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地球環境研究総合推進費による研究


4.酸性雨に関する研究


〔研究担当〕
地球環境研究グループ 佐竹研一・村野健太郎・畠山史郎・森田恒幸・向井人史
地域環境研究グループ 笠井文絵・西川雅高
化学環境部 瀬山春彦・横内陽子・田中 敦
大気圏環境部 福山 力・酒巻史郎・鵜野伊津志
水土壌圏環境部 高松武次郎・服部浩之・井上隆信
生物圏環境部 上野隆平
客員研究員 55名,共同研究員 5名
   下線は研究代表者を示す
〔研究概要〕
 地球資源の大量消費と環境汚染を生み出した20世紀もあと数年で終了し21世紀を迎える。20世紀の生み出した環境汚染の中でも酸性雨による生態系の破壊と汚染は石炭や石油の大量消費と直結する環境問題であり,各国のエネルギー需要,特にアジアにおける需要の増大を考えるとアジアにおける事態はさらに深刻になる可能性を秘めている。酸性雨問題を的確に把握するためには酸性汚染物質の放出−移流・拡散−降下・沈着−生態系ならびに人工物への影響を包括的にとらえて研究を進めてゆかなければならないが,併せて発生源対策,生態系影響対策,ならびに生態系回復を考えてゆかなければならない。従って,本研究では,特に東アジアにおける酸性汚染物質の発生量の予測,発生した酸性汚染物質の移流・拡散,生態系への乾性・湿性沈着,そして森林及び陸水生態系への間接的・直接的影響,文化財への影響,そして酸性汚染物質の発生源対策に関して研究を行うことを目的としている。
 平成9年度は以下に述べる具体的な研究計画のもとで大気,植物,水,土壌,そして発生源対策などに関して研究が行われた。
  1. 東アジアにおける環境酸性化物質の物質収支解明のための大気・土壌総合化モデルと国際共同観測に関する研究
     東アジアにおける越境大気汚染の定量化のために,長距離輸送モデルの開発を行ってきた。このモデルには基礎データとして種々の大気汚染物質のグリッド別発生量が必要であるので,揮発性炭化水素の放出量マップや二酸化硫黄の排出イベントリーを作成した。また,モデルの検証データあるいは物質収支の解明のために,国際共同観測として航空機(東シナ海),地上観測(長崎県五島列島,福岡県太宰府市)を実施してきた。さらに,湿性沈着に比較してデータのない乾性沈着のデータ収集のための基礎データ収集を行った。
  2. 酸性汚染物質の環境−生命系に与える影響に関する研究
     自然生態系は大気圏と岩石圏の境界に広がる生物圏の生態系,森林や湖沼や河川などの生態系の総称であり,生命活動を中心とする環境−生命系と考えることができる。各々の生態系では生物を中心として土壌,水,大気の間で物質代謝が行われており,酸性物質の影響は生物の生存を支える環境要因に直接間接に及ぶ。酸性雨とその被害の関係を明確にとらえるためには,このような環境生命系構成要素ならびにその相互関係に関する基本的な理解が不可欠である。本研究では,このような点を考慮し,生命活動とその環境の相互関係について特に酸性物質の影響という観点から酸性雨によって溶出し,環境ー生命間の代謝活動を阻害すると考えられるアルミニウムの挙動,森林生態系の中で重要な役割を果たしていると考えられる腐朽菌への影響,そしてこれまで評価が不明確であった陸水(湖沼,河川)への酸性物質の影響評価手法の改善と応用などについて研究を行う。

