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特別研究
7.輸送・循環システムに係る環境負荷の定量化と環境影響の総合評価手法に関する研究(初年度)
〔研究担当〕
| 地域環境研究グループ |
: |
森田昌敏・兜 真徳・森口祐一・松橋啓介・近藤美則・
若松伸司・白石寛明・曽根秀子・新田裕史・高村典子・
松本幸雄 |
| 社会環境システム部 |
: |
乙間末広・森 保文・寺園 淳 |
| 化 学 環 境 部 |
: |
中杉修身・田邊 潔 |
| 客員研究員 4名 |
| 下線は研究代表者を示す |
〔研究期間〕
平成8〜10年度(1996〜1998年度)
〔研究概要〕
環境基本法の基本理念として「環境への負荷の少ない持続可能な社会の構築」が掲げられ,基本法に基づき閣議決定された環境基本計画においても「環境への負荷が少ない循環を基調とする経済社会システムの実現」が施策の第1の柱とされるなど,「環境への負荷の低減」は今後の環境政策の根幹をなすものである。このため,さまざまな人間活動について,環境への負荷発生の実態を具体的に明らかにし,これらが人間や生態系に与える影響を総合的かつ定量的に評価する手法を整備することが急務である。
一方,製品や技術システムについて,原料採取から生産,使用,廃棄に至る一連の過程における環境への影響を評価しようとするライフサイクルアセスメント(LCA)手法が,内外で関心を集めている。国内でも,エネルギー消費や二酸化炭素排出を評価項目とする事例研究が進みつつあるが,人間の健康や生態系への影響という観点から,どのような項目を優先的に把握し,負荷の「総合的」な評価をどのような方法で行うかについては,今後の研究に待つべきところが大きい。
こうした背景から,本研究では,今日の社会を特徴づける「人やモノの流れ」を支える技術である自動車交通等の輸送システムおよび廃棄物処理・リサイクル等の循環システムを対象とした事例研究を軸にして,環境負荷およびこれによる環境影響を総合的に評価する手法を開発することを目的とする。
本研究では,あらゆる製品や技術システムに適用できる汎用的な環境影響評価手法の開発を究極の目標に据えながらも,3年間のプロジェクト研究としての到達目標を明らかにするため,具体的な評価対象を絞ったケーススタディに力点を置き,そこで得られた成果をより汎用的な方法論へと発展させるアプローチをとる。本課題で取り組む内容は,2つの領域に大別される。
第1の領域は,内外のLCA研究で未だ十分な成果の得られていないインパクトアセスメント手法の開発に関するもので,人の健康や生活,生態系への影響を視野に入れた環境負荷項目の選定および影響の総合化の手法と,環境負荷の発生から環境影響に至る流れの中に介在する地域性を加味して,環境負荷と環境影響とを定量的に結び付ける手法を開発する。第2の領域は,具体的な評価対象および環境負荷低減のための代替案を取り上げた総合的な環境影響評価の事例研究である。これらは,研究全体を構成する横糸と縦糸に相当する。
〔研究成果〕
(1)環境負荷項目の同定と環境影響の総合化手法に関する研究
本サブテーマでは,本研究で扱うライフサイクルでの環境影響評価手法において,どのような環境負荷項目をどのような影響の観点からとりあげるか,という評価の枠組みを構築するとともに,異なる種類の環境問題を専門家の判断や国民の認識をもとに共通の尺度に投影する方法について検討し,個々の環境負荷をなるべく少数の指標群に集約する手法を開発する。
本年度はまず,米国環境保護庁(USEPA)が進めているComparative Risk Assessmentの手法をレビューし,この手法に基づく異種の環境問題間の総合評価の可能性と意思決定手法としての我が国への適用可能性について検討した。このため,国・地方自治体(研究・行政),大学,NGO等の環境問題の専門家約30名の参加のもとに,「比較リスク評価研究会」を開催し,我が国にとっての主要な環境問題を,15の問題領域にまとめたリスト(表1)を試作するとともに,各々の問題領域が人の健康,生態系,生活の質(QOL)に与える影響の大きさについて,相対的なランキングを行った。また,異種の環境影響のエンドポイント間の等価評価の試行を行った。
