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地球環境研究総合推進費による研究
3.地球の温暖化影響・対策に関する研究
〔研究担当〕
| 地球環境研究グループ |
: |
西岡秀三・森田恒幸・甲斐沼美紀子・甲斐啓子 |
| 地域環境研究グループ |
: |
清水 浩・近藤美則・森口祐一・上原 清・安藤 満・山元昭二
青柳みどり・川島康子・乙間末廣・森 保文・原沢英夫・高橋 潔 |
| 環境健康部 |
: |
小野雅司・本田 靖 |
| 水土壌圏環境部 |
: |
西村 修・恒川篤史 |
| 生物圏環境部 |
: |
大政謙次・戸部和夫・清水英幸 |
| 地球環境研究センター |
: |
安岡義文・藤沼康実 |
| 客員研究員 |
|
19名 |
| 下線は研究代表者を示す |
〔研究概要〕
地球温暖化問題の未解明点は大きく3つある。第一は,地球温暖化のメカニズムであり,大気中の温室効果ガス濃度の変化とそれによる地球の気候変動の仕組みについて,多くの不確実な点が残されている。第二は,地球温暖化の影響であり,気候変動やそれに伴う自然条件の変化によって,自然環境や社会経済にどのような影響が生じるかについて,不解明な点が多く残されている。第三は,地球温暖化の防止対策についてであり,各種の対策技術や政策の有効性を評価する上で,関連する技術システムや社会経済システムの体系的解明とそのモデル化が必要不可欠になってきている。
本研究プロジェクトは,地球温暖化の影響と対策,即ち,第三と第二の未解明点について,現地調査,実験,データ解析,モデリング,具体的なシステム設計等を通じて,総合的に明らかにすることを目的としている。平成8年度においては,次の5つの研究を実施した。
- 地球温暖化の防止対策に関する研究
- 対策技術の評価:電気自動車,エコハウス,飲料用自動販売機,地域冷暖房システムを対象にして,ライフサイクルCO2排出量の評価やモデル計算等により,温暖化防止の効果を評価した。
- 予測のモデルの開発:中国,インド,韓国,インドネシアの研究所と共同して,温暖化の影響と対策の評価のための統合モデルを開発するとともに,モデルを用いて将来予測や許容排出量の推定を行った。
- メタン等の対策技術の研究:メタンガスや亜酸化窒素の排出を削減するため,汚水・廃棄物処理システムの改良の方向とその効果並びに湿地帯からのCH4発生量の抑制について検討した。
- 地球温暖化の影響に関する研究
- 植物影響の研究:我が国及び東アジアを対象にして,フィールド調査,統計分析,モデル分析等により,ENSOの植物影響を分析するとともに,実験によって稲の受精への影響を分析した。
- 健康影響の研究:我が国及び東アジアを対象にして,気温と熱射病,老人の死亡率との関係を疫学調査や統計分析により検討するとともに,デング熱発生の要因を疫学調査や生態調査により分析した。
- 社会経済的影響の研究:気象データ,社会・経済的影響に関する情報を広範囲に収集し,これらをもとに,気象事象と社会・経済影響との関連性を詳細に分析した。
〔研究成果〕
(1)地球温暖化防止対策技術の総合評価に関する研究
- 技術評価のためのライフサイクルCO2排出量の分析に関する研究では,電源構成の大きく異なる状況下での対策評価が可能となるように,CO2排出原単位の電力分を分離した。また,より詳細な評価が可能となるよう,時刻・季節による電力のCO2排出原単位の変動解析を行った。さらに,電気自動車の大量導入シナリオを設定し,導入過渡期における正味の意味でのCO2削減効果を試算した。
- エコハウスの構築に関する技術的評価においては,エコハウス導入シナリオを設定し,導入による削減効果の試算,導入に伴う社会に対する正負の効果を検討した。また,エコハウス技術の改善点を抽出し,そのための対応策の検討を行った。
- エネルギー多消費型民生関連製品に関する技術評価においては,飲料用自動販売機を対象としたライフサイクル的視点に立った検討から,エネルギーやCO2削減に資する対策のリストアップとその対策によるCO2削減効果の試算,また導入に当たっての障害とその対応策についての検討を行った。