〔研究成果〕 (1)東アジアにおける環境酸性化物質の物質収支解明のための大気・土壌総合化モデルと国際共同観測に関する研究
 精密な化学反応スキームを用いた物質輸送・変質モデルを,数千kmスケールの東アジア地域に適用した。その結果,高濃度のエアロゾルの発現には,低気圧・高気圧の通過が重要な因子となっていること,SO2-濃度のモデル計算値は不均一反応速度を0.5〜2.0%/hとすると観測値と時間変化を含めて非常によい一致をすること,粒子状NO-濃度のモデルと観測値も不均一反応速度0.5〜2.0%/hの範囲で説明されること,冬季であっても対馬にはガス状HNOが多く存在すること等が示された。これらの結果は,長距離輸送モデルへの不均一反応の重要性を示し,NH発生量のより正確な把握とNO--SO2--NHの気液固相を含む精密な化学モデルを導入する必要性が示された。
 日本,韓国を含む東アジア地域における工業活動起源の揮発性炭化水素放出量マップを作成した。国別成分別排出量データは経緯度1/3度メッシュの人口データによって分解し,緯度1度×経度1度メッシュデータとした。また,VOC排出量の成分分解は日本における排出実態及び環境濃度分析結果をもとに行った。中国及び韓国を対象にして,二酸化イオウの排出イベントリーを更新するとともに,二酸化イオウ排出量を予測するためのボトムアップ型モデルの開発を進めた。二酸化イオウの排出イベントリーは,中国では県単位,韓国では道単位に更新中であり,ボトムアップ型モデルの開発に活用する予定である。また,予測モデルはエネルギー技術の選択過程を詳細に再現するとともに,脱硫技術等の選択過程も再現できるよう,詳細な技術選択の構造を有している。さらにこのモデルの特性を明らかにするため,他のモデルの予測結果と比較検討を行った。
 平成8年度より,これまで以上に国際的な共同研究,共同観測を推進するため中国(北京大学)及び韓国(韓国国立環境研究院,韓国科学技術研究院)をカウンターパートとして,東シナ海・黄海を舞台とする共同観測を開始した。すなわち平成9年1月7日より1月25日までの期間において,青島(中国),済州島(韓国),五島列島(日本)で地上観測を行い,本研究所を中心とした航空機観測は,長崎大村空港を基地として,平成9年1月11日および1月13日に,長崎と韓国済州島南方沖の間の東シナ海上空で行われた。高度800〜1000mと高度約300mの2高度をそれぞれ約1時間ずつ飛行してオゾン,NOx,SO,非メタン炭化水素,酸性ガス,アルデヒド,過酸化水素等が機上で分析または採取された。いずれの日にもこれまでの観測に比較してSO2が高めであるが,特に北西風の卓越した11日に高濃度が記録された。  九州の最西端に位置している五島列島に設置された国設五島酸性雨測定所と福岡県保健環境研究所で,オゾン,二酸化イオウ,エアロゾル中の硝酸塩,硫酸塩,アンモニウム塩等の観測を行った。二酸化イオウ濃度は平成8年8月の平均値は0.9ppbと低く,翌年の2月まで漸増の傾向がみられた。月平均値は8月及び9月を除くと2.2〜2.9ppbであり,長崎県のバックグランドレベルと考えられた。エアロゾル中の陰イオン当量濃度の総量でみると夏季及び秋季は約160〜170neq/mと,ほぼ同程度の値を示していたが,冬季には251neq/mと約1.5倍高くなり,冬季のSO2−の上昇が主な要因として考えられた。福岡と五島におけるSO2−は,同様の濃度変化を示し,また濃度も類似しており,広域的に分布していることを示した。これに対し,NOは,福岡と五島で異なった濃度変化になっており,また五島より福岡で高い濃度の日が多かった。
 熱収支ボーエン比法を用いてコムギ,ダイズ,トウモロコシ,コナラ群落に対するNO,O,およびCOの沈着速度を測定した。その結果,沈着速度の葉面積指数や日射量への依存性が明らかとなり,さらにそれらの依存性は植物種によって大きく異なることがわかった。松・コナラ混交林において高さ約20mの観測塔を用いてフィルター法により5高度でSO濃度を測定し,高度分布から,林内雨−樹間流法に必要な沈着モデルにおけるdisplacementheightを検討した。円筒形流通反応装置を用い,Murphyらの方法により,中国武川および火焔山で採取された砂漠土壌に対する二酸化イオウの沈着速度を湿度依存性を含めて測定した。その結果これらの砂漠土壌に対する沈着速度は本邦の土壌に比べて数倍以上大きいことが明らかとなった。
 200余りの針葉樹(主にスギ)の葉を集め,沈着したエアロゾルの29元素を中性子放射化によって分析した。エアロゾルの葉面沈着は,当年葉の出現と同時に始まり,経時的に増加して,冬季に最大量に達した後はほぼ一定となる。沈着量は樹種に特有で,広葉樹に比べ針葉樹で多い。沈着エアロゾルには,人為起源元素と土壌粒子含有元素の他,海塩・火山ガス由来の元素が含まれるが,Au,Ag,Sb,Cl,Se,Iでは90%以上が,Br,Zn,Asでは80〜90%が,Cr,Cs,Co,Vでは40〜60%が,またFeとNaでは約30%が人為起源もしくは海塩・火山ガス由来と推定された。一方,Th,Hf,Rb,Ta,Ti,Mn,Al,希土類元素は全て地殻物質起源であった。Sbはほぼ全量が人為起源で,濃縮係数も大きい。この元素は,植生や土壌中の賦存量が低く,一度環境に負荷されると滞留・蓄積するので,大気経由の汚染の良い指標となる。事実,汚染の激しい埼玉県では,スギの1年葉に,Sbがエアロゾル成分として100ng/g新鮮葉以上沈着していた(cf.屋久島では,ca.10ng/g)。
〔発 表〕K-45,110〜128,A-62〜69,F-14,15,a-84〜100,112〜121,f-7,13,37,39,40,83〜87,90〜92

