9.2 大型研究施設
9.2.1 大気化学実験棟(光化学チャンバー)
本施設は,大気中の一次汚染物質が光化学的に二次汚染物質に変質するメカニズムを実験的に研究し,都市域における光化学スモッグや光化学エアロゾル生成,対流圏バックグラウンド・成層圏等の大気光化学反応を解明することを主目的としている。そのための大型実験装置として光化学チャンバーが設置されている。
本年度は,地球環境研究および経常研究等が行われた。
9.2.2 大気拡散実験棟(風洞)
本施設は,工場や自動車から排出される大気汚染の移流,拡散現象をできるだけ現実に即してシミュレートするための施設である。本施設は従来の流体力学用風洞の仕様条件に加えて,温度,速度成層装置,加熱冷却床パネルを備えている点に特徴がある。これらの組み合わせにより種々の気象条件が再現でき,移流,拡散に最も重要なパラメータである大気の安定度を調節して自然大気と相似の条件で大気汚染をシミュレートすることが可能である。そのための大型施設として大型・中型の風洞が設置されている。
本年度は,重点特別研究,地方公害研究所との共同研究,奨励研究および経常研究等が行われた。
9.2.3 大気汚染質実験棟(エアロドーム)
本施設は,環境大気の遠隔計測並びに粒子状大気汚染質の大気中の挙動を研究する施設である。最上部(7・8階)に設置されている大型レーザーレーダーは大気汚染質の空間分布を短時間に広範囲にわたって観測するための装置で,コンピュータによって操作,データ処理を行う。3階には,粒子状汚染質および酸性・酸化性物質の生成,拡散,消滅の諸過程を研究するエアロゾルチャンバー装置が設置されている。
本年度は,地球環境研究および経常研究等が行われた。
9.2.4 大気共同実験棟(大気フリースペース)
本施設は,室内実験,フィールド調査などに使用される各種計測器の校正試験,および既設の各施設では対応できない大気関係の研究のために,その必要性に応じ一定期間の使用に供することを目的とした施設で,各種の機器の校正に利用された。また,対流圏および成層圏のオゾン濃度分布の測定を行い,オゾン濃度の変動現象の解明および長期的な変化を研究するオゾンレーザーレーダーが設置されている。
「オゾンレーザーレーダー」
オゾン観測室に設置されているオゾンレーザーレーダーは2台のレーザーと口径100cmおよび56cmの2台の望遠鏡を備えており,高度45kmまでのオゾンの高度分布を高い精度で観測することができる。
本年度は,地球環境研究および地球環境研究センターによる成層圏モニタリングが行われた。
9.2.5 大気モニター棟
本施設は,大気質の自動測定装置等の精度や安定性のチェックあるいは相互比較,さらに妨害因子の検討などを行うための施設である。本施設には,国設大気測定所などで実際に使用されている機器を中心として7種類の自動測定器(NOx,SO2,O3,CO2,非メタン,SPM,ガス状 Hg,酸性雨化学成分に関する各測定機器)が設置されている。機器の性能を維持するために,専門技術者が精度管理を厳しく行っている。また,所内外の研究者に対して,気象要素(風向,風速,雨量,気圧,日射量,紫外線放射量,地表温度)や大気質の測定結果の公開やデータ提供サービスなども行っている。
本年度は,5研究課題の施設利用申込みと,8件のデータの閲覧申込みがあったほか,環境省の精度管理調査でも利用された。
9.2.6 ラジオアイソトープ実験棟(RI棟)
本施設は,放射性同位元素を利用することにより環境中の汚染物質の挙動や,生態系への影響,物質循環の解明,生物を用いた汚染物質の除去技術の開発等を行っている。
文部科学省より使用承認を受けている核種は23核種である。本年度には放射線業務従事者は職員,客員,共同研究員,研究生合わせて35人であった。また,本施設を利用して特別研究1課題,地球環境研究総合推進費による研究3課題,原子力利用研究3課題,文部省科学研究費補助金による研究1課題,経常研究15課題が行われた。
9.2.7 水生生物実験棟(アクアトロン)
本施設は,水界における汚染物質の挙動および影響を生態学,生物学,水処理工学等の見知から解明し,汚染環境を修復するための手法開発の研究を目的とした施設である。アオコ等の微生物の挙動や水質改善手法等を研究する目的で淡水マイクロコズム装置,微生物大量培養装置が設置され,農薬等の汚染物質が水生生物へ与える影響の評価手法を研究する目的で毒性試験装置が設置されている。