- コミュータ交通分野の車両の社会的受容性に関する研究では,コミュータレベルの電気自動車に要求される利用形態や目的に応じた車体設計コンセプトのあり方をヒアリング等により調査・検討した。
(2)アジア太平洋地域における温暖化対策分析モデル(AIM)の開発に関する途上国等共同研究
AIMは,温室効果ガスの排出・気候変化・その影響といった一連のプロセスを統合して分析できる「総合モデル」である。この総合モデルは,各国や地域の経済活動と地球規模の気候変化を結びつけて検討できるだけでなく,地球規模の気候変化が国や地域の社会経済にどのような影響を及ぼすかについても検討できるため,各種の対策を総合的に評価することが可能である。
本年度は,まず,前年度に引き続き,アジア地域の5つの研究機関と共同して,それぞれの国の温室効果ガス排出モデルの開発を進めた。これらの機関は,中国エネルギー研究所,韓国エネルギー経済研究院及びサンミュン大学,インド経営研究所,それにインドネシア環境省である。これらのモデルを用いて,それぞれの国の排出量を予測し,排出量の削減方策を検討した。また,日本モデルを改良して,エネルギー技術の選択過程をより包括的に再現できる構造に拡張するとともに,予測年を2030年まで延長して長期的な排出シナリオをシミュレートした。さらに,これらの推計を基礎にしてアジア太平洋地域全体の将来の温室効果ガス排出量を推計した。
次に,既に開発した気候モデルを改良して,安全排出コリダー(気候変動の絶対値や速度等,長期的な自然の制約条件を課した場合の,短中期的に許容される排出量の範囲)を推計した。特に,先進国とそれ以外の地域とに分けてコリダーを推計して,南北間の排出量の交渉可能な範囲を世界に先駆けて推計した。
一方,アジア地域の3つの研究機関と共同して,それぞれの国の温暖化影響のモデルの開発を進めた。これらの機関は中国自然資源総合考察委員会,インドのインディラガンジー開発研究所,それにインドネシア環境省である。特に,農業影響のモデルについては,オーストリアの国際応用システム研究所と共同して,農業影響の国際的派及効果を分析する経済モデルの開発を進めた。さらに,これらのモデルをもとに,国毎に温度上昇と影響との関係を分析し,損害関数の推計の基礎を得た。
なお,以上の研究成果をもとに,アジア地域の共同研究者が一堂に会した国際ワークショップを開催するとともに,IPCCや国際モデリング・フォーラムの研究集会を開催して,今後のプロジェクトの推進方向と国際貢献のあり方を明らかにした。
(3)地球温暖化抑制のためのCH4,N2Oの対策技術開発と評価に関する研究
CH4,N2O抑制のための生活系排水のバイオ・エコエンジニアリングシステムによる対策技術および東北アジア地域におけるCH4,N2O抑制のための汚水・汚泥の適正処理技術開発の確立を目的として,今後増加が予想される小規模生活排水処理への対応,畜産排水などの高濃度排水処理への対応,生活系排水によって汚濁した湿地帯からのCH4発生抑制手法を検討した。その結果,前年度から検討を行っている原理的に窒素,リンの同時除去が可能な間欠ばっ気方式についてDO制御と凝集剤添加を組み合わせることにより,N2O発生を抑制した効率的な窒素・リン除去の可能性のあることが明らかとなった。さらに既存の生物学的窒素除去に関する動力学的モデルに対してN2O発生を考慮したモデルの構築を検討した。東北アジア地域において今後普及が予想される土壌処理からのN2O発生について実態調査を行った結果,プロセスに投入される窒素の10%以上がN2Oに変換されることが明らかになり,今後の対策の必要性が示唆された。畜産排水処理については嫌気好気の時間配分がN2O発生に対する重要な要因であることが明らかになった。湿地帯からのCH4発生は植生の違いにより大きく影響され,植物の種類によって湿地底泥のCH4生成および生成したCH4の酸化のための環境条件の違いによると考えられ,CH4発生の少ない湿地植生の導入による発生抑制の可能性が示唆された。
(4)アジア太平洋地域における地球温暖化の局地植生への影響とその保全に関する研究
