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地球環境研究総合推進費による研究


7.生物多様性の減少に関する研究


〔研究担当〕
地球環境研究グループ 椿 宜高・奥田敏統・高村健二・永田尚志・唐 艶鴻・足立直樹
地域環境研究グループ 高橋慎司
社会環境システム部 安岡善文・田村正行・山形与志樹・清水 明
生物圏環境部 渡邊 信
   下線は研究代表者を示す
〔研究概要〕
(1)野生生物集団の絶滅プロセスに関する研究
 野生生物が絶滅に至る主要な原因は生息地の破壊・消失にあるが,かりに棲息地の一部が保護され直ちに絶滅には至らなかったとしても,少数集団特有の脆弱な性質が重なって,最終的には絶滅に至るケースが頻出すると考えられる。小集団は(a)個体数の偶然変動の影響,(b)気象などの環境変動の影響,(c)遺伝的均一化の影響,(d)寄生,病気,捕食者などの他種の影響などに対して大集団よりもずっと敏感だと考えられているからである。また,少集団に分割された個体群(メタ個体群)は,たがいに交流することによってこれらの影響を低減している可能性があるが,その効果については世界的な論争の中にある。これらの問題を解決し,野生生物保全施策への提言を行うことを目標とする。
(2)アジア・太平洋地域における湿地等生態系の動態評価に関する研究
 湿原植生の植生状態をより定量的に把握するための手法として,航空機搭載スペクトルイメージャを用いた赤井谷地の湿原植生分類,多時期のランドサットTMを用いた釧路湿原の湿原植生分類,そして,スペクトル情報から複数の湿原植生タイプを分解する部分空間法を用いたミクセル分解手法を開発した。
(3)発生遺伝子工学的手法による希少野生生物の個体復元および増殖技術の開発
 国立環境研究所動物実験施設には,抗体産生能を指標として20年以上もの選抜を行ってきたH2及びL2系ニホンウズラが継代飼育されている。これらの系統の長期にわたる交配・繁殖履歴データを詳細に解析し,供試ウズラの純系化過程に見られる長期的変動要因を解析するため,20年以上にわたる交配・繁殖記録を電算機処理可能な形式に整え,データベース化する作業を行った。
(4)生物多様性保全の観点から見たアジア地域における保護地域の設定・評価に関する研究
 アジア地域で設定されている国立公園や保護区等の生物多様性に関する情報を収集し,また,それらの情報と地理情報をもとに野生生物の潜在的生息域を割り出し,当該地域の自然保護の進展に資することを目的として,地理情報システム(GIS;Geographic Information System)を用いた生物多様性保護区の候補地の選定システム(Geographic Approach to Protection of Biodiversity; GAP analysis)の開発に着手し,生物多様性保護地区のデータベース作成のための資料を収集した。