さらに,水生生物の飼育・培養,系統保存が行える人工環境室,培養室および自然環境下における生態系の遷移現象や水質変化を研究するための生物生態実験池が設けられている。
本年度に供試された実験水生生物は,大型から小型までおよそ50種に及んだ。
本年度は,政策対応型調査・研究,重点特別研究,地球環境保全試験研究,経常研究等が行われた。
9.2.8 水理実験棟
本施設は, 水土壌圏の水理現象と水質に関与する物理・化学・生物学的な諸現象を実験的に解明することを目的とした施設であり,海洋への炭酸ガス吸収とその循環機構の解明を目的として海産藻類の無菌的純粋培養を行う海洋マイクロコズム,地下水汚染研究のための諸モデル測定装置,物質循環速度・経路を解明するための安定同位体比質量分析計と前処理装置が設置されている。
本年度は,地球環境研究,重点共同研究,経常研究が行われた。
9.2.9 土壌環境実験棟(ペドトロン)
本施設は,土壌・底質環境の保全並びに汚染土壌の浄化に関する研究を行うことを目的とした施設であり,気温,地温,土壌水分などの制御下で土壌−植物系における汚染物質の挙動を調べるための土壌環境シミュレーター(大型ライシメーター)が設置されている。この装置には不攪乱土壌が充填されており,現地の土壌構造が室内に再現されている。本施設には他に,土壌微生物の培養試験を行うための設備や化学物質研究のための実験室なども設置されている。
本年度は,本施設を利用して,地球環境研究総合推進費による研究,民間受託研究,経常研究,文部科学省科学研究補助金による研究などが行われた。
9.2.10 動物実験棟(ズートロン)
本施設は,環境汚染物質が人の健康に及ぼす影響を,Biomedical
Scienceの立場から,動物を用いて実験的に研究することを目的とした研究施設である。
本施設は,特別研究(@空中浮遊粒子(PM2.5)の心肺循環器系におよぼす障害機序に関する研究,A環境中の「ホルモン様化学物質」の生殖・発生影響に関する研究,B環境中の化学物質総リスク評価のための毒性試験系の開発に関する研究)の3課題と,さらに経常研究および奨励研究の多課題に使用された。これらの内容として,大気汚染物質,重金属およびその他の環境汚染物質の生体影響の解明に関する基礎的研究・リスク評価研究に加えて,地球規模の環境変化としての地球温暖化やオゾン層の破壊に伴う紫外線の健康影響に関する研究が含まれている。
「生体用NMR装置」
本装置は実験動物が生きた状態でNMR計測を行い,その代謝機能や体内イメージを解析する装置である。内分泌撹乱化学物質総合対策研究,経常研究,科学技術振興調整費による研究などに使用された。
9.2.11 植物実験棟(ファイトトロン)
本施設は,地球環境問題や自然保護などに関連して,植物および陸上生態系に及ぼす種々の環境ストレスの影響について,制御された環境下で研究をすることを目的とした試験研究施設である。このために,植物群落を対象とした自然環境シミュレータを始めとして,クリーン実験室・培養室等からなるバイオテクノロジー施設,種々の型式・性能の環境調節装置が植物実験棟T及びUに設置されている。また,砂漠化や熱帯林の研究のための低温低湿,高温高湿の設定のできるグロースチャンバーも設置されている。
本年度は本施設を利用して,地球環境研究,科学技術振興調整費による研究,経常研究などが実施された。
9.2.12 微生物系統保存棟
本施設は,微生物が関与する環境汚染・環境浄化の研究を推進させるために必要な環境微生物培養株を収集,確保して系統的に保存することおよび研究者の要請に応じて保存株を株データとともに提供することを目的とした施設である。
本年度の保存株の分譲は,赤潮・水の華形成藻類,汚染指標藻類,AGP供試藻類,有毒藻類,炭酸カルシウムの鱗片を有する藻類等多種にわたり,水環境保全研究および地球環境保全研究に利用された。
本年度は,寄託株58種を含めた微細藻類と原生動物1,100株について,それらの種名,履歴(産地,採集者,分離者,採集月日等),株の状態(無菌,単藻等),培地,培養条件等をパーソナルコンピュータで整理した。本施設の保存株を利用して,特別研究,地球環境研究総合推進費や科学技術振興調整費による研究,経常研究などが実施された。
