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開発途上国環境技術共同研究
2.石炭燃焼に伴う大気汚染による健康影響と疾病予防に関する研究
〔研究担当〕
| 地域環境研究グループ |
: |
安藤 満・平野靖史郎・山元昭二 |
| 環 境 健 康 部 |
: |
田村憲治 |
| 客員研究員 |
|
5名 |
| 共同研究員 |
|
5名 |
| 下線は研究代表者を示す |
〔研究期間〕
平成6〜10年度(1994〜1998年度)
〔研究概要〕
21世紀にかけて世界人口の大部分(1995年現在78%)を占め続ける開発途上国においては,人口の増加,都市の急速な膨張,経済成長への熱望そして生活レベルの向上のため,化石燃料の消費が増加し続けるものと予想されている。途上国の急発展は,近い将来の世界経済を動かす一方,経済発展の優先の中で,先進国がかつて経験した環境汚染が途上国に広がっているが,環境汚染を防止し,環境を保全していく政策へと転換していくには,かなりの時間を要することが予想される。
現在の途上国にとって経済発展のためには,先進国が歩んできた道のりと同じ道 ― まず化石燃料の大量消費 ― が経済成長の基盤となっている。なかでも石油に比べ資源的に豊富かつ安価な石炭の大量消費は,エネルギー供給の重要な柱となっている。石炭は燃焼に際し浮遊紛じん等の大気汚染物質を多量に放出するため,大気汚染による環境汚染を起こしやすい。
工業での使用に加え,貧しい農村地域においては地域暖房,屋内暖房,調理用熱源として日常生活において大量の石炭が使用されているため,屋内大気汚染は特に著しいものとなっている。現在その影響は,呼吸器系を中心にした健康障害を引き起こす一方,農業や自然生態系の破壊等として顕在化している。このような開発途上国型の大気汚染は,中国において特に著しいことが,これまでの研究によって明らかにされている。
中国は12億の人口を抱えながら,豊富な石炭に支えられ近年急激な経済成長を成し遂げつつある。その一方,農村や都市において,浮遊粉じんや有害大気汚染質を中心とした深刻な大気汚染が進行している。貧しい農村地域においては屋内暖房,調理用熱源として日常生活において大量の石炭が使用されているため,屋内大気汚染は特に著しいものとなっている。
特にフッ素含量の多い石炭を使用する農村地域では,屋内暖房や調理の際発生する高濃度の粒子状およびガス状フッ素のために,フッ素の屋内汚染が深刻化している。屋内汚染は,フッ素吸入暴露に結びつくのみならず,貯蔵・乾燥する農産物のフッ素汚染を招き,食品汚染を介した経口的なフッ素摂取量を増大させる。現在,石炭燃焼由来のフッ素症の患者の発生は,1800万人が歯牙フッ素症に,また33万人が骨フッ素症に罹っていると報告されている。このような著しいフッ素汚染を防止するため今回の日中共同研究を発展させ,中国農村地域において予防対策を実行していくための科学的基盤を確立する必要がある。
〔研究成果〕
(1)フッ素大気汚染の現状
中国の農村地域のフッ素汚染により,さまざまな経路を通した暴露が存在するため暴露形態ごとの評価が必要である。中国の農村地域では種々の石炭燃焼器具が使用されてきており,汚染の著しい燃焼器具も使用されている。現在,広範に使用されているストーブには,屋内汚染を緩和するため煙突を備え付けるよう指導がされているが,農村地域で用いられている石炭の質は悪く高濃度のフッ素を含有する一方,換気状況が個々の農家によって異なるため,屋内フッ素濃度は著しく変動する。
石炭燃焼によって発生するフッ素に関しては,拡散と吸着が重要性を持ち,貯蔵中の食品が微小粒子状やガス状フッ素の拡散と吸着により汚染される。屋内石炭燃焼によるフッ素汚染から食品汚染を防止していく上で,貯蔵庫にある食品や日常的に摂取する食品中のフッ素の汚染の状況等について予測し,食品を介した個人暴露を把握する必要がある。
(2)フッ素の個人暴露量
浮遊紛じんとフッ素の屋内汚染は,可搬型SPMPサンプラー,デジタル紛じん計等を用いSPM濃度の変動を測定した。吸着に伴う貯蔵農産物のフッ素汚染を調べ,食品汚染を介した経口的なフッ素摂取量を推定した。調査地域においては,調理用や暖房用熱源として使用される石炭の燃焼によって,深刻な屋内汚染が観測される。この著しい屋内汚染源は,石炭燃焼時の排ガスの寄与が大部分を占める。図1に示すように,吸入性浮遊紛じんの屋内汚染に並行して,屋内大気は著しく高濃度のフッ素汚染を示していた。
フッ素含有の多い石炭による屋内暖房や調理の際発生する高濃度の浮遊紛じんとフッ素による屋内汚染により,貯蔵中の食品への吸着が起こる。図2に,食品汚染を介した経口摂取を含め,フッ素の全摂取量を示す。吸着に伴う貯蔵農産物のフッ素汚染を起こし,食品汚染を介した経口的なフッ素摂取量が著しいことが判明した。
フッ素の個人暴露の影響指標に関しての集団レベルの正確な評価が非常に重要である。フッ素への暴露の影響指標としては,尿中フッ素濃度の測定が最も適切である。中国においては,住民のフッ素暴露により尿中フッ素含量の顕著な増加が観られた。
(3)歯牙フッ素症の診断
歯牙フッ素症の調査は,小学生の高学年生を中心に調査した。歯牙フッ素症の体系的分類は,国際的評価法として確立しているディーンの分類(Dean,1942年)に基づき行った。
写真1に示すように,罹患度別の歯牙フッ素症例に関しては,WHOの口腔診査法による中重度と重度を合わせた割合は71.4%と,重症に相当するフッ素症の罹患が著しく高い。
(4)骨フッ素症の診断
フッ素の個人暴露に伴うフッ素の体内負荷量との関連で,骨フッ素症についての放射線医学的診断法,X線解析に関して検討した。その結果,現時点における骨フッ素症の診断は,X線医学的基準に準拠し,フッ素暴露状況の疫学調査を並行して行うことが必要であった。骨フッ素症例の下腿のX線所見を写真2に示す。X線を用いた病期分類によると,重度の骨硬化を示す症例が骨フッ素症全体の88%を占めていた。
本研究においては,中国における石炭燃焼に伴うフッ素と浮遊粉じん汚染の状況,屋内汚染の実態,住民の暴露と健康影響の評価のため,フッ素個人暴露の測定,暴露予測とフッ素症の総合調査を実施した。本研究を進めることにより,フッ素暴露に伴うフッ素の体内負荷量を予測し,歯牙フッ素症や骨フッ素症等の発生との関連を解明するための日中共同研究を推進することが可能となる。このことによってフッ素障害の発生濃度を予測し,気中フッ素による健康障害の発生を防止するための予防医学的手法の基礎が確立できるものと期待される。石炭燃焼によるフッ素の屋内汚染による健康影響は著しく,今後,予防医学的対応を含めた検討が必要である。
〔発 表〕B-1,88〜90,b-2〜4,156,157
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