(2)酸性汚染物質の環境ー生命系に与える影響に関する研究
 平成8年度よりスタートした本課題の中では特に酸性雨の与える影響の中で問題となるアルミニウムの問題,微生物影響の問題,そして陸水の問題を取り上げ研究を行っている。その中で特に陸水影響について本年度得られた成果は以下のとおりである。
集水域の酸中和能力の評価手法の改善と応用
 我が国においては,酸性化の可能性が高い地域として,酸濃度の高い水が多量に一挙に流出し,表面流出の比率が高くなりかつ塩基性の低い鉱物を主成分とする薄い土壌相の集水域とされている。このため,酸性雨の影響が現われやすい集水域を予測することが重要になる。土壌相の緩衝能は地質図等の情報から推定することが可能になっているが,陸水への影響は,陸水自身が持っている緩衝能によっても異なる。しかし,陸水の緩衝能を的確に評価できる試験手法がないため,実効緩衝能を的確に評価できる指標が求められている。
 現在,酸性雨に関係する陸水の測定項目としては,pHとアルカリ度が一般的に用いられている。しかし,pHはその時の酸性・あるいはアルカリ性の状態を表わすもので,結果を表わすものである。このため,実効緩衝能の測定には用いることはできない。また,アルカリ度は,pHを4.8にするのに必要な酸の当量を求めるものである。しかし,その数値自体の意味がわかりにくいことと,酸性化による陸水生態系への影響は,pHが5.6程度でも現われることが明らかになっていることから,pH4.8アルカリ度で陸水の実効緩衝能を評価することは難しい。このため,陸水の実効緩衝能の測定手法を開発した。
「実効緩衝能の測定手法の開発」
 1)実効緩衝能の原理,実効緩衝能が低い陸水は,山地渓流河川や山岳湖沼が考えられ,酸性雨によるpHの低下はまず,降雨時に現われる。一般に河川水は,表面流出・中間流出・地下流出成分に分けられ,中間流出は,さらに早い中間流出と遅い中間流出に分けられる場合が多い。晴天時には,地下流出や遅い中間流出の比率が高く,降雨時には表面流出の比率が高くなる。この場合,表面流出と地下・中間流出の比率が一定とすると,地下・中間流出成分の緩衝能が低いほど河川水のpHは低下する。また,山岳湖沼においては,降雨直後が降水の影響が強く,その後中間・地下流出成分の流入や底質との反応・生物反応等によってpHが変化すると考えられる。山地渓流河川や山岳湖沼における降雨時のpHの低下は,先行晴天日数,降雨強度,降雨量,降雨継続時間等によって影響を受ける。これらの影響を排除し他地点と比較可能なデータを得るためには一地点で相当数のサンプリングが必要となるが,山地渓流河川や山岳湖沼では調査が容易でない。
 これらのことから,晴天時の河川水や湖沼水を用いて評価することにし,実効緩衝能の測定は,降水時にpHが低下することを晴天時の試水を用いて,実験室で再現するような手法とした。すなわち,晴天時の試水に降水に相当する酸を加えた場合のpHの変化を測定することにした。アルカリ度が一定のpHになるまでの酸の当量で表わすのに対して,この実効緩衝能はある一定の酸を加えた場合のpHの低下量・pH値で表すものであり,測定原理そのものは同じである。しかし,実効緩衝能の意味するところは,その試水にモデル降水が加わった場合のpHの変化を予測することであり,実態に即した酸性雨の影響を評価する数値を得ることができる。
 2)実効緩衝能の測定手法,加える酸の種類は,保存性がよいことと,市販されていることを考慮し,アルカリ度の測定でも用いられている硫酸を用いることにした。加える酸の量は,降雨時に河川水では80%以上が表面流出水になることから,日本における降水の平均値であるpH4.6の酸性水と試水が8:2の比率で混合する場合を目安とした。測定精度を上げることと,試薬の消費量を減らすことから,実際には試水100mlに,酸を1ml加えることにした。pH4.6の酸とpH7の水が8:2で混合することは,pH7の水100mlにpH2.7の酸を1ml加えることと等しいことになる。このため,加える酸の濃度は,市販されていることを考慮してpH3(0.001N硫酸),pH2(0.01N硫酸),pH1(0.1N硫酸)の3段階とした。1試水の測定時間は3段階の測定でもアルカリ度に比べて短く,pHの正確な測定は必要ではあるが,アルカリ度のような滴定操作がないため熟練を要しない。
 3)山地渓流河川への適用例,屋久島渓流河川水での測定結果を,横軸をアルカリ度にして図1に示した。観測した河川水のpHは6.6以下であり,すでに酸性雨の影響が現われている。0.01Nの酸添加でpHが4近くまで下がり,0.001Nの添加でpHは0.2から0.4低下していることから,実効緩衝能が非常に乏しい河川水だと言える。実効緩衝能は直接pHの値で示すため,横軸に示したアルカリ度の値に比べて,酸性雨の影響の可能性を直接読み取ることができ,有益な測定手法であると考えられる。
〔発 表〕K-35,A-20〜29,G-3〜6,15,25,g-1〜8,k-2


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