モンスーンアジアにおける温暖化とENSOの植物への影響に関する研究では,我が国や中国福建省,インドネシアなどにおける気象災害,特に,多台風,洪水,干ばつ,高温,冷害などのデータを収集し,近年におけるエルニーニョ・ラニーニャ年の発現との関連性について検討した。また,稲作への影響を調べるために,ファイトトロンを用いた実験研究において,気温上昇や湿度変化,風速変化による受精への影響を解析した。一方,中国の森林・草原植生に及ぼす地球温暖化の影響とその保全に関する研究では,四川省の森林地域や新彊・甘粛省の砂漠化地域に調査区を設定するとともに,現地の植物の種子を採取し,実験研究によって,気温や湿度,二酸化炭素濃度などの変化による植物成長への影響を調べた。
(5)地球温暖化によるアジア太平洋域社会集団に対する影響と適応に関する研究
アジア太平洋域は熱帯から寒帯まで分布し,生態学的視点から変化に富む一方,先進国・途上国が同時に存在し,環境衛生学的視点からも変化に富む状況を呈している。日本を含むこのような地域において,温暖化による影響を検討するためには,多様な手法を駆使し研究していく必要がある。
先進国や途上国においては,循環系の成人病や肺炎や気管支炎が地域集団の健康上重要なリスクとなっている。また熱帯域の途上国においては,動物媒介性や水系の感染症が重要なリスクとなっている。地球温暖化は,このような疾病に直接反映したり,疾病の既往をもつ人に対する強いストレスとして反映し,社会集団のリスクを増加させる。そこで,温暖化の健康影響を社会集団全体について把握するため,この研究においては,温暖化による影響をアジア太平洋域に存在する先進国・途上国の都市および農村部の多様な社会集団を対象に,社会集団のリスクについて研究する。
まず,地域住民の内分泌系および循環系等疾患に対する温暖化の影響と適応に関する研究の中で,温暖化により温帯地域において夏季の間,高温の発生頻度と期間が増加することから,熱ストレスによる健康への種々のリスクが研究されてきた。疫学的な調査によると,東京での熱ストレス関連の疾病発生は暑熱環境に顕著に関連していること,また,高齢者の暑熱による健康障害や死亡の発生が夏季に相当急速に増加していることを示している。回帰分析によると,東京において日平均気温・日最高気温がそれぞれ27℃・32℃を超えると,熱中症患者が指数関数的に増大することが示された。循環器系や内分泌系の疾患や免疫力低下による肺炎や気管支炎が,地域集団の健康上重要なリスクとなっているため,今後,気候変化に伴うこれらの疾病との関係を適応との関連において調査し,アジア太平洋域の温暖化のリスクについて定量化する。
温暖化はデング熱などの動物媒介性感染症の拡大をもたらし,人間の健康に影響を与えることが予想される。流行モデルによる動物媒介性感染症の地球温暖化に伴う拡大予測に関する研究の中では,流行地での現地調査結果から,デング熱の流行にかかわる気候要素の閾値について検討した。今後,デング熱流行地域におけるフィールド調査,野外実験により得られるパラメータを用い,独自のモデルを完成し,アジア太平洋域等を対象に流行域の予測と危険人口の推定を行う。
(6)温暖化の社会・経済的影響の評価と検出に関する研究
本研究は,1994年及び1995年の夏の猛暑の実態を気象データをもとに解析するとともに,社会・経済活動に与えた影響及びその対応について広範に情報を収集し,猛暑と影響の因果関係を明らかにする。併せて,最近の我が国における温暖化影響に関する研究の知見を分野ごとに体系的にレビューし,報告書を作成して公表する。これらの知見をもとに,温暖化の影響とその検知に資する分野別指標の選択と体系化を行い,指標を用いた影響の検知のためのモニタリングシステムのあり方について検討を加える。
本年度は,1)1994年及び1995年夏の気象データ,社会・経済的影響に関する情報を研究・調査報告や新聞などをもとに広範囲に収集し,これらをもとに,気象事象と社会・経済影響との関連性を詳細に分析して因果関連図を作成した。2)また,最近の我が国における温暖化の影響に関する研究・調査報告のレビューを行い,結果を『温暖化の日本への影響1996』としてとりまとめた。
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