9.2.13 騒音・保健研究棟
本施設は,環境因子の人体への影響に関して,人を対象として研究することを目的とした施設である。本施設を利用し,主として,環境健康研究領域部・分子細胞毒性研究室,健康指標研究室および疫学・国際保健研究室,PM2.5・DEP研究プロジェクトの疫学・曝露評価研究チーム,化学物質環境リスク研究センター・健康リスク評価研究室,が以下の研究を実施している。分子毒性研究室は環境汚染物質の毒性発現機構に関する実験的研究を,健康指標研究室は健康影響のモニタリング手法の開発および感受性要因に関する基礎的研究を,疫学・国際保健研究室は各種疫学調査の準備並びに現地調査の実施,調査試料の分析,収集資料の整理とデータベースの作成を行うとともに,各種計算機システムを活用したデータ解析を行っている。疫学・曝露評価研究チームは微小粒子状物質をはじめとした大気汚染物質の曝露評価や健康影響評価のための疫学研究など,各種疫学調査の準備・解析に利用している。さらに,健康リスク評価研究室は,政策対応型調査・研究のうち,有害性の作用メカニズムに基づくバイオアッセイ手法の開発に関する研究に利用している。
9.2.14 環境遺伝子工学実験棟
本施設は,組換えDNA技術を環境保全に利用するための手法の開発や,遺伝子を組換えた生物の環境中での挙動や生態系への影響を解明するための基礎的知見を収集することを目的とした施設である。
本年度に承認された本研究所における組換えDNA実験は31課題,登録された組換えDNA実験従事者は106人であった。遺伝子組換えによる環境ストレス耐性の植物の作成,組換え微生物の水中及び土壌中での挙動の解明,動物遺伝子のクローニングなどの実験が本施設内で実施された。
また,管理区域外の分析機器室にはペプチドシークエンサーやDNAシークエンサー等の分析機器が設置されており,極めて活発に使用された。
9.2.15 環境ホルモン総合研究棟
本施設は,内分泌攪乱作用に関する質の高い調査研究を進めていくための拠点として設置され,2001年3月に竣工した。1階は主として水生生物への影響を研究するエリアで,淡水魚(とくにメダカ),カエルや巻貝等への影響研究が行われている。2階は化学部門で,内分泌攪乱物質の正確な微量分析法や鋭敏で迅速な生物検定法の開発,さらには環境中での汚染状況の解明,分解処理技術の開発研究が行われている。4階には健康影響に関する動物実験を行うエリアと情報センター機能を持つエリアがある。また,付属する大型計測機器として,MRI(磁気共鳴イメージング),高分解能NMR(800MHz),LC/MS/MS(液体クロマトグラフ質量分析計)が設置されている。
本年度は,重点研究分野の「内分泌攪乱化学物質のリスク評価と管理に関する研究」を中心に研究が行われた。
9.2.16 地球温暖化研究棟
本施設は,1997年の地球温暖化防止京都会議で合意された温室効果ガスの削減目的達成のため,原因の解明と評価手法の検証を行うことを目的として建設された研究施設である。
国土交通省官庁営繕部の「グリーン庁舎計画指針」に沿って多くの地球環境保全手法が採用され,本研究棟各部に取り入れられた様々な手法について,それらが導入された場合の環境負荷低減効果の定量化とコスト対効果の比較などによる技術評価と検証を行うため,継続的なモニタリングを遂行中である。
また,温室効果ガス等の気柱全量や鉛直分布のモニタリングを行う大気微量成分スペクトル観測室及び二酸化炭素の吸収・排出源の解明と評価並びに低公害車の評価などについて最新の実験設備が設置されている。
9.2.17 共通機器
本研究所では,大型で高価な分析機器等を共通機器として管理・運営し,広く研究者が利用できるようになっている。現在,共通機器として登録されている機器は,表9.1のとおりである。どの機器も性能を維持するために専門技術者による維持管理業務が行われている。その中でも,[@透過型電子顕微鏡(TEM)A走査型電子顕微鏡(SEM)B超電導磁石核磁気共鳴装置(NMR)Cガスクロマトグラフ質量分析計(GC/MS)Dパージ,アンドトラップガスクロマトグラフ質量分析計(P&T-GC/MS)Eプラズマ発光分光分析装置ICP-AES(J.