〔研究成果〕
(1)野生生物集団の絶滅プロセスに関する研究
 1)イリオモテヤマネコの遺伝的多様性
 個体数が減少した種および集団の絶滅を促進させる諸要因のなかの1つとして,遺伝的多様性の欠如があげられている。種および集団の遺伝的変異量を推定するDNA多型マーカーとしては,マイクロサテライト領域の多型が広く用いられ,ネコ科動物においてはすでにMenotti-Raymond & O’Brien(1995)によって,マイクロサテライト領域のプライマーがデザインされており,多数の対立遺伝子の存在および高い平均ヘテロ接合度が報告されている。
 本研究では,上記のMenotti-Raymond & O’Brienのプライマーを用い,生息数100個体前後と推定されているイリオモテヤマネコ(Felis Iriomotensis)26個体について,マイクロサテライト多型解析を行った。8つの遺伝子座について解析した結果,多型の検出された遺伝子座はわずかに1つであり,全体の平均ヘテロ接合度も1%と,他のネコ科動物に比べても極めて低い値となった。このことは,今回調べたマイクロサテライト領域の変異がほとんど存在しないことを示しており,イリオモテヤマネコの遺伝的変異が著しく低下している可能性も示唆する。小集団の遺伝的変異の維持に最も大きく貢献する遺伝的交流が,地理的隔離によって全く行われないことが遺伝的均一化の一つの大きな原因であると思われる。
 大陸から隔離されて数十万年もの間,この小集団が存続し続けていることから考えると,たび重なる近親交配によって,すでにこの集団から有害遺伝子が排除されている可能性がある。従って,この集団の存続にとって遺伝的側面からの大きな脅威は,この種が適応している生息環境を人間活動により撹乱することであろう。特に,小動物とともに島内に持ち込まれるウイルス等の病原体は大きな脅威となりうる。今後は免疫系の遺伝子群であるMHC(Major Histocompatibility Complex)等の遺伝的変異量を解析してゆく必要がある。
 2)ウスバシロチョウの遺伝的変異と適応度
 ウスバシロチョウ(Parnassius glacialis)は年一化性で,国内では九州を除く各地の山間地域にパッチ状に生息している。本研究では,ウスバシロチョウの各個体群の集団サイズや各個体の形質(左右対称性のゆらぎ(FA),遺伝子型)を測定し,適応度との関係を明らかにすることを目的とした。
 5月上旬から6月下旬にかけて,岐阜県下の22個体群について複数の個体を採集した。採集時には採集時間を測定し,単位時間当たりの捕獲数をその個体群の生息密度とした。採集した個体は採集後直ちにドライアイスで冷凍し,-80℃のディープフリーザーで保存した。冷凍した個体から左右の前翅と後翅を4℃の恒温室内で切り放した。切り放された左右の翅の翅脈間の長さを測定し,FAを計算し表現型変異の指標とした。頭部と胸部を200μlのバッファーとともに磨砕し,4℃,14000rpmで15分間した後,上清を抽出した。抽出した上清を電気泳動法で分画し,アイソザイムを分析した。GPI(Glucose Phosphate Isomerase)には1遺伝子座に6つの対立遺伝子が検出された。EST(Esterase)には1遺伝子座に4つの対立遺伝子が検出された。G6PD(Glucose-6-Phosphate Dehydrogenase)には1遺伝子座に2つの対立遺伝子が検出された。PGM(Phosphoglucomutase)には3つの遺伝子座が認められ,それぞれ2対立遺伝子,2対立遺伝子,5対立遺伝子であった。今後はこれらのデータを基にFAと遺伝的変異性,適応度の関係を明らかにする予定である。
〔発 表〕A-100,a-38,44,63,134〜136

(2)アジア・太平洋地域における湿地等生態系の動態評価に関する研究:人工衛星データを用いた湿地分布図の作成手法に関する研究
 湿原植生の分類や湿原内の状態の把握を実現することを目的として,可視域から近赤外域にかけて複数のバンドで高分解能の画像を取得できる航空機搭載スペクトルイメージャcasi(compact airborne spectral imager)を用いて赤井谷地を観測した。湿原における水の流れは,周辺の土地利用や標高差によって影響されることが多い。また,湿原内部での傾斜は一般的にはなだらかではあるが,ミズゴケによる泥炭地形成等の作用により微細な起伏があり,土壌水分や植生分布の変動と関連していることが多い。casi画像の3次元立体表示を行い,湿原内の植生分布と微細な起伏との対応関係に付いて検討した。
 多時期に取得されたランドサットTM画像を用いて,さらに正確な湿原植生分類図を作成した。多時期のランドサットTM画像を用いることによって,湿原植生の判別に有効である近赤外,中間赤外バンドの情報を活用することができ,多時期のデータを重ね合わせて利用することで,湿原植生タイプごとの生育時期の違いを用いて分類することができる。釧路湿原を6,8,11月に撮影した多時期ランドサットTM画像を用いた湿原植生分類を中心として,スペクトル放射計によって計測された主な湿原植生タイプのスペクトル特性と,主な湿原植生タイプのバイオマス調査を実施し,多時期のスペクトル情報から湿原植生の分類が可能であることを示した。
 湿原域では様々な湿原植生が相互に重なり合い,連続的に変化して分布している。このような領域を分光観測した画素の多くは,複数の土地被覆クラスのスペクトル特性が混合したミクセル(Mixedpixel)になっている。ミクセル画素の解析には,ミクセルのスペクトル情報から各構成要素についての情報を逆に推定するミクセル分解手法を用いる必要がある。本研究では,部分空間法によるミクセル分解手法を開発し,従来の統計的な特徴選択とは全く異なった原理によって,大規模な超多波長の画像を安定かつ高速に処理することが可能となった。部分空間法によるミクセル分解では,これまでの線形ミクセルモデルに基づいたアプローチに代わって,各クラスに部分空間が対応していると考えて,部分空間への射影によってミクセル分解するアプローチが用いられる。
〔発 表〕c-44〜47