一方,人間の健康への影響という観点からのインパクトアセスメント手法の枠組みを構築するため,環境中の有害化学物質が人間の健康に与える影響の経路を,作用機構,影響が現れるまでの時間,健康障害の種類,影響の重篤度といった観点から整理したフロー図を所外の専門家の意見を取り入れて試作した。また,文献,データベース検索等に基づいて化学物質の毒性レベル,影響の類型等の情報を抽出し,第2のサブテーマで構築する地域のリスクアセスメントのための情報システムに提供するための手順を明らかにするとともに,代表的な有害化学物質数十種についての情報整理に着手した。
こうした独自の枠組み構築と並行して,内外のLCA研究におけるインパクトアセスメントの事例を収集し,対象として扱っている環境負荷項目や異種の環境問題間の重みづけ手法のレビューを行い,重みづけに用いる原理を,代理指標による方法,除去技術や市場原理に基づく方法,パネル法,目標値(Distance to Target)法に分類した。また,これらの事例で用いられている重みづけ係数を,さまざまな環境負荷の日本における発生量の試算値に適用して各負荷項目の寄与を試算し,手法間で環境負荷ごとの寄与に大きな差異があることを確認した。
(2)地域性を考慮した環境負荷とその影響の評価手法の開発に関する研究
本サブテーマでは,環境負荷発生源の分布や,人間や生態系など影響を受ける主体の空間分布の偏り,環境中での物質の移動現象に与える立地や気象の影響など,環境負荷の発生から環境影響に至る流れの中に介在する地域性を加味して,環境負荷と環境影響を定量的に結び付ける手法を開発する。LCAでは,地域性を加味した「実際に予測される影響」よりも,平均化された「潜在的な影響」を定量化するべきとの主張もあるが,自動車による大気汚染のような属地性の高い問題を扱うには,評価対象の地理的な偏在を考慮しておくことが必要と考えられるためである。
このため,大気中の有害汚染物質への適用を念頭において,汚染物質の排出要因となる人間活動,汚染物質の排出量,環境中の汚染レベル,汚染による健康リスクの分布を地理情報として扱うデータベースと,これら各段階の関係を記述する排出量計算モデル,クロスメディア型の濃度予測モデル,暴露評価・リスク計算モデルから構成される総合的な情報システムの設計を行った。本システムはLCAのインパクトアセスメントの中に,リスクアセスメントの考え方を取り込むためのものであり,LCAの環境負荷インベントリーや,有害化学物質に関する物性・毒性データベースとのインターフェースを確保しながら,具体的な地域を想定した地域リスクの予測計算を行うものである。システム設計と合わせ,次年度に実施予定の大都市圏の地方自治体における地域リスク評価のケーススタディの準備として,システムで用いる既存の発生源関連データ,環境中汚染レベルの調査データの整備状況の調査とデータ収集を行った。また,行政におけるPRTR(汚染物質排出移動登録)の制度化の検討への参加やオランダなど同制度の先進国に関する文献調査によって,化学物質の環境中への排出量の算定手法,および具体的に調査された排出係数や業種ごとの排出量の推計値に関するデータを収集した。さらに,システムによる濃度予測との比較に用いる目的で,有害大気汚染物質の実測調査データを収集し,汚染の空間変動,時間変動の特性解析に着手した。
一方,道路沿道における人口の空間分布の偏在が,自動車排出ガス起源の大気汚染物質への暴露量に与えるバイアスを定量化するため,国勢調査データ,住宅地図などの地図情報,土地利用に関するメッシュ数値情報を組み合わせ,人口の詳細な地理的分布を推定するための手法の基礎的検討とデータ収集,地理情報システムの導入を行った。
(3)自動車等の陸上輸送システムに関する事例研究