A及びT. I. S)の2機種FICP質量分析装置(ICP−MS)G元素分析計]は特に分析希望が多い装置である。分析希望試料も難度の高い前処理や分析技術を必要とするものが多いため,この9装置については,専門技術者による依頼分析業務を行っている。
本年度に依頼分析を行った研究テーマは,約30課題,約10,000検体の分析希望があった。このようにして,所内約4割の研究者が共通機器を毎年利用しており,環境にかかわる分野の応用研究や基礎研究に役立つデータを提供している。
なお,本年度に走査型電子顕微鏡(SEM)に付属しているX線分析装置が更新された。
9.2.18 情報関連施設
(1)コンピュータシステム
本年度においては,スーパーコンピュータ及び所内基幹ネットワーク(NIESNET)
を含む全面的なシステム更改が行われ,新システムとして,3月1日より稼働した。
新システムの導入に当たっては,さらなる高速演算の実現(SX-4/32の5倍程度以上),利用者プログラムの継承重視(自動並列化機能(8並列演算)の確保),主記憶容量の制約からの解放(512GB/システム,16GB/単体演算装置(CPU)),ファイルシステムの効率化(Storage
Area Network(SAN)による高速なファイル共有),センターネットワーク機器等の超高速化(NIESNET,GbE:1000Mbps)との統合)を基本方針としており,以下のシステム構成によってこれを実現した。
新システムの主な構成としては,システムの中核をなすベクトル計算サーバ(64CPU,総合演算ピーク性能:512GFlops,主記憶容量:512GB),米国等で開発された数値シミュレーションの計算アルゴリズム(算法)及びプログラムの実行に適したスカラー計算サーバ(CPU:Intel
IA64(800MHz),16CPU,総合演算性能:32GFlops(Linpack
HPC),主記憶容量:64GB),スカラー計算サーバと同一構成のフロントエンドサーバ及びこれらのサーバから,高速かつ共通に利用可能な共通外部記憶装置(8TB)をファイバチャネルによるSAN(Storage
Area Network)により接続している。また,膨大な計算結果を格納するためのマイグレーションサーバ(Compaq
GS160,8CPU,11TB)及び大容量テープ装置(Sony
Petasite,100TBx2)を備えている。
このほか,地球環境研究において重要となる,現象解明,影響評価及び予測のための計算結果の可視化を行うグラフィックスワークステーション,SASサーバ,GISサーバ(ARC
INFO,ERDAS IMAGINE)等の各サーバ及び基幹ネットワークスイッチ,サーバにより構成されている。
(2)国立環境研究所ネットワーク
国立環境研究所ネットワーク(NIESNET)は,当初,平成3年度にスーパーコンピュータシステムが新規に導入されたことに伴い,構内情報通信網(ローカルエリアネットワーク:LAN)として,FDDIを基幹ネットワークとして構築されたものである。
その後,各年度ごとに,所外との接続回線(IMnet)の増強(512Kbps,1.5Mbps,6Mbps,135Mbps(ATM専用サービス)),WWWサーバ,ファイアウォール,IPスイッチ,イントラネット,コンピュータウィルス対策サーバ,非武装地帯(DMZ),個別ウイルス対策ソフト,常時監視型セキュリティシステム導入,Webメールサーバ等の導入・開発及び汎用jpドメイン取得等を実施するなど,常にシステムの高度化,多様化に対応してきたところである。
本年度においては,基幹ネットワーク機器の更新をコンピュータシステムの更改に含めて実施し,ギガビットイーサネット(GbE,1000Mbps)の超高速ネットワークを構築し,3月1日のコンピュータシステムの運用に先駆けて開始した。
また,これに先立ち,基幹ネットワークに用いられている光ファイバケーブル(FDDIネットワーク)について,新ネットワーク機器(GbEに対応可能)により実現するよう,光ファイバユニット等の交換工事を実施した。さらに,一般の研究室等においても,UTPケーブルの敷設を進めるとともに,従来利用していたイーサネットケーブル(イエローケーブル,10BASE-5/T)をシステム更改と併せて廃止し,ほぼ100BASE-TXへの高速化に移行した。