(3)発生遺伝子工学的手法による希少野生生物の個体復元および増殖技術の開発
 野生動物の絶滅は,まず環境要因による緩慢な個体数の減少に始まり,ある個体数以下になると近交退化による不可逆的な繁殖能力の低下によって加速すると考えられている。しかし,近交退化現象のモデルとなる純系動物が開発されなかったために,希少野生動物が絶滅寸前に示す近交退化現象のメカニズムが具体的に解明されておらず,絶滅危惧種を人為的に増殖・救済する際に最大のネックとなっている。また,発生工学的手法による個体復元と増殖に関する技術が確立された場合においても,少数の個体から出発し交配を重ねて増殖させる際には,近交退化に関わる問題を避けて通ることができない。
 国立環境研究所動物実験施設には,抗体産生能を指標として現在まで50世代に亘る選抜を行ってきたH2およびL2系ニホンウズラが継代飼育されている。これらは,現存する鳥類の近交系としては数少ないもので,同一集団から分系育種されながらも,双方でやや異なった近交退化現象を示している。本年度は,これら近交系ウズラの繁殖能力の長期にわたる交配・繁殖履歴データをコンピュータ解析し,鳥類の近交退化現象のメカニズムの解明を行った。これまでに,供試ウズラの純系化過程に見られる長期的変動要因を解析するため,20年以上にわたる交配・繁殖記録を電算機処理可能な形式に整え,47世代にわたって繁殖成績を入力したが,これまでの解析より,H2及びL2系ウズラの受精率,産卵率,ふ化率,死ごもり率の0〜47世代での推移が明らかになった。これによると,両系ウズラとも受精率・死ごもり率には一定の傾向は見られないものの,産卵率とふ化率は世代の進展に伴って減少する傾向,いわゆる近交退化現象が認められることがわかった。また,L2系ウズラは,選抜途中からふ化率が回復する傾向が見られたが,この現象を解明することにより,絶滅危惧種の救済策に関する情報が得られることが期待され,さらに詳細な検討を試みている。
〔発 表〕B-66,c-14

(4)生物多様性保全の観点から見たアジア地域における保護地域の設定・評価に関する研究
 1)生物多様性評価のための地理情報システムの応用に関する研究においては,まずパイロットサイトとして,マレーシア半島部及び,中華人民共和国雲南省の自然保護区を選んだ。現地の研究機関及び行政機関と交渉したうえで,マレーシアにおいてはTaman Negara公園西部,中国においては西双版納保護区を調査候補地とした。その際の相手側研究機関との了解に基づき当該地域の生息する動植物種のリスト,分布状況,植生,地形,土質などに関する文献,情報を収集した。また,現在,両地域における動物行動域の捕捉システムの開発のための予備調査や動植物のリスト編纂,地理情報の収集,衛星画像による調査地の植生解析を行っている。
 2)東南アジア地域における野生生物保護区のデータベース化とそれを用いた生物多様性評価手法の開発に関する研究においては,東南アジア地域の保護地区データベース作成のための以下のような予備的作業を行った。まず,東南アジア地域の野生生物と保護地区についてどのような情報整備が行われているかを概観した。保護地区については,イギリスにある世界保全モニタリングセンター(WCMC;World Conservation Monitoring Centre)が整備しているデータベースの充実度が高いことが判明した。ただし,各保護地区の動物相,各動物種の分布状況等に関するデータはきわめて不十分であった。野生動物については,統一規格によるデータベースは存在せず,関連情報のうち大雑把な分布が分類群ごとのリスト,図鑑,モノグラフなどに示されているもののデータベース化はされておらず,より詳細な情報は一部の種や地域についてのみ各種の学術雑誌,報告書,書籍等に散在して記載されているのが現状であった。
 次にこれらの既存資料等を用いて,東南アジア8カ国について,保護地区のリストと各保護地区の概略(面積,設立年等),野生動物種のリスト,国別・地域別の分布状況を整理した。また,モデル地区調査を行う半島部マレーシアについては,既設保護地区の内容の詳細を整理した。さらに,これらの既存資料を東南アジア地域の標準化データベースにどのように組み込むべきかについて予備的検討を行った。そのために,半島部マレーシアを中心に鳥類データベースの作成と当地域におけるGAP解析のための予備調査を行った。マレーシアには700種類を超える鳥類が生息し,種の多様性が非常に高い。これらの鳥類ががどのような環境に生育するかを多角的に解析するために,既存の資料を用いて鳥類の分布に関するリレーショナル・データベースを作成し,種名,学名,地名,立地タイプ,高度区分,渡りの有無の各項目から検索できるようにした。検索結果はテキストおよび地図画面として出力することができる。これにより,どの場所にどの種が生息するかはもちろん,逆にどの種がどのような生息場所を好むかを調べることができる。このように,種ごとの生息地の指向性を知ることにより,今後大規模なGAP解析をする際の基礎データとして活用できることが期待される。


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