(20) 地球環境リスク管理にかかるコミュニケーションと対策決定過程に関する研究
気候変動のリスク・コミュニケーションと対策決定過程
〔区分名〕環境-地球推進 H-5
〔研究課題コード〕9901BA223
〔重点特別研究プロジェクト名,政策対応型調査・研究名〕
〔担当者〕松本幸雄(大気中微小粒子状物質(PM2.5)・ディーゼル排気粒子(DEP)等の大気中粒子状物質の動態解明と影響評価プロジェクトグループ)・山形与志樹・亀山康子
〔期 間〕平成11〜13年度(1999〜2001年度)
〔目 的〕国家安全保障の一環としての環境安全保障を達成する必要性の認識が広まりつつあるが,気候変動問題に見るように,その戦略の確立が急務であり,また,気候変動現象の不確実性と国家利害の対立のもとで,国際交渉の帰趨への展望が求められる。一方,アジアにおける経済発展による酸性雨問題の深刻化が憂慮されるが,国際的な協力により対策を講じるために,問題の推移の政治的,社会的,経済的な要因の構造を分析することが重要である。そうして,このような課題が科学的不確実性のもとでの決定となることが,本質的に問題の取り扱いを困難にしている。
気候変動問題に関して,環境安全保障概念に基づきわが国の取るべき立場を検討し交渉方針への提言へ道を開こうとする。さらに,気候変動現象の科学的知見の不確実性のもとでの合意形成,自治体あるいは地域社会での対応の論理と行動様式におけるコミュニケーションのあり方を,リスク管理パターン概念にもとづく分類や行動論理の社会史的方法により示そうとする。
〔内容および成果〕
本課題に対しサブ課題として,1)地球環境安全保障の概念と気候変動,2)リスクパターン概念からみた自治体における気候変動問題への対処行動,3)地域社会における自然エネルギーへの取り組みの行動原理の社会史的検討,4)不確実性をもった科学言説のもとでの気候変動リスク問題にかかわるコミュニケーションと決定形成,に分けて検討を進めた。各サブ課題の概要は以下のとおりである。
(1)地球環境安全保障の概念と気候変動
国家の安全保障の概念は本来軍事的脅威について用いられてきた。近年,地球温暖化問題やオゾン層破壊,酸性雨など,国に対して影響を与える環境問題が注目されるに至り,安全保障の枠の中で分析しようとするうごきが高まってきた。この動きは,環境安全保障(environmental
security),環境と安全保障(environmental
and security),生態系安全保障(ecological
security)という新たな概念を生み出したが,環境問題を安全保障の視点から議論することの妥当性およびその効用については,定義の未確定,あるいはケーススタディ不足のために評価が分かれているのが現状である。
本サブ課題では,今までの研究をレビューし,その定義を3つに分類した。また,その分類をもとに,気候変動問題の科学的知見とされているIPCCの報告書における気候変動影響を分類することにより,「環境安全保障」という概念を取り入れることにより新たに見いだされる気候変動のリスクと対策を導出した。
この結果,以下のことが明らかになった。
1)環境安全保障研究は大きく3つに分けることができる。第1は,環境汚染・破壊を新たな国家への危機としてとらえたもの,第2は環境と紛争・社会不安との関連性に注目したもの,第3は,マラリアやデング熱の広がりなど,国家という枠を超えて個人レベルで危機が生じる部分に注目したもの。
2)気候変動問題においては,上記の3つがそれぞれ異なる種類のリスクを示唆することになる。第1,第3のタイプに関する安全保障は,気候変動への「適応(adaptation)」という言葉により(「安全保障」という概念を用いることなく)すでに多くが議論されているが,第2のタイプが示唆するリスクについては,実際の交渉においては危惧されているにもかかわらず,IPCCではほとんど議論されていない。
結論として,気候変動が食糧不足や海面上昇などにより端を発する紛争の発生を予防するための措置という視点が,(従来のIPCCなどの議論において抜けているが)重要な課題となりうることを明確にした。地球レベルよりは地域ごとに気候変動の影響と社会不安定性の関連について研究がなされるべきである。
(2)リスクパターン概念からみた自治体における気候変動問題への対処行動
ローカルアジェンダ21が,自治体においてどのような過程で対処行動に結びついたかに関し,豊中市,水俣市,日野市について調査し,リスクパターンの概念から分析した。
その結果,省エネルギー策,リサイクル,ゴミ分別収集など,自治体の気候変動への「対処行動」とされるものは,リスクの認識と結びついているというよりも,安全や健康の感覚に近いものがあり,リスク対策というよりはそれを含んだ総合的な安全対策とでもいうものと理解するのが合理的であることが明らかになった。
(3)地域社会における自然エネルギーへの取り組みの行動原理の社会史的検討
温暖化ガスを発生しない自然エネルギーとして風力発電や太陽光発電に取り組む地域において,取り組みの過程を社会学的に検討した。具体的には,山形県立川町,秋田県仁賀保町,宮崎県北方町,同県串間町,茨城県波崎町などにおいて聞き取りによる現地調査を行った。
その結果,自然エネルギー導入には次のような型があることが明らかになった。
(1)大企業主導(仁賀保町)
(2)自治体主導の「町おこし」(立川町)
(3)NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)
主導(北方町,串間町の風力発電)
(4)市民運動の一形態(串間町の太陽光共同発電所)
(4)不確実性をもった科学言説のもとでの気候変動リスク問題にかかわるコミュニケーションと決定形成
気候変動問題においても,水俣病事件においてもそうであったように環境リスク問題においては科学的知見の不確実なままでの対応策の決定が求められることはしばしば起きる。さらに,そういった不確実性を含む環境問題において,非専門家である一般市民が専門家による科学技術判断に従うよう迫られる事態は,吉野川可動堰の建設問題や遺伝子組み換え食物の許容においてもみられる。科学的知見が不十分なときにどうして合理的な対応策の決定ができるのであろうか。また,非専門家は専門科学者に従うべきであろうか。その上,何らかの科学的知見が示されたといっても多くの場合それは「政治性を含んだ確実性の必ずしも高くない科学的言説」なのではなかろうか。
このような困惑をもたらしているのは,我々の科学に対する二重の思い違いによる。思い違いの第1は,科学という言葉の混乱,ないしはレトリックにある。第2は,第1のものから導かれた科学への過大な信頼から引き起こされたものである。
そうした思い違いを排した上で,「科学的言説」にどのような対処をし,気候変動問題について非専門家が自己の考え方をいかにして決定するべきかを明らかにした。
〔備 考〕
研究代表者:大井 紘(現常磐大学)(平成11〜12年度)・松本幸雄(平成13年度)
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