なお,所外との接続に関しては,本年度末に,国内の主要な超高速研究ネットワークに相互接続された「つくばWAN」を筑波研究学園都市内の10の研究機関と連携して整備した。
9.2.19 実験ほ場
本施設は,植物・動物および土壌生物の環境保全機能や特性を野外条件下において測定・検証することや,上記の実験用生物を維持・供給することを目的とした生物系野外実験施設である。施設は,所内にある構内実験ほ場と当研究所の西方約4qに所在する別団地ほ場(つくば市八幡台3)の2施設により構成される。
本年度は,重点プロジェクト研究や経常研究などの25件の課題が実施された。近年の傾向として,従来の植物・土壌生物に係わる野外試験・実験生物供給に加えて,森林・草地といった植生の広域特性測定のための観測方法検証や野生生物の繁殖実験など,自然環境下での調査研究方法論の基礎を固める場としての活用も盛んとなっている。
9.2.20 霞ヶ浦臨湖実験施設
霞ヶ浦臨湖実験施設は本研究所の研究者の共同利用施設として利用されている。日本の中でも水質汚濁の進行している霞ヶ浦の湖畔に位置するところから,霞ヶ浦を対象とした調査や,霞ヶ浦の湖水や生物を利用した各種の実験研究を行うことにより,湖の汚濁機構の解明,汚濁した湖の水質回復に関する研究,湖の生態や物質循環などを明らかにすることを目的として研究が行われている。
本年度は,重点特別研究「多様な自然環境の保全と持続可能な利用」,特別研究「湖沼における有機炭素の物質収支および機能・影響の評価に関する研究」,地球環境モニタリング経費によるGEMS/Water支援事業で「霞ヶ浦トレンドモニタリング」,文部科学技術省科学研究費による「湖沼で蓄積する難分解性溶存有機物の動態とトリハロメタン生成能の評価」,経常研究「天然水系中における溶存フミン物質に関する研究」等,研究プロジェクトおよび研究領域で多くの研究テーマが本施設を利用して行われた。
9.2.21 奥日光環境観測所
本施設は,森林生態系に及ぼす環境汚染の影響および環境汚染に対する非汚染地でのバックグラウンド値を長期にわたって観測することを目的とした実験・観測施設である。
本施設は,日光国立公園内の栃木県日光市奥日光に所在し,観測所と管理棟の2施設により構成されている。
本年度は,生物圏環境部と大気研究部において下記の研究テ−マについて実施された。
干潟・湿地等の保全に資する知見を得ることを目的とした重点国際共同研究の湿地生態系の参照基準地として戦場ヶ原で調査を実施した。調査データから湿地生態系の持つ分解機能等のパラメータを解析した。酸性雨関連問題としては森林被害地におけるオゾン濃度と比較のため,本観測所で測定したオゾン濃度を解析し,また過酸化水素,有機過酸化物を測定して気象要素や他の環境要因などと比較し,森林衰退地に対する大気汚染物質の輸送などに関する知見を得た。
9.2.22 地球環境モニタリングステーション
地球環境変化を監視する一環として,人為的な発生源の直接影響を受けることが少ない沖縄県竹富町波照間島と北海道根室市落石岬に無人の自動観測ステーションを設置して,大気中の温室効果ガス等を高精度自動測定し,ベースライン大気(大気汚染の影響をほとんど無視できる十分に清浄な空気)の長期的変化を観測している。
本年度には,つくばにおいて両観測局の稼働状況を監視するシステムを更新するとともに,観測局の周辺状況を確認するための遠隔制御CCDカメラを整備した。
各ステーションの観測項目は表9.2のとおりである。
(1)地球環境モニタリングステーション−波照間
本施設は,沖縄県八重山郡竹富町にあり,西表島の南方約20kmの有人島としては日本最南端である波照間島の東端に所在している。
本施設では,ベースライン大気中の温室効果ガスなどの長期的な変化を観測するために,39.0mの観測塔上で大気を採取して,温室効果ガスのほか,採気する気団の起源を推定するための指標因子として,オゾン・粒子状物質・ラドン・気象要素などを1993年秋より観測している。
