3.環境負荷の構造変化から見た都市の大気と水質問題の把握とその対応策に関する研究(最終年度)
〔研究担当〕
| 地域環境研究グループ |
: |
森田昌敏・若松伸司・上原 清・清水 浩・森口祐一・
稲森悠平・水落元之・高木博夫・福島武彦・松重一夫・
竹下俊二・松本幸雄 |
| 大気圏環境部 |
: |
鵜野伊津志・杉本伸夫・松井一郎 |
| 水土壌圏環境部 |
: |
西村 修 |
| 下線は研究代表者を示す |
〔研究期間〕
平成5〜8年度(1993〜1996年度)
〔研究概要〕
都市機能の一極集中や地価の高騰などによる都市の社会,経済的変化や物理的変化は,産業構造や都市構造の変化に大きな影響を及ぼしている。例えば,都心におけるサービス産業を中心とした第3次産業の増加や都市への過度の人口集中による高人口密度地域の都市周辺部へのスプロール化,交通,物流の都市域内密度の増大等が顕在化している。一方都市住民のライフスタイルや生活の質及び生活パターンは快適性の志向により増々エネルギー多消費型になりつつある。
このような都市構造変化,生活様式の変化は環境負荷の構造を大きく変えている。例えば都市域のスプロール化は通勤距離を増大させ,このことにより自動車交通量の増加や交通渋滞が発生している。また都市に向けての物流の増加は自動車の車種変化をもたらし,大型ディーゼル貨物車の混入率の増加とこれによる窒素酸化物汚染,粒子状物質汚染が大きな社会問題となっている。このように大気汚染,騒音の問題はさらに深刻になっている。生活様式の変化や多様化は排水や廃棄物の質や量を大きく変化させており,都心部における第3次産業レストラン等の高濃度油分含有排水や,都市周辺地域における小規模未規制排水による表流水系の汚染が大きな問題となりつつある。都市域の拡大やエネルギー消費の増大は都市気候にも影響を及ぼし,ヒートアイランド等の問題が生じている。
環境負荷の構造変化に伴う地域の環境要因の悪化を早急に食い止め,改善に向かわせることが急務である。原因等が複雑化している都市環境問題を解決して行くためには,発生源の個別的な対策のみならず地域問題として総合的な対策を講じる必要がある。そのためには都市環境問題の現状を様々な面から定量的に正確に把握し現状の改善方策等を見いだしていくための科学的知見の蓄積が必要である。
本研究においては,このような観点から環境負荷の構造変化が都市環境に及ぼす影響の把握とその対応策に関する研究を行う。具体的には首都圏を中心とする都市域における環境負荷の構造変化の実態解明並びに環境要因の中でも特に緊急の対策を必要とする大気問題,水質問題の改善に関する研究を行い,交通問題,都市大気環境問題,都市域の未規制排水問題に対する新たな対応策とその評価を明らかにすることにより,都市の大気問題と水質問題に対する行政施策に有用な知見を提供することを目的とする。
〔研究成果〕
都市の大気問題の研究
(1)沿道・都市大気環境の予測と評価に関する研究
前年度までに沿道大気汚染濃度が大気安定度によって大きく変化することを示したが,本年度はストリートキャニオン内部の流れをレーザー流速計によって計測し,ストリートキャニオン内の流れが大気安定度によって大きく変化し,沿道における高濃度大気汚染の直接の原因となっていることを明らかにした。すなわちストリートキャニオン内部には上空の風に誘引された回転流が生じ,これが沿道大気汚染特有の濃度分布を形成する主たる原因となっている,また,この回転流の速度は大気安定度によって大きく変化し,沿道大気汚染濃度に直接の影響を与えることがわかった。回転流の速度が変わる理由としては,1,上層風からストリートキャニオン内部への運動量の伝達の大きさを示す剪断応力が大気安定度によって大きく変化すること,2,ストリートキャニオン内部に形成される安置成層が上層からの流れの侵入を阻むために,キャニオン内部の風速が低下し,それがより強い安定性層の形成を助長するといった正の帰還効果が生じ,その結果としてキャニオン内部に対する安定成層の影響がより強まり風速がさらに弱まること,等が原因であることがわかった。
(2)交通環境の予測と評価に関する研究
交通公害特研以来,開発・機能改良を進めてきた「広域交通環境シミュレーションシステム(RTPSS)」を阪神地域に適用し,政策代替案ごとの大気汚染改善効果を予測するためのデータ整備を引き続き行った。これとともに開発着手後約10年を経たRTPSSを今後も継続して利用可能なものとするため,計算機の動作環境の見直しを行い,有害大気汚染物質等を含めたより広い対象についての大気環境シミュレーションに応用できるようにするためのシステム設計を行った。また事例研究の対象としてきた阪神地域が震災に見舞われたことから,災害からの復興を,都市の環境負荷発生構造の長期的視点からの改善の機会ととらえ,防災目的と両立する交通公害改善のための対策について検討した。このため,都市内2階建て構造道路の問題点や阪神地域の地理的制約による交通集中の要因を明らかにするとともに,都市内を貫通する幹線道路を代替する外縁部の路線整備,交通誘導のための経済的手段,港湾関連物流のモーダルシフト等の対策案を提案した。
