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地球環境研究総合推進費による研究
9.総合化研究
〔研究担当〕
| 地球環境研究センター |
: |
大坪國順・宮崎忠国・中井真司 |
| 地球環境研究グループ |
: |
西岡秀三・森田恒幸・甲斐沼美紀子・甲斐啓子 |
| 地域環境研究グループ |
: |
森口祐一 |
| 社会環境システム部 |
: |
後藤則行・日引 聡・川島康子・ |
| 下線は研究代表者を示す |
〔研究概要〕
地球環境研究センターにおいては地球環境研究総合推進費による総合化研究を実施している。この「総合化研究」という特殊な研究領域は,分野別に実施されている個々の研究プロジェクトと異なり,
(1)個々の研究プロジェクトの成果を集約しつつ,経済学,社会工学的手法を含む観点から総合的かつ体系的に検討を行い,政策の具体的な展開に資する知見を提供する「政策研究」,
(2)「課題別研究」として分野ごとに研究プロジェクトが推進される地球環境研究に対し,これら個々の分野にまたがる研究領域や共通する研究領域を体系的かつ集中的に解析する「分野横断的研究」,
(3)個々の研究領域の重要性を地球環境問題の解決という観点から総合的に評価する「リサーチ・オン・リサーチ」の3つの役割を有しており,現在までに(1)の政策研究に該当する以下の2つの研究に着手している。
「持続的発展のための環境と経済の統合評価手法に関する研究」(平成7年度〜)においては,地球環境保全と経済発展とを統合する目標について目標設定のあり方とその目標達成の方策を明らかにするため,大別して3つのテーマが実施された。(1)前プロジェクトで開発した地球環境の変化を総合的に予測する「環境総合モデル」と,環境変化に影響を及ぼす経済活動を分析する「世界経済モデル」の成果を踏まえ,次世代モデルとして環境と経済を統合して分析できる新しいタイプの経済モデルの開発を行う。(2)平成4年度から3年をかけて研究を行った環境資源勘定に関する成果を基礎にして,種々の環境負荷のフローを体系的に定量化し,これをベースに政策目標の設定や政策効果の評価に適した環境指標を開発を行う。(3)環境と経済の統合を目指した勘定に関する各種の研究,国連,OECD等の国際機関やいくつかの国々で実施した研究及びこれまでの研究成果を踏まえて,我が国の環境・経済統合勘定を実用化に近づけるための実際環境費用及び帰属環境費用の推計に関する研究を行う。
「地球環境予測のための情報のあり方に関する研究」(平成7年度〜)においては,地球環境の状況とその対応策の効果を定量的に把握するために,環境を数量化するための情報システムを構築することを最終の目的としている。研究対象をおもにアジア太平洋地域の持続的発展の定量化にしぼっている。本年度は,世界における関連研究の把握,研究フレームの構築,持続的発展の具体例の考察,新たな環境指標の開発,アジア太平洋地域で生じている環境問題の要因の把握を行った。
〔研究成果〕
(1)持続的発展のための環境と経済の統合評価手法に関する研究
環境保全と経済発展を両立させることは,地球サミットにおけるリオ宣言を引用するまでもなく,地球環境政策の基本的目標として世界共通に認識されており,具体的にどのような目標を設定し,どのような方法でこの目標に到達するかについての検討が緊急の課題である。我が国の環境基本計画や経済計画においてもこうした目標設定と達成方策が大きな検討課題であるが,現在のところ,目標設定やその実現可能性,達成状況をシミュレートするための経済モデルや総合的な指標,勘定体系などの基本的な分析ツールが未整備の状況にある。
そこで,本研究は,地球環境の保全と経済発展とを統合する目標について,目標設定のあり方とその目標達成の方策を明らかにするため,環境と経済を統合して分析できる新しいタイプの経済モデルおよび指標体系,勘定体系を開発することを目的とするものである。
第1のサブテーマ「環境経済統合目標設定のための経済モデルの開発に関する研究」においては,一般均衡タイプ及び3種類の動学的最適化タイプの経済モデルに対して,これらのモデルを改良するとともに,環境モジュールを追加することにより,それぞれの経済モデルの特徴を生かして持続的発展の可能性についての分析を行った。
まず,一般均衡タイプのモデルについては,米国の太平洋北西国立研究所と共同して,典型的な一般均衡モデルであるセカンドゼネレーションモデル(SGM)と,国立環境研究所で開発中のボトムアップ型のAIMエンドユースモデルとの統合を試みた。これにより,一般均衡モデルのもつ整合的な市場構造とボトムアップモデルの詳細な技術・エネルギー構造の両方を再現できる,日米の共有の新しいモデルの開発に向けた作業を進めた。