(2)地球環境モニタリングステーション−落石岬
本施設は,波照間ステーションに続く第二のステーションとして根室半島の付け根にある落石岬の先端部(海抜50m)に建設された。
本施設は,55.5mの観測塔上で大気を採取して,波照間ステーションと同様に温室効果ガス・指標性ガス・気象要素を1995年秋より観測している。
9.2.23 陸別成層圏総合観測室
本施設は,地球環境モニタリングの一環として「北域成層圏総合モニタリング」を行うための施設であり,北海道陸別町の町立「りくべつ宇宙地球科学館(銀河の森天文台)」の一室を名古屋大学太陽地球環境研究所と共同で借り受け,広帯域ミリ波放射計によるオゾン鉛直分布の観測,ブリューワー分光計などによる有害紫外線の観測,レーザーレーダーによる成層圏の気温鉛直分布の観測を行っている。
9.2.24 森林炭素循環機能モニタリングサイト
本施設は,地球環境モニタリングの一環として「北方林温室効果ガスフラックスモニタリング」を行うための施設である。観測サイトは北海道内に2ケ所あり,育林過程の異なる林分で,森林の二酸化炭素の吸収/放出(フラックス)をはじめとする森林生態系の炭素循環機能について総合的な観測研究を行っている。
(1)苫小牧フラックスリサーチサイト
本施設は,林野庁北海道森林管理局との協力事業として,樽前山麓に緩傾斜地(苫小牧市丸山)に所在するカラマツ林(100ha,40年生)に,森林−大気間の二酸化炭素・水蒸気フラックスや林内・土壌の微気象の観測システムや森林機能のリモートセンシング観測システムを整備し,平成12年8月より観測した。また,本サイトはアジア地域のフラックス観測ネットワーク;AsiaFluxの基幹拠点として,ネットワークとしての観測手法の開発・評価,研修などに活用される予定である。
(2)天塩フラックスリサーチサイト
本施設は,北海道大学北方生物圏フィールド科学センター森林圏ステーション天塩研究林(天塩郡幌延町字問寒別)に所在する針広混交林(14ha,天然林)で,観測林が一つの集水域となっている。天塩サイトは,育林過程により二酸化炭素フラックスを含め森林生態系の物質循環機能がどのように変遷するのかを長期間観測することを目的としている。そのために,平成14年冬には皆伐し,翌15年度にカラマツ苗を植林する予定である。観測内容は,苫小牧サイトと同様であり,平成13年8月より観測を開始した。
9.2.25 黒島NOAA受信施設
本施設は,米国の地球観測衛星NOAAから送られてくる観測データを受信,処理するためのシステムである。平成5年度の補正予算により日本国内に2セットの設置が認められ,一方を沖縄県八重山郡黒島の(財)海中公園センター八重山研究所内に,他方を茨城県つくば市の国立環境研究所内に設置することとなった。平成7年1月より黒島受信施設が,平成7年9月よりつくば受信施設が稼働を開始した。
NOAAは上空850qで極軌道を周回する人工衛星で,NOAAに搭載されたリモートセンサAVHRRからは約2700qの幅を,地上での分解能1q(地上1q四方が一点)で,毎日2回観測することができる。(現在NOAA12,14,15,16号と4個の衛星が運行しているので一日につき合計8回,同一地点を観測できる。)AVHRRは,地上で反射された太陽光や地表面から放射される熱赤外線などの電磁波(光と熱)を検知して画像化する。この電磁波信号を解析することにより,地上の植生分布や海面の水温分布,また雲の分布に関する情報を得ることができる。広い範囲を高頻度で観測できるというAVHRRの特徴は熱帯林の減少や砂漠化など地球的規模で進行しつつある環境の変化を正確にとらえるうえで非常に有効な手段となる。
黒島,つくばの両受信局でカムチャッカ半島からマレー半島までの東アジア地域をカバーしており,現在NOAA12号,14号,15号および16号からのこの範囲の画像を毎日20枚程度受信処理している。本年度は,これらの画像をもとに東アジア衛星モザイク画像と地表面の植生指数分布図の作成,さらに植生指数データを用いて植生純一次生産量分布の推定を行った。
