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ホーム > 刊行物 > 国立環境研究所年報 > 平成8年度 > 特別研究  1.湖沼環境指標の開発と新たな湖沼環境問題の解明に関する研究(最終年度)

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特別研究


1.湖沼環境指標の開発と新たな湖沼環境問題の解明に関する研究(最終年度)


〔研究担当〕
地域環境研究グループ 森田昌敏・福島武彦・松重一夫・木幡邦男・矢木修身・
高村典子・春日清一
化 学 環 境 部 彼谷邦光・佐野友春
水土壌圏環境部 今井章雄・井上隆信
生物圏環境部 渡邉 信
客員研究員 29名,共同研究員 1名,研究生 4名
   下線は研究代表者を示す
〔研究期間〕
 平成4〜8年度(1992〜1996年度)

〔研究概要〕
 湖沼環境は国民共通の資産として維持保全して行かなければならない。しかしながら,現状では湖沼環境基準の達成率は依然として低く,また多くの湖沼でアオコや淡水赤潮の発生が報告されている。さらに,中栄養湖である琵琶湖北湖ではピコプランクトン(Synechococcus)の異常発生が起こり,平行して鮎の大量へい死が起こっている。富栄養湖である霞ヶ浦においても夏期のミクロキスティス(Microcystis)を中心としたアオコからオシラトリア(Oscillatoria)を中心としたアオコに変化し始めており,それに伴って魚類の現存量の減少,異臭味の発生等が起きている。このような現象は湖沼水を利用している国民に多くの不安を与え,信頼感を失わせている。
 このように湖沼環境は近年急激な勢いで変化しており,特に藻類組成変化を含む生態系の変化が著しい。このような急激な変化が生じてきた原因としてはさまざまな要因が考えられるが,流域からの負荷流出特性の変化もその原因の一つとして考えられる。流域における各種対策の効果によって近年リンの負荷量は減少しつつある反面,窒素の負荷量は横ばいか微増の傾向にある。そのため,水中のN/P比(N;全窒素,P;全リン)が増加している湖沼が多く,その影響評価が行われなければならない。またこのような湖沼環境変化は従来のCODを中心とする水質項目では的確に表現できず,新たな湖沼環境指標の開発が必要である。
 本研究に連なるこれまでの研究成果により,流入負荷量と植物プランクトン現存量の量的関係についてはかなり明らかにされてきたが,質的な関係については不明な点が多く残されている。したがって,なぜピコプランクトンが増殖するのか,アオコが発生するのか,淡水赤潮が発生するのか等,湖沼環境と優占する植物プランクトンの関係については研究が進んでいない。
 本研究では,流域での各種対策や土地利用変化が負荷発生にどのような変化をもたらしているのか,窒素やリン等の負荷として,また有機物の負荷として自然由来のものはどの程度あるのか,N/P比の変化は湖沼水質環境や生態系にどのような影響を与えているのか,湖沼水中の有機物の起源はどこにあるのか,ピコプランクトンの異常発生はどうして起きるのか等の調査研究を行うとともに,最近の急激な湖沼生態系の変化を表現できる新たな指標の開発を行うことを目的として,以下の課題を設定して研究を進めた。

〔研究成果〕
(1)流域特性と水質との関係の評価に関する研究
 阿見町を対象に,水環境に係わる水処理形態別人口,土地利用,河川網などの流域情報をパソコン上の地理情報システムにとりこみ,窒素,リン,有機物等の汚濁負荷発生量の予測(図1),各種管理対策実施後の効果予測を行った。いくつかの小流域では下水道の整備後も汚濁が著しいことが予想され,さらなる水質改善のためには直接浄化の手法を取り入れるなど高度な流域対策が必要であることがわかった。すなわち,こうしたシステムは簡易であるとともに,最新情報の収集,整理が簡単であることから,行政的にも十分利用可能であることを示した。
 また,5,6月期を中心に,数年にわたり河川で有機物の流出特性を観測し,その流量との関係を解析した。その結果,溶存態と懸濁態で,また主要な流出源が森林域か,市街地かにより流出特性が大きく異なることがわかった。こうした基本特性をもとに,有機物の流出に関するモデル化を行った。