次に,動学的最適化タイプのモデルについては,昨年に引き続き,米国のマン及びリッチェルズの開発したMERGEモデルを改良して,最近米国を中心に主張されている「後悔しない政策」,すなわち,地球温暖化の対策を後送りにすべしという主張の問題点について,シミュレーション分析により検討した。また,東京理科大学の森俊介教授により開発されたMARIAモデルを用いて,エネルギーと食料供給の競合場において,温暖化対策の有効性を検証するためのシミュレーション分析を行った。さらに,横浜国立大学の藤井康正助教授らが開発したNE21モデルを用いて,二酸化排出削減対策としての排出権バンキングの有効性を分析するシミュレーション分析を行った。
第2のサブテーマ「政策目標の設定と評価のための環境資源勘定と環境指標の統合手法に関する研究」においては,アジェンダ21からの要請に基づいて行われている環境資源勘定および環境指標に関する国際的な取り組みについて,引き続きその最新動向を調査するとともに,マテリアルフローに関する物的勘定と指標開発に関する国際比較研究を実施した。また,国内においては,環境基本計画の長期的目標の達成度評価のための環境指標,とくに「循環」分野の検討に参画し,これまでの研究成果を指標開発作業に反映させるとともに,指標開発側から物的勘定体系の設計に求められる要件を調査した。
UNCDからの委嘱を受けた環境問題に関する科学委員会(SCOPE)が,1995年11月に開催した「持続的発展の指標に関する科学的ワークショップ」において,マテリアルフローに着目した指標開発が重点的な研究課題の一つとされた。これを受けて,米国の世界資源研究所,ドイツのヴッパータール研究所,オランダの住宅・国土計画・環境省と国立環境研究所との間でこの分野での国際比較研究に着手したが,今年度は共通の手法の確立と,データ収集,第1次成果のとりまとめを行った。
本共同研究では,持続的発展のためには,経済の成長と物の生産・消費・廃棄量の増大とを切り離す「脱物質化」の方向が必要との認識から,4つの先進工業国について,現在の経済活動が,如何に大量の物質のフローに依拠しているのかをマテリアルフロー勘定として定量化するとともに,一人当たり,GDP当たりの総物質需要量(TMR:Total Material Requirement)などの指標を用いて,国際比較や過去20年の指標の推移の分析を行った。本共同研究のため,これまで国内で試作されてきたマテリアルバランスに関するデータのほか,資源生産や貿易等に関するさまざまな統計情報を収集・整理した。また,資源採掘時に生じる環境負荷に関する推計法等について,共同研究機関と密接な情報交換を行った。
本研究で用いた「マテリアルフロー勘定」の手法は,環境資源勘定の一種と位置づけられるが,環境を貨幣価値で評価して経済指標を直接修正することは避け,経済活動に必要とされる自然資源のフローを物量単位で記述し,これをこれまで用いられてきた国民経済計算の集計値(GDPなど)と併用することによって,環境と経済の係わりの理解を深めようとするものである。
本研究では,経済活動の出口側で生み出される汚染物質や廃棄物ではなく,経済活動の入り口側で生じる自然資源の需要に焦点をあてた。経済活動に商品として実際に投入される物質だけでなく,資源の採掘段階での覆土の移動や廃棄物の発生,建設工事による土壌掘削や耕作による土壌浸食など,経済活動で商品として扱われる以前の物質のフローも記述した点に大きな特徴がある。こうした「隠れたフロー(エコロジカル・リュックサック)」と,実際に経済活動に投入される資源(直接資源投入量:DMI)の和を総物質需要(TMR)と名付けた。隠れたフローがTMRに占める割合は半分から4分の3に達した。本研究のもう一つの特徴は,ある国の経済活動に伴って,他国で生じる物質のフローも考慮に入れ,その割合を明らかにした点である。米国は概ね資源が自給されているが,他の3カ国では,TMRのうち外国由来の割合が35〜70%に達している。
4カ国とも,実質GDP当たりのTMRは低下傾向にあり,経済活動はある程度「脱物質化」に向けて動いている。しかし,一人当たりのTMRはむしろ増加傾向にすらあり,絶対的な意味での経済成長と物的成長との分離には未だ成功していない。1人1年当たりTMRをみると,日本は約45トンであり,他の3カ国に比べて小さい値を示した。エネルギー消費量が相対的に小さいこと,石炭への依存度が低いことが主な原因と考えられる。また,日本の特徴として,TMRに占める輸入の割合が高いこと,資源輸入に伴って海外で発生する「隠れたフロー」の量が大きいことが挙げられる。
本研究では,すべての物質のフローを重さの単位で計量して加算している。しかし,同じ量のフローであっても,環境への影響が物質の種類によって大きく異なることはいうまでもなく,今後はこうした観点を加味した指標の開発が課題である。
第3のサブテーマ「環境・経済統合勘定の推計に関する研究」は環境庁の地球環境研究総合推進費を移し替て平成7年度より経済企画庁が実施している調査である。本年度の調査は平成7年度より開始された3年計画の中間年度に当たり,計画の最終年度である平成9年度の研究成果を見据えた検討を行った。
