(6) 海域の油汚染に対する環境修復のためのバイオレメディエーション技術と生態系影響評価手法の開発
〔区分名〕特別研究
〔研究課題コード〕9803AG126
〔重点特別研究プロジェクト名,政策対応型調査・研究名〕
〔担当者〕渡辺正孝(水土壌圏環境研究領域)・内山裕夫・越川 海・牧 秀明・木幡邦男・樋渡武彦・稲森悠平・水落元之
〔期 間〕平成10〜15年度(1998〜2003年度)
〔目 的〕平成9年1月,日本海海上でロシア船籍タンカー・ナホトカ号油流出事故は,我が国沿岸海域における油流出事故としてきわめて大規模な被害をもたらした。また同年夏には,東京湾におけるダイヤモンド・グレース号事故や,東南アジア史上最大の重油流出事件とされるシンガポール海峡におけるエボイコス号事故と,比較的大規模な流出油事故が相次いで起こり,1999年にはイスタンブール沖のボスポラス海峡,2000年には仏ブルターニュ半島沖,南アフリカ沖,本年はガラパゴス諸島付近と,それぞれ小規模ながらタンカー事故による油流出が連続的に発生しており,沿岸域は現在でも油汚染の被害を受けている。このような状況に鑑み,環境省では,上記ナホトカ号油流出事故に際しては平成7年に閣議決定された「油汚染事故への準備及び対応のための国家的な緊急計画」に基づき,関係省庁と連携をとりながら対応を行っている。その一環として,水産庁と共同で油漂着海岸における栄養剤散布による土着性分解微生物の活性化を利用した油汚染浄化技術について,環境影響及び有効性等に関する基礎的知見を得ることを目的として,流出油バイオレメディエーション技術の調査を開始し,その利用指針をまとめつつある。バイオレメディエーションによる漂着油の浄化効果及び環境への影響については様々な報告があるが,現場試験の結果のほとんどは地理学的,気象学的,生態学的諸条件に依存し,現場の状況により浄化効果が左右される上に,我が国での正式な適用事例はほとんどなく,その有効性。および安全性についての知見は極めて乏しいと言わざるをえないのが現状である。
以上のような国内外の情勢に鑑み,本研究においては,油汚染により損傷をうけた海域の環境修復を図るために有効なバイオレメディエーション技術の開発,ならびに生態系影響評価手法の開発を行うことを目的とする。
〔内容および成果〕
研究概要
1)海洋流出油バイオレメディエーション現場実証試験
ナホトカ号流出重油が漂着した日本海沿岸部での現場実証試験として,栄養塩付与による土着石油分解細菌の増殖・活性化(バイオスティミュレーション)を計り,石油成分・除去の分解促進効果について検討を行い,添加肥料の栄養塩形態の影響と石油の流出と分解の収支について評価を行った。
2)機能遺伝子を指標とした油分解菌の挙動解析手法の開発
石油に含まれる代表的な炭化水素化合物の分解に関与する機能遺伝子に着目し,それらを標的とした石油分解菌の挙動を解明する手法の開発を行った。
成果概要
1)兵庫県香住町佐古谷海岸部における石油のバイオレメディエーション現場実証試験
本年度は,石油分解細菌活性化用の農業用緩効(徐放)性合成窒素肥料として,従来使用してきた架橋型尿素肥料のほかに,被覆型硝酸アンモニウム,硫酸アンモニウム,尿素肥料を用い,異なった形態の窒素肥料が石油分解促進効果に及ぼす影響について検討した。その結果,すべての種類の肥料添加区で,石油の分解・除去促進効果がみられた。アルカンの分解については肥料無添加区との明瞭な差はなかったが,芳香族化合物については,実験終了時に肥料無添加区ではどの化合物も50%以上が残存していたのに対し,硝酸アンモニウム以外の肥料添加区では70〜90%の分解が見られた。添加肥料の形態による石油分解・除去促進効果について検討したところ,硝酸アンモニウムのほかはみな同様の程度だった。供試原油汚染支持体としての海砂からの除去効果について検討したところ,硝酸アンモニウム以外の肥料添加区では肥料無添加区に比して残存油量が約3分の1となっていた。原油中の難分解性化合物の濃縮度合いから原油の分解全量を見積もったところ,約20%と算定され,原油除去の収支をとると,分解が約1〜2割で,剥離に伴う除去が4〜6割程度と考えられた。
2)機能遺伝子を指標とした油分解菌の挙動解析手法の開発
本年度は,油分解に関与する機能遺伝子に着目することにより油分解菌の挙動を解明する手法の開発を行った。油成分はアルカン類と芳香族化合物に大別されるため,アルカン類分解菌検出にはその初発分解反応に関わる遺伝子であるalkBを,また芳香族化合物分解菌には芳香族環の解裂反応に関わるC12O,C23Oを対象として検出することとした。これら遺伝子の塩基配列を遺伝子データベースから入手し,共通配列領域を検索し,それらの配列を基にしてPCRプライマーを設計した。作成したプライマーの有効性を検証するために,個々のプライマー設計時に参考とした遺伝子を有す分解菌(標準株)に対して,設計したプライマーを用いたPCRを行った。その結果,alkBでは5株中4株,C12Oでは4株中4株,C23Oでは4株中4株,合計14株中10株に対して想定したサイズのPCR産物が観察され,有効性が示された。次いで,上記プライマーの実用性を検証するために兵庫県佐古谷の試験現場から採取したDNA試料を用いてPCRを行った。いずれのプライマーを用いた場合でも,PCR産物は観察された。さらに,alkBおよびC12Oでは,肥料添加前には微弱あるいは検出されなかったが,肥料添加期間中には明確に認められ,散布によってアルカン分解菌が増殖したものと考えられた。一方,C23Oでは全期間を通じて一定の弱いシグナルを示し,顕著な変動は観察されなかったことから,油分解にはあまり関与しないことが示唆された。以上より,設計した各プライマーの実用性が示されたものと考えられる。
〔備 考〕
共同研究機関:兵庫県公害研究所
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