(2)湖沼環境指標に関する研究
 1)新しい有機物指標の開発に関する研究
 前年までの研究で,過マンガン酸カリウム法によるCODはTOC(全有機炭素)と各水域ごとには高い相関関係を有するが,それぞれの関係は異なっていること,酸化率は生物的な分解率と無関係なこと等から,湖沼の環境指標としては適当でないことを示した。しかし,湖沼で年間約7,000,海域で年間約30,000ものサンプルのCODが環境基準評価のため測定されているので,CODを他の指標に置き換えるとしても,この情報を有効に生かす方法の開発が必要である。図2には,建設省が1984〜1992年間に霞ヶ浦の高浜入り,湖心で測定したDCOD(溶存態COD),PCOD(懸濁態COD)をもとに,この地点で我々が得たDOC(溶存態有機炭素)とDCOD,POC(懸濁態有機炭素)とPCODの関係を利用してTOC(DOC+POC)を予測し,これを実測値(建設省測定)と比較した結果を示す。相関係数は高浜入り(St. 1)で0.963,湖心(St. 9)で0.873であり,予測値/実測値の平均はそれぞれ1.18(最小0.90〜最大1.61),1.11(0.85〜1.73)と,予測値の方が実測値より若干大きいものの両者はよく一致している。2年間の相関関係だけで得られた式を用いて,こうしたよい相関関係を得られたのは,霞ヶ浦では両者の関係がこの9年あまり変化しなかったことを意味している。同じように,CODとTOCの関係を用いても,上記には劣るが良好な予測値が得られた。
 また,同様なことを手賀沼,琵琶湖のデータに適用したが,年度ごとにCODとTOCの相関関係が異なっていた。この場合,かなり昔のTOC値の予測は難しいといえる。以上をまとめてみると,徐々にCODからTOCへの置き換えをはかるとともに,数年間両者を同時に測定することから過去のCODデータの活用を検討することが妥当である。
 2)湖内溶存有機物の起源に関する研究
 霞ヶ浦,琵琶湖,野尻湖などの溶存有機物サンプルから,その紫外部吸光度(UV;ここでは260nmでの吸光度)とTOC(すなわちDOC)との比(UV:DOC比)が外来性物質と内部生産由来物質で大きく異なること,ならびにこの比が生分解性試験によっても大きく変化することがないことから,この比を用いて湖内の溶存有機物の起源を推定する方法を前年度提案した。本年度は,全国約30湖沼の溶存態サンプルを分析した結果,UV:DOC比が滞留時間の増加とともに減少し,内部生産由来の溶存有機物が主体となってゆくことがわかった(図3)。
 また,親水性−疎水性,酸性−中性−塩基性樹脂を用いて,琵琶湖湖水,流入河川水の溶存有機物を分画し,各画分の有機炭素量,UV:DOC比を測定した。この結果,湖内の溶存有機物質の大半が湖内で生産されたのではないかと推定された。
 3)生態系の活性指標に関する研究
 水中のDO,pHを連続的に測定して,その変化から光合成,呼吸量を推定する方法が提案されており,フリーウォーター法と呼ばれている。この手法は,ボトル中への閉じ込め効果を除去しうることに加えて,底泥などを含めて水域全体での生物活動を評価可能であること,連続測定を行えば生物活性を微小な時間間隔で測定可能なことなどの長所を有している。しかし,水塊でのDOやDIC(溶存無機炭素)の収支計算をしていることと同等であるので,大気との交換,流入,流出水による物質移動を正確に測定するか,推定する必要がある。  前年度までの研究から,屋外実験池において上部が開放された箱,閉じた箱を設置し,その中及び箱外(フリーウォーター)でのDO,pH変化から,酸素,二酸化炭素の大気−水間の輸送,一次生産,呼吸速度を見積もる方式を確立した。本年度は涸沼で,1時間ごとに水が入れ替わる明,暗箱にDO,pHなどのセンサーをいれ,またフリーウォーター法でDO,DICの変化をモニターした(図4)。計算されたDO,DICの変化速度から水界の生物活性(一次生産速度,呼吸速度等)を評価した。すなわち,こうしたシステムが実湖沼でも応用可能なことを示した。また,バイオマニピュレーションに関する隔離水塊実験に際し,各池にDO,pH,水温センサーを投入し,それらの変化から池ごとの生物活性を測定した。
 さらに,霞ヶ浦,琵琶湖の1年間にわたるDO,pHモニターデータから生物活性の季節変化を調べた。富栄養化している湖沼では大気−水間の輸送量と比べ生物活動よる変動の方がDO,pH変化に寄与が大きいこと,一次生産量は有機物量と密接な関係を有すること等が明らかになった。この結果,こうしたモニターデータが湖の生物活性評価に極めて有用であることを示した。
 また,霞ヶ浦では霞ヶ浦開発事業に伴う管理目標水位の上昇により,アシ群落の衰退が観察された。この原因としてはアシ群落先端部での根洗いよる退行と考えられている。このほか,洞爺湖の水質,生態系調査を継続して行い,近年の漁獲減少の原因はワカサギの高密度化と推測された。

(3)ピコプランクトンの異常発生機構に関する研究
 1)ピコプランクトンの分類
 藍藻ピコプランクトンの分類について,前年度の成果を踏まえて,さらに詳細に検討した。Cyanobacterium−cluster, Synechococcus−cluster, Cyanobium−clusterのそれぞれに所属する培養株を透過型電子顕微鏡及び蛍光顕微鏡で観察した結果,Cyanobacterium−clusterにチコライドの形状が異なる集団があることがわかった。この結果,ピコプランクトンの代表的な藍藻類であるSynechococcusグループはGC含量,キノン組成,直鎖型脂肪酸組成,フィコビリン組成,核質及びチラコイドの形態で5つのクラスターに分類できることがわかった。
 2)ピコプランクトンの毒性
 どのような種類のピコプランクトンに毒物質であるチオンスルフォリピドが存在するかを調べた。対象としたのは琵琶湖で採取されたSynechococcus株(pink),霞ヶ浦で採取されたSynechocystis株(green),スウェーデンから分与されたSynechocystis株(pink)である。どの株のスルフォリピドもthioic O-acidエステルの存在を示したので,これら藍藻のスルフォリピドはすべてチオンスルフォリピドであると同定した。この結果はチオンスルフォリピドがSynechococcus及びSynechocystisに広く分布していることを示すものと考えられた。
〔発 表〕K-87,88,94〜96,B-70,91〜93,b-97,136,163,165,167,170


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