9.2.26 研究本館T(計測棟)
環境中の有害物質を高感度,高選択的に検出したり,環境試料中での有害物質の分布を局所分析などにより調べること,あるいは,地球温暖化の現象解明や汚染物質の起源解明などのための元素(炭素,鉛など)の同位体比を精密に測定することは,環境汚染の状況を把握し汚染機構を解明したり,環境リスク評価を行う上で重要かつ基本的なことである。研究本館T(計測棟)は,このような分析・測定を行うための装置(高度な分析機器など)およびそれらを有効に使用するための施設(クリーンルームなど)を維持・管理し,必要に応じて高精度の測定データを提供している。また,一部の機器については,新しい分析法を研究・開発するための装置としても利用されている。
(1)主要機器
1)同位体測定用誘導結合プラズマ質量分析装置
(MC/ICP/MS)
2)二次イオン質量分析装置(SIMS)
3)高分解能質量分析装置(HRMS)
4)原子吸光光度計(AAS)
5)大気圧イオン化質量分析装置(API/MS)
6)レーザーラマン分光分析装置(RAMAN)
(2)主要設備
1)クリーンルーム
2)純水製造装置
9.2.27 研究本館U(試料庫)
環境試料の長期保存並びに試料の保存性に関する研究のために設立されたものであり,低温室,ディープフリーザー室,恒温室,試料準備室,記録室から成り立っている。低温室は−20℃の3低温室からなり,大量の試料の保存が可能である。ディープフリーザー室には3基の超低温槽と3台の液体窒素ジャーを設置し,超低温保存(−85℃,−110℃,−196℃)の必要な少量の試料の保存が可能である。+4℃,+20℃の恒温室は,それぞれ凍結しない方法による保存に用いる。保存する試料の前処理は試料準備室で行い,記録室には各室の温度が表示記録されるとともに,保存試料の情報が記録されている。
前年度に引き続き魚介類,鳥類,大気粉じん等の環境試料収集保存した他,母乳の収集保存を推進した。
9.2.28 研究本館V
(1)大型質量分析施設
「フーリエ変換質量分析装置(FT-MS)」
本装置は,フーリエ変換方式によるイオンサイクロトロン共鳴を用いた質量分析装置で,イオントラップは3テスラの超伝導マグネットを用いている。測定できる質量範囲は12−16,000amuで,分解能はm/z=131で106以上の高精度・高分解能の質量分析装置である。イオン源はEI,CIレーザーイオン化が使用可能であり,またFT-MS本体のアナライザセル側にイオン加速レンズ系を介して接続されている外部イオン化室を有する。
以上の機能を有した本装置は,質量数の大きいクラス
ターの測定,同位体の測定,ラジカルの反応測定,イオン反応の測定の研究に用いられる。
本年度は,定圧から大気圧力領域でのCH3+NO2反応速度に関する研究を行った。
「タンデム質量分析装置(タンデムMS)」
本装置は,分解能65,000の二重収束型質量分析計(MS)を2台直列に組み合わせたもので,通常の高分解能質量分析に加え,第一MSで分離・選択されたイオンをさらに第二MSで質量分析することによって,正確かつ詳細な化学構造情報を調べることができる。
本年度は,エレクトロスプレーイオン化法を用いたタンパク質のLC/MS/MS分析法の高度化に関する各種条件検討を行い,対象による最適条件の違いや測定の難易についての情報を蓄積した。
「加速器分析施設」
本施設は,最大加速電圧5百万ボルトの静電型タンデム加速器を擁する加速器質量分析装置(AMS),同百十万ボルトのPIXE/RBS分析装置,並びにAMS用試料調製クリーンルームから構成される。AMSは,質量分析の原理と高エネルギー粒子の弁別測定技術とを組み合わせて,極めて微量にしか存在しない(安定同位体の10−10以下)同位体を精度,感度良く測定するためのシステムで,特に炭素14等の,宇宙線起源の長寿命放射性同位体をトレーサーとする環境研究に用いられる。 PIXE/RBSは表面分析,元素分析の手法であり,各種環境試料中元素の迅速分析や分布の詳細な解析等に威力を発揮する。AMSは放射線発生装置であり,放射線防護の観点から,放射線モニターと連動したインターロックシステムの設置など,様々な工夫が凝らされた施設になっている。
