ラジカルをレーザー誘起ケイ光法で検出することに成功した。また対流圏上部や下部成層圏などでの大気微量成分の光分解過程や硫黄酸化物の大気酸化過程について光イオン化質量分析法を用いた研究を行った。さらに,光化学反応チャンバーを用いて対流圏光化学オゾンに対するハロゲン化合物の添加効果を実験的に確かめた。対流圏化学に関連した炭化水素やNOyの分析法の研究も行われた。
高層大気研究室では,高層大気を対象とした遠隔計測手法に関する研究が行われ,ミー散乱レーザーレーダーの高度化とデータ解析手法,大気微量分子のレーザー吸収分光手法,全固体化赤外波長可変レーザー技術などの基礎研究が行われた。レーザーレーダーを用いた観測研究では,気候モデルの入力となるデータの作成を目的として対流圏エアロゾルの継続的な観測が実施された。また,ADEOS衛星に搭載されたレーザーリフレクタRISを用いてレーザー長光路吸収法によるオゾンの測定実験が行われ,この手法による大気微量分子の測定が初めて実証された。
大気動態研究室では,化学分析や安定・放射性炭素同位体分析による温室効果気体や関連物質の循環を明らかにする研究を行っている。特に,西シベリアにおけるメタンの発生に関する研究,新しい分析システムの開発によるO2/N2比の測定や省エネ型メタン分析の研究,航空機による温室効果気体の高度分析や,二酸化炭素フラックスの測定などを行った。それらに加えて,廃坑となった鉱山の立坑(高さ400m)を利用して実際に近いスケールで人工雲を発生させる実験を行い,凝結核の添加に伴う雲粒濃度や雲粒径の変化を観測した。
水土壌圏環境部では地球温暖化,酸性雨,海洋汚染,砂漠化といった地球環境問題及び湖沼・海域の水環境保全やバイオテクノロジーを用いた水質改善などの地域環境問題に関して現象解明,影響評価,予測手法,環境改善手法等の基礎的研究を行っている。本年度は地球環境研究5課題,重点共同研究1課題,経常研究11課題,奨励研究2課題,環境基本計画推進調査費による研究1課題,科学技術振興調整費による国際共同研究1課題,災害対策総合推進調整費(国土庁)による研究1課題,文部省・科学研究費補助金による研究9課題を行った。
水環境質研究室では,有機塩素化合物,リグニン酸,フミン酸,重金属等の環境汚濁物質の生成・分解に関与する生物およびそれらの代謝・変換量等について研究を行った。
水環境工学研究室では,水循環研究として,涸沼川・釧路川流域を対象として河川流出モデルの精緻化を図り,物質循環研究では恋瀬川を対象として流域からの河川への農薬流出過程と霞ケ浦での拡散過程についての研究を行った。また,今後の水環境修復技術開発を目的として生態工学利用によるビオトープ,エコトーンの保全に関する基礎的研究を行った。
土壌環境研究室では,土壌中での無機汚染物質,有機汚染物質,及び微生物の挙動についての基礎的研究を行った。また,酸性雨の土壌影響についても調査,研究を行った。
地下環境研究室では,粘性土の圧縮性状,地盤内の地下水の流動特性,地盤沈下観測システムの開発と観測についての研究を行った。
生物圏環境部では分子レベルから生態系レベルまでの生物にかかわる基礎・応用研究を推進している。本年度は奨励研究を含めて18課題の経常研究を行った。科学技術庁振興調整費による研究ではグローバルリサーチネットワーク等4課題,未来環境創造型基礎研究1課題が推進された。
環境植物研究室では,植物形態や群落の3次元計測を目的として,カラーCCDカメラを用いた可搬型の3次元計測システムの開発を行った。このシステムでは,顕微鏡と組み合わせての細胞計測から,70m程度の被写体まで,3%前後の精度での形態計測が可能であった。また,中国現地で採取した植物の耐塩機能について検討した結果,新たに耐塩性を示す植物種がみつかった。一方,高地に生息するオンタデの低地栽培試験を行い,少量ではあるが,種子の採取にも成功した。
環境微生物研究室では,水界生態系で重要な役割を果たしているシアノバクテリアの種レベルでの多様性の形態学的,分子系統学的解析を行った。緊急に保護を必要とされている車軸藻類について,日本各地の湖沼における分布・生育状況の継続調査を行った。湿原の泥炭土壌中より単離したセルロース分解細菌は,アミラーゼ,プロテアーゼなど他の高分子分解酵素も生産した。無色のベン毛藻Aulacomonasが有毒アオコを摂食し,有毒アオコの消長と密接に関連していることを明らかにした。
生態機構研究室では,尾瀬沼に侵入した帰化植物コカナダモの分布調査,尾瀬ヶ原のアカシボの分布・生産及び生育環境の多様性を調べた。筑波山麓の農村地帯を流れる河川において底生動物の季節的な個体数変動調査,所内にある生態圏実験池の水草帯において底生動物の生息場所および餌の選好性の調査を継続し,筑波山麓のゲンジボタルの生息する渓流において,水質測定項目とその羽化率との関係について調べた。
分子生物学研究室では,シロイヌナズナを材料とし,環境ストレス耐性に関与する遺伝子の単離と,その生理機能解明のための研究を進めた。ストレス源としてオゾンと低温を選び,変異原(速中性子線またはメタンスルホン酸エチル)処理系統またはT-DNAタギング系統のシロイヌナズナから,これらのストレス源に感受性の高い個体を選別し,合計14系統のオゾン感受性変異体と20系統の低温感受性変異体が得られた。
地球環境研究センターでは,地球環境研究総合推進費における総合化研究を推進している。総合化研究の研究領域は,分野別に実施されている個々の研究プロジェクトと異なり,(1)個々の研究プロジェクトの成果を集約しつつ,経済学,社会工学的手法を含む観点から総合的かつ体系的に検討を行い,政策の具体的な展開に資する知見を提供する「政策研究」,(2)「課題別研究」として分野ごとに研究プロジェクトが推進される地球環境研究に対し,これらの個々の分野にまたがる研究領域や共通する研究領域を体系的かつ集中的に解析する「横断的研究」,(3)個々の研究領域の重要性を地球環境問題の解決という観点から総合的に評価する「リサーチ・オン・リサーチ」の三つの役割を有している。本年度は,(1)に該当する二つの研究を実施した。第一は,環境と経済を統合して分析できる新しいタイプの経済モデルおよび指標体系の開発を目指した「持続的発展のための環境と経済の統合評価手法に関する研究」,第二は,大陸スケールの環境の状況把握および政策効果の数量的把握に向けた情報システムを国際研究機関との協力の下に構築することを目指した「地球環境予測のための情報のあり方に関する研究」である。さらに,本年度は環境リスク対策を念頭においた「地球環境リスクマネージメントのあり方に関する予備的研究」およびアジアの都市発展のための援助政策に資する「持続可能な都市の発展に関する予備的研究」を課題検討調査研究として行った。いずれの研究も地球環境研究センターの併任研究員,客員研究員等の研究者の協力を得て遂行している。