8.微生物を用いた汚染土壌・地下水の浄化機構に関する研究(初年度)
〔研究担当〕
| 地域環境研究グループ |
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森田昌敏・兜 眞徳・矢木修身・中嶋信美・岩崎一弘 |
| 水土壌圏環境部 |
: |
内山裕夫・冨岡典子・向井 哲・服部浩之 |
| 下線は研究代表者を示す |
〔研究期間〕
平成8〜10年度(1996〜1998年度)
〔研究概要〕
全国各地の土壌・地下水中からトリクロロエチレン(TCE)およびトリクロロエタン(TCA)等の揮発性有機塩素化合物並びに重金属等が検出され大きな問題となっており,浄化対策として種々の物理化学的手法が用いられている。しかしながら揚水ばっ気や真空抽出法は,コストが高い点,また根本的な分解除去法でないため,新たな浄化技術として,微生物機能を活用して汚染した環境を修復するバイオレメディエーション技術が注目されているが,技術開発が遅れているのが現状である。本研究は,このような状況をふまえ,バイオレメディエーション技術の浄化効果およびリスク評価手法を開発することを目的とした。
すなわち,全国各地の土壌より,浄化能を有する微生物を探索・分離するとともに浄化能を定量化し,ついで,汚染物質分解酵素および分解酵素遺伝子を単離し,その構造と性質を調べるとともに,分解能を強化した微生物を創生する。さらに,浄化微生物の環境利用に際し,適正管理に資するための浄化微生物の迅速・高感度検出法を開発するとともに,自然環境を模擬したフラスコ土壌系あるいは土壌シミュレータ系を用いて,微生物の持つ浄化機能の定量化試験方法を開発する。以上の研究を実施するため,以下の2つの課題と各4つのサブテーマを設定し研究を遂行した。
(1)土壌・地下水浄化微生物の開発と浄化機構の解明に関する研究
1)浄化微生物の探索と浄化特性の解明
2)浄化酵素及び浄化酵素遺伝子の単離と諸性質の解明
3)浄化機能強化型微生物の作成
4)浄化微生物の検出法の開発
(2)微生物浄化機能の試験方法の開発に関する研究
1)フラスコ土壌系による浄化機能試験方法の開発
2)土壌シミュレータによる浄化機能試験方法の開発
3)バイオリアクターによる浄化機能試験方法の開発
4)バイオレメディエーション技術のリスク評価手法の開発
〔研究成果〕
(1)浄化微生物の探索と浄化特性の解明
TCAおよびTCEを同時に分解するエタン酸化細菌Mycobacterium sp.TA27株の分解特性について検討を加えた。TA27株は,高濃度のTCE(50mg/l)およびTCA(150mg/l)を分解できること,また種々の有機物を分解できることが判明した。休止菌体は,pH6.0から8.0で良好な分解を示したが,pH4.0及びpH9.0においては分解能が著しく阻害された。休止菌体の分解能は培養条件により大きな影響をうけ,pH3.5のとき高い分解活性を示した。またエタンを10%以上添加した場合に,高い活性の休止菌体が得られ,汚染土壌の浄化に有効であることが判明した。
(2)浄化酵素及び浄化遺伝子の単離と諸性質の解明
TCEを分解するメタン酸化細菌Methylocystis sp. strain M(M株)より,分解酵素遺伝子である可溶性メタンモノオキシゲナーゼ(sMMO)遺伝子をクローニングし,全塩基配列を解読した。この結果,以下のことが明らかとなった。
sMMO遺伝子は,全長6kbで,mmoX,mmoY, mmoB,mmoZ,mmoCおよび機能不明なorfYの遺伝子群で構成されていた(図1)。これまで報告されている2株のメタン酸化細菌のsMMO遺伝子と比較した結果,アミノ酸レベルでも非常に高い相同性が認められた。また,sMMOの活性中心に特徴的な構造等,活性に関与する種々の重要な知見が得られた。クローニングされたsMMOをE. coliに形質転換し,TCE分解活性を測定したが,分解は認められなかった。これは,分解酵素のコンポーネントの1つであるヒドロキシラーゼが高分子集合体であるため,適正な立体構造を保持できなかったか,または活性中心に鉄イオンが配置されなかったためと考えられた。
(3)環境中からの微生物DNAの回収法の開発