本年度は,国立機関原子力試験研究費「GC-AMS:加速器による生体中,環境中微量成分の超高感度追跡手法の開発」並びに地球一括計上によるサンゴの14C測定を中心に研究を進め,これまでの研究成果を施設レポートNO.3としてとりまとめた。
(2)化学物質管理区域
本施設は強い有害性を有するダイオキシン類などの特殊有害物質の分析,毒性評価を行うための実験施設である。
安全な実験環境の確保,かつ区域外への有害物質の漏出を防ぐため,管理区域内の気圧を大気圧より低くし,実験用ドラフトや空調の排気口に焼却可能な活性炭フィルター等を設置してガス状,粒子状の有害物質が漏れ出ることを抑える工夫がなされている。実験排水も,活性炭処理されたあと,さらに研究所全体の化学排水処理施設で処理される二重構造になっている。
さらに区域内で出る実験廃棄物,廃液,使用済み排気フィルターは,すべて区域内で処理して外部に持ち出さないよう区域内に焼却炉を設置している。
また区域内利用者は登録制でカードキーで出入を記録している。
実験室としてはGC/MS室,試料調整室,微生物実験室, 物性実験室,低温室,水生生物実験室,細胞実験室,毒性実験室,動物飼育室,マイクロコズム,高温分解室がある。
本年度は,「内分泌攪乱化学物質総合対策研究」「ダイオキシン類対策高度化研究」を中心に研究が進められた。
(3)ILAS・RIS
ILAS-Uデータ処理運用施設は,平成14年2月に打ち上げ予定の環境観測技術衛星ADEOS-Uに搭載されるILAS-U(改良型大気周縁赤外分光計U型)の観測データを処理し,データの保存・解析・提供を行うための計算機施設である。本年度は,これまでに開発整備したソフトウェアの性能試験と,処理アルゴリズムの改訂作業を実施した。また,データ処理アルゴリズムの改訂研究の成果を受けて,1996年11月より1997年6月にILAS(改良型大気周縁赤外分光計)によって観測されたデータの再処理作業を当施設において実施した。さらに,ILAS観測データのプロダクト提供も本施設で行っている。
また,本年度には,ILAS-Uの後継機であるSOFIS(Solar
Occultation FTS for Inclined-orbit
Satellite;傾斜軌道衛星搭載太陽掩蔽法フーリエ変換分光計)のデータ処理アルゴリズム検討用の計算機システムを当施設内に導入設置し,平成13年2月より稼働を開始した。
(4)ミリ波測定施設
本施設は,ミリ波解析室,ミリ波分光器室,ミリ波分光観器室の3部屋からなっており,ミリ波オゾン分光観測システム等を使用し,成層圏・中間圏のオゾンが放出する電波(ミリ波)の回転スペクトルを高い分解能で分光し,38km以上の高度領域のオゾン鉛直分布を観測している。本年度は,ほぼ毎日(雨天等,厚い雲のある場合を除く),高度約38km〜76kmのオゾンの鉛直分布を24時間連続的に観測し,良好なデータが得られている。
(5)NOAA受信施設
本施設は,米国の地球観測衛星NOAAに搭載されたAVHRRセンサの衛星データの受信及び解析を行うために設置された施設である。NOAA/AVHRRは,可視域から赤外線に合計5バンドを受感する多重分光走査センサーである。AVHRRは広い地域を高頻度に観測することができるのでグローバルな環境変化を抽出するのに適している。本施設は,2つの受信局で構成されており,国立環境研究所構内に95年9月,沖縄県黒島の海中公園センターに95年1月に設置された。主な構成機器は,レドーム付き直径1.2mの受信パラボナアンテナ,アンテナ制御装置,受信機,GPS装置,制御及び解析用SUNワークステーションである。受信データの記録には,4mmDATテープ6本を格納できるスタッカー装置を装備している。つくば局と黒島局をあわせると,カムチャッカ半島から中国,さらにマレー半島付近まで観測が可能である。
本年度は,衛星データの定常的な取得,植生指数分布図および東アジア衛星モザイク画像の作成を行った。
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