ここからページ本文です
開発途上国環境技術共同研究
4.大気エアロゾルの計測手法とその環境影響評価手法に関する研究
〔研究担当〕
| 地域環境研究グループ |
: |
森田昌敏・西川雅高 |
| 化学環境部 |
: |
瀬山春彦・田中 敦・吉永 淳・久米 博 |
| 日中友好環境保護センター |
: |
全 浩・黄 業茹・張 穎・任 剣璋・殷 惠民 |
| 客員研究員 |
|
6名 |
| 下線は研究代表者を示す |
〔研究期間〕
平成8〜12年度(1996〜2000年度)
〔研究概要〕
中国の大気エアロゾルによる環境汚染は,非常に深刻な状況にある。その主要な発生源は,石炭燃焼などによる人為由来のものと内陸部砂漠乾燥地帯から発生する砂塵嵐に起因する自然由来のものに大別できる。人為由来のエアロゾルも自然由来のエアロゾルも,ともに,日本の現状に比べると1〜2桁程度大気中濃度が高い。人為由来のエアロゾルについては,日本でもかって局所的汚染地域で観測した濃度レベルであるが,自然由来の土壌起源系(黄砂)エアロゾルによる大気汚染は,中国特有のものである。
土壌起源系(黄砂)エアロゾルによる大気汚染は,北京では晩冬から春にかけて最もひどい状態であるが,内陸部ではその他の季節も無視できない。土壌起源系(黄砂)エアロゾルは,その風送過程で,酸性ガス成分を表面捕捉することが知られている。その結果として,土壌起源系(黄砂)エアロゾルの化学組成や形態の変質現象が生じると思われる。このような大気エアロゾルが高濃度で混ざり合った状態の都市環境について研究された例がなく,土壌起源系(黄砂)エアロゾルが,中国の都市大気汚染を進行あるいは抑制のいずれの方向に作用するのか明らかになっていない。このような土壌起源系(黄砂)エアロゾルの大きさは,発生源に近い内陸部の都市域と北京のような発生源から比較的離れた都市域を比較すると粒径分布が異なることが考えられる。燃焼過程を経て大気中に放出される人為起源系エアロゾルの粒径分布がほとんど一様なことと比べると,土壌起源系(黄砂)エアロゾルは,地域ごとに異なり,起源が単純な割には難しい物質と言わざるをえない。
本研究は,いくつかのサブテーマをたて,それを遂行することによって,最終的には中国の大気エアロゾルによる汚染の実態を起源別に明らかにするだけでなく,中国特有の土壌起源系(黄砂)エアロゾルが大気汚染に対してどのような役割を果たしているのかを解明し,中国都市域での大気環境改善につながるような提言あるいは環境影響評価手法の開発を基本方針としている。
(1)中国の大気エアロゾルのうち,土壌起源系(黄砂)エアロゾルと人為起源系エアロゾルの混合割合が著しく異なる都市域,例えば北京と蘭州,における大気エアロゾルの通年モニタリングを行い,それぞれの起源別エアロゾルの寄与率を明らかにする。
(2)土壌起源系(黄砂)エアロゾルが,酸性ガスとどのように反応し変質するかを研究するために,典型的な土壌起源(黄砂)エアロゾル(標準物質)を作成する。
(3)発源地からの飛来量やルートを特定するために,発生源地特有の指標成分を探索する。
(4)大気エアロゾルと並行して,都市域での降下物をモニタリングする。両者の組成や粒径分布にどのような対応関係があるのかを調査し,粒径の大きな土壌起源系(黄砂)エアロゾルが都市環境に対して汚染の進行あるいは抑制のいずれに寄与しているのかを推定する。
以上の4項目の内容について,中国側研究者と多年継続研究を行い,中国の都市大気環境の保全に役立つ科学的解析を目指している。
〔研究成果〕
本年度は,5年間にわたる共同研究について,中国側研究者と基本方針の確認を行い,いくつかのサブテーマに関わる研究のうち,以下の2テーマを実行した。
(1)大気エアロゾルの粒径別モニタリング
中国内陸部に位置する工業都市である寧夏回族自治区銀川市,甘粛省蘭州市および首都北京市の大気エアロゾルの実態を把握するために,アンダーセンサンプラーを用いて,大気エアロゾルのサンプリングを8月から毎月行っている。銀川および蘭州近郊の砂漠/乾燥地帯が土壌起源系(黄砂)エアロゾルの代表的発源地の一つである。銀川は,石炭を中心とした鉱業,およびそれを利用した工業が発達している。蘭州は,内陸部の交易の中心地として商業,重化学工業が発達している。また,北京は,政治,経済の中心地であり交通量も非常に多い。これら3都市について,多年にわたるモニタリングを開始した。図1に北京市における大気エアロゾルのモニタリング結果の1例を示した。アンダーセンサンプラーと同時並行して採取したローボリュームサンプラーによる北京の7月と12月の大気エアロゾル濃度の値は,それぞれ,126μg/m3,411μg/m3であった。7月の大気エアロゾルの粒径分布は,粒径2〜3μmを境とする2山分布形を示した。7月の大気エアロゾルの濃度粒径分布は,東京をはじめとする日本の都市域のそれと類似していた。12月の大気エアロゾルの粒径分布は,粒径2μmを境にして粗大粒子側で以上に高濃度な1山型の分布形を示した。大気エアロゾル濃度が夏の3倍近い値となった原因は,粗大粒子側の大気エアロゾルが以上に増加したためであることがわかった。ちなみに,粒径2μm以下の微小粒子側の濃度分布は,7月も12月もほとんど差が認められない。北京での採取地点が高さ50m強であることから,周辺土壌の巻き上げに因るとは考え難い。どこから発生したエアロゾルであるのか検討中である。
(2)黄砂エアロゾル標準試料の作成
典型的な土壌起源(黄砂)エアロゾルを作成できれば,大気中での酸性ガス成分との反応機構の解明に関する実験的検証ができる。また,毎年,風送される土壌起源系物質の良い比較対象物質ともなり,多くの研究の助けとなろう。大気エアロゾルに関する標準試料は,NISTが提供している都市大気粉じん(Urban Particulate Matter SRM1648),慶応大学橋本研究室が作成したビルダスト粉じん(ASシリーズ)が主なものであり,土壌起源系エアロゾルを対象としたものは全くない。特に,黄砂エアロゾルの標準試料は,その取り扱う原料の膨大な量と労力を考えると,作成することが非常に難しい物質である。黄砂エアロゾルの標準試料を作成すべく予備調査として,中国側研究者と共同で,バダイジャラン砂漠,トングリ砂漠,マオウス砂漠の表層砂を各1トン採取した。各1トンの砂から採取できる中心粒径20μm以下のエアロゾル量は,多くとも数kg以下であることがわかった。表1は,予備的に作成した人工黄砂エアロゾルの化学組成である。甘粛省で採取した砂塵嵐粒子,日本の屋久島で採取した黄砂エアロゾルとアルミニウム相対濃度比が良く類似していることがわかる。本年の結果を踏まえ,次年度は本格的な黄砂エアロゾルの標準試料を作成する計画である。
〔発 表〕B-79,96
|