環境中において有用微生物を利用する場合,微生物および遺伝子の挙動を明らかにすることが安全性を評価する上で非常に重要であるため,環境中からの微生物DNAの回収法の検討を行った。火山灰土に水銀耐性遺伝子(図2)を導入した組換えプラスミドpSR134を保持するP.putida PpY101を接種し,3種類の方法でDNAの回収を行った。その結果,土壌試料を撹拌して微生物細胞を回収した後,酵素及び界面活性剤で溶菌するDNA抽出法(間接法)が最も高い回収率を示した。さらにこの方法を用いて6種類の土壌(砂質土,沖積土及び火山灰土各2種)からのDNA抽出を行った。回収したDNA試料は塩化セシウム密度勾配遠心で精製した後,紫外部吸収,アガロースゲル電気泳動により,その純度および濃度を測定し,回収量を求めた。土壌の粘土率,全炭素量等の物理化学的諸性質がDNAの回収率に大きく影響を及ぼすことが判明した(図3)。
(4)PCR法による標的微生物の検出
微量のDNAを増幅して検出する技術(ポリメラーゼチェインリアクション法:PCR法)を応用して,培養を必要としない迅速な微生物のモニタリング手法の開発を試みた。菌体内の標的DNAを直接PCR法で増幅し,検出・定量する手法の検討を行った。P. putida PpY101/pSR134の水銀耐性遺伝子(merオペロン)の一部を標的DNA塩基配列とした。菌体からのDNAの抽出を行わず,直接菌体に対してPCR反応を行った。P. putida菌体内の目的のDNAが直接PCRによって増幅できることが確認された。次いで,酵素,緩衝液等の条件検討を行った結果,反応チューブ(50μl)当たり100細胞数で検出が可能であった。さらに同じプライマーを用いて再度PCRを行ったところ,検出限界は1細胞であった。
(5)フラスコ土壌系による浄化機能試験方法の開発
バイアルビンを用いて不飽和土壌中におけるM株のTCE分解能について検討を加えた。M株はバイアルビン中の土壌中および気相中のTCEを同時に分解・除去できること,また土壌中と気相中のTCE濃度には良好な相関関係が認められ,気相分析から土壌中のTCE含有量の推定が可能であることが判明した。
(6)土壌中における接種微生物の挙動
接種微生物の土壌中での生残,増殖に及ぼす要因について検討を加えた。すなわち土壌に接種したP.putidaの生残数の変化を6種類の土壌で調べた。その結果,pHの低い火山灰土1,2,砂質土2で菌数は大きく減少した。土壌に消石灰を加えて,土壌pHが約7になるように補正した場合,いずれの土壌でも生残性が良くなった。特に,pHの低い火山灰土などで生残性が大きく高まり,土壌間差も小さくなった(図4)。以上の結果から,土壌に接種したP. putidaの生残には土壌pHが最も大きくかかわっていると考えられた。
土壌に接種するP. putidaの生残性を高めるため,資材に吸着させて土壌に添加する方法を試みた。その結果,バーミキュライトやカオリンなどの粘土に菌を吸着させて,土壌に接種すると生残性が高まることが認められた。
山口県農業試験場の水田圃場の無窒素肥料区・化学肥料区・堆肥多量区から採取した3種類の土壌にBHC分解菌を細毛管孔隙(平均直径:0.19〜3μm,毛管水の分布部位),粗毛管孔隙(平均直径:3〜48μm,毛管重力水の分布部位)に入るような方法で添加し,経時的に土壌中のBHC分解菌を計数し,その生残性を調べた。BHC分解菌の生残性はいずれの処理区においても,細毛管孔隙の方が粗毛管孔隙よりも高い傾向があり,特に無窒素区でこの傾向が顕著であった。その生残性は,投与肥料の種類によって異なっており,両孔隙ともに無窒素区で最も高く,以下堆肥多量区,化学肥料区の順に低下した。
以上の事実は,細毛管孔隙の方が粗毛管孔隙よりもBHC分解菌の生残に好適な土壌部位であること,およびその生残性が投与肥料の種類によって少なからぬ影響を受けることを示している。また,原生動物等の補食者が細毛管孔隙には入ることができない大きさであることから,細毛管孔隙に添加されたBHC分解菌はその補食を免れていることが推測された。
(7)バイオレメディエーション技術のリスク評価手法の開発
M株を用いるTCE汚染土壌・地下水のバイオレメディエーション実証試験を計画しており,このためのリスク評価項目について検討を加えた。
〔発 表〕B-109〜115,G-9,L-8,b-77,78,188〜195,g-9,36,37
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