今回の研究計画に先駆けて行われた平成6年度の試算(「国民経済計算体系に環境・経済統合勘定を付加するための研究」)では,我が国の環境・経済統合勘定に必要不可欠と思われる項目に絞って推計したが,その対象,推計方法とも研究開発途上のものであり,今後さらに改善していく必要がある。とりわけ推計方法が多くの仮定に基づくものになっており,これをより仮定の少ない推計に近づけながら全体的に推計精度を高めることが重要であった。
これらの点を踏まえ,基本勘定表の精度向上として,自動車排出量等の帰属環境費用の試算方法の検証と関連データの整備,国民経済計算の資産額推計に用いる統計データの整理,環境保護関連予算を経済コードに対応させた整理,実質化の対象となる項目の整理を行うとともに,基準年次の遡及を行った。
自然環境領域の充実として,国民経済計算の土地資産額推計のデータからは欠落していると考えられる物量データを整理し,土地物量データの基本勘定表への反映方法の検討及び,国連ハンドブックにおける自然環境サービス(自然環境の処分,生産,消費者サービス等)の取扱いを整理し,環境サービスを基本勘定表へ反映する場合の項目整理を行った。
地球環境問題への対応として,地球温暖化・地球規模の資源の枯渇について,エネルギー統計データと国民経済計算データとの項目の関係及び数値を整理した。また,生産活動と環境費用の分析として,実際環境費用と帰属環境費用の総合分析,水質汚濁,大気汚染についての総合分析の方法を検討し,その意味合いと限界を検討した。
産業別の生産活動と環境関連活動及び帰属環境費用を附帯表として作成する手法を検討した。
〔発 表〕K-109,132,133,A-89,B-34,35,C-36,39〜42
(2)地球環境予測のための情報のあり方に関する研究
UNEP-GEO,CSD,OECD,オランダなどが行っている持続可能な発展のための指標の開発に関する研究例を,(1)指標開発の背景及び目的,(2)指標の体系化の方法,(3)駆動力/負荷(Drivin Force/Pressure)指標,(4)状態(State)指標,(5)対策(Responce)指標の項目についてとりまとめを行った。
1)指標の在り方とその構築に必要なデータに関する検討
上記のレビュー結果をもとに,アジア太平洋地域を対象とした望ましい指標のあり方の全体像について明らかにするとともに,その構築に必要なデータに関する利用可能性や限界等についての検討を行った。
2)指標体系の構築
指標のレビューとデータの利用可能性の検討結果をもとに,アジア太平洋地域に適した指標の体系の構築を行った。その体系の中で最も有用な,又は緊急性の高い指標を主要指標として位置付けた。これらの主要指標については,既住の研究において検討が進められている指標との関連性を十分に考慮した。
3)既存データによるケーススタディーの実施
持続的発展の中心課題である農業生産の持続性をケーススタディとしてとりあげた。持続性に関する人間側からの需要圧力として,人口増加と一人当たりの需要即ち食糧の質の面も考慮した。食生活は一般に経済発展ととも肉食化へ進むともみられるが,アジアの食生活の特色として菜食中心のため,摂取カロリーの伸びは西欧型の発展と比べて少ないこと,また,日本を除きアジア地域では穀物を家畜用に消費する比率は小であることが示された。供給力拡大圧力として,農業的土地利用面積の拡大,労働力・資本・エネルギー及び肥料などの生産要素投下の増大を考慮した。アジア農業の特徴として,肥料の投下量と穀物生産性は比例的関係にあるが,インドネシア等は生産性が比較的高く,気候や土地と言った自然要因に有利な点があること,あるいは適切な農業生産形態がとられていることが示唆された。今後はさらに土地の生産性(地力),土地の荒廃,気候や水資源等の周辺条件の変化等のデータ収集が必要であると考えられる。このようなケーススタディーによって,持続可能な発展の概念と実際に存在するデータとを繋ぐ道筋が考察された。
4)指標の開発に関する国際的協力体制の構築方針の検討
指標のレビュー結果やトライアル結果等を踏まえて,構築した指標体系の中で,平成8年度調査において開発するべき指標(主要指標を含む)とその開発方針を検討するとともに,指標の開発に関する国際機関等との協力体制やアジア太平洋地域における指標開発のためのデータ収集に関する検討も行った。
5)情報システムの構築
上記の指標レビュー,指標体系の構築,ケーススタディーの実施等と平行して,アジア地域の持続的発展の検討に必要な人口,労働,経済,食料,貿易,資源,エネルギー等の基本項目について,系年変化データベースの整備を行うとともに,国別の,法・制度に関する情報の収集を行った。
〔発 表〕K-109,i-19
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