本サブテーマでは,影響評価の第1のケーススタディの対象として,自動車などの陸上交通手段をとりあげ,走行時の環境負荷だけでなく,車両とその材料の生産段階や廃棄段階で生じる負荷,さらには道路,線路といったインフラストラクチュアの建設・維持管理に関連する負荷も含めたライフサイクル評価を行う。
このためまず,内外における自動車のLCAに関する研究事例を収集し,評価の対象範囲等について調査した。また,自動車の生産,使用,廃棄および関連インフラの建設に関して,各々の段階で発生する環境負荷の項目,これにより発生する環境問題の種類,その影響の終着点を結ぶ主な経路をリストアップし,ライフサイクル評価を適用する概念的範囲を明らかにした。一方,自動車の生産段階や関連インフラ建設による環境負荷を統計からマクロに推計するため,CO2についてのこれまでの適用事例を参考に,産業連関表を用いて原材料の生産段階での負荷にさかのぼったインベントリーを作成する手法を設計した。また,環境負荷量の具体的な算定を行うための基礎資料として,業種別の燃料消費量あたりの大気汚染物質排出係数等の資料を収集した。
こうした情報に基づき,現在の陸上輸送システム由来の環境負荷の主因であるエンジン自動車と,電気自動車等の低公害車や,軌道系交通システムとの比較評価を行うことが,ここでの事例研究のねらいである。このため,電気自動車について,走行に要する電力を発電所で生み出す際に生じるNOxなどの大気汚染物質排出量を考慮した走行段階での環境負荷発生量を試算し,エンジン自動車との比較を行った。また,自動車を代替する交通手段として路面電車に着目し,日本全国で運行されている路面電車の事業体ごとに,走行に伴うエネルギー消費量データを収集して,単位輸送量あたりの環境負荷量を試算した。また,事業体へのヒアリング調査により,車両製造や軌道敷設を含めたライフサイクル評価手法のための基礎的資料を収集した。
(4)廃棄物処理・リサイクル等の物質循環システムに関する事例研究
本サブテーマは事例研究の第2の適用分野として廃棄物処理・リサイクルをとりあげるもので,容器包装廃棄物の処理・リサイクルシステムに着目した事例研究と,廃棄物処理施設に着目した事例研究を行う。前者は複数の廃棄物処理・リサイクルシナリオ間の環境影響を比較検討し,後者は個々の廃棄物処理・リサイクル施設に起因する廃棄物特有の按分問題などに対処するものであるが,ともに互いを補うものである。
まず,自動車について作成したものと同様に,廃棄物の収集・処理・処分に起因する環境負荷の発生とこれによる環境影響の経路を整理した。すなわち,廃棄物処理・リサイクルにおいて注目される有害化学物質汚染や迷惑施設立地を含め,想定されるすべての環境問題の種類について,負荷の発生段階から影響に至る経路を明示した。
また,廃棄物の収集・処理・処分に関するLCAの内外の研究事例を収集し,廃棄物処理,リサイクルシステムのLCAで問題となる「按分問題」についての概念整理を行った。按分問題とは,さまざまな成分からなる廃棄物を焼却した場合に生じる有害物質を,特定の廃棄物に帰属させるか均等に配分するかや,リサイクル過程で生じる負荷を,リサイクル原料を産出した側と,リサイクル材によって新たな財を生産した側とにどのような比率で帰属させるか,といったケースがあげられる。
こうした概念整理と合わせて,次年度以降に行う予定のリサイクル促進による環境負荷削減可能性評価の事例研究の基礎データとして,容器や包装材について,首都圏の一自治体を例に,廃棄物の発生,収集,リサイクル,処理処分のマテリアルフローの実態調査を行った。すなわち,自治体とリサイクル業者の協力を得て,缶・びん・PETボトル,紙パックなどの容器ごとの発生量や収集形態を明らかにするとともに,二次材料としての用途まで含めたリサイクル量に関する資料を収集した。
〔発 表〕K-48,B-100,C-28,30,D-26,30,b-102,c-26,27,29,d-21〜23
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