(3)広域大気環境の予測と評価に関する研究
平成5年に関西地域における春季の広域大気汚染解明のためのフィールド観測を実施し,前年までの解析で関西地域における春季の高濃度大気汚染には広域的な大気汚染物質の移流,成層圏オゾン,地域スケールの光化学大気汚染が複合して影響を及ぼすことがわかったが,本年度はモデルを用いてこれらそれぞれの要因の寄与率を定量的に明らかにした。解析の結果,大阪の中心地域においては,日中には成層圏起源のオゾンと光化学オゾンとの寄与率はほぼ半々であることがわかった。また二酸化窒素に関しては反応により生成するものが50%以上の寄与を占めていた。関東地域に関しても平成7年にフィールド観測を実施しており,本年度は特に関東西部地域における光化学大気汚染の立体分布や太平洋上での濃度分布を気象モデルを用いて解析した。これとともに大陸スケールの長距離輸送現象が都市の大気環境に及ぼす影響を明らかにするために,エアロゾルの生成プロセスの検討や,大規模気象と濃度分布との関連性に関するモデル研究を実施した。得られた結果をフィールド観測結果と比較検討し広域長距離輸送反応プロセスを明らかにした。
都市の水質問題の研究
(4)都市の水質環境の予測に関する研究
都市域に位置する湖沼は,窒素,リンの過剰な流入により富栄養化の進行が著しく,有害藻類の増殖に伴い深刻な水質問題が発生している。その実態解明として藍藻類によって産生される有毒物質Microcystinの挙動について1996年夏期に霞ヶ浦(土浦港)で調査を行った。
M. aeruginosa藻体内外のMicrocystin濃度はアオコの発生が著しい時期に最も高い値を示すことがわかった。また,藻類培養過程で産出される代謝物質や分解産物とTHMFP(トリハロメタン生成能)との間には高い相関が得られ,藻類培養後のTHMFPは著しく高まることが明らかとなった。
このような実態を踏まえ,これからの都市の水質環境に関して生活排水対策としての下水道,合併処理浄化槽,単独処理浄化槽の普及の将来予測とそれらの処理施設からの汚濁負荷量についてシミュレーションを行い,トイレの水洗化率は下水道と合併処理浄化槽の普及によって2005年には約98%に達すること,水洗化に伴ってBOD汚濁負荷は削減されるものの窒素,リンに関しては汚濁負荷が増加すること,この対策としては下水道,合併浄化槽の高度処理化,単独処理浄化槽の高度合併処理浄化槽化を行う必要があることが明らかとなった。
(5)都市の水質問題の対策技術に関する研究
汚濁の現況の改善を図るため,都市の水質問題の対策技術に関する研究を行った。生活排水処理方式として生物ろ過法は,多孔質担体を用いることにより高い硝化能および窒素除去能が得られることがわかった。またリン除去のためにアルミニウム電解法を実際の排水処理施設に適用し,処理水リン濃度を1mg/l以下にすることが可能であった。一方排水処理によって発生する汚泥の処理法として高温好気発酵法処理の実験を行い,高度減量化が可能であることを明らかにした。また,都市域の水質問題として重要な埋立地浸出水処理に生物活性炭および有用微生物を活用した活性炭複合担体を用いることで微量化学物質,難分解性有機物および窒素を同時に除去できることが明らかとなった。
(6)都市の水質汚濁負荷の削減効果に関する研究
本研究で有効性の確認されたアルミニウム電解法リン除去システムを用いた場合の都市の水質汚濁負荷の削減効果の評価に関する研究を行った。単独・合併処理浄化槽のリン除去システムとしてアルミニウム電解法を導入した場合の環境改善効果を,大阪湾をモデル対象流域としてケーススタディーを行い,単独処理浄化槽,合併処理浄化槽それぞれに電解装置を設置する場合,単独処理浄化槽では負荷削減量が,合併処理浄化槽では費用効果(単位費用当たりの負荷削減量)が高いことがわかった。しかし生活雑排水未処理人口を合併処理浄化槽で処理し,さらに電解装置をすべての浄化槽に設置した場合が,リン負荷削減量,費用効果が最も高いことから,今後新設される浄化槽については単独浄化槽を廃止し,さらに高度合併処理浄化槽にする必要があると考えられた。
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