(2) C沿岸域環境総合管理に関する研究
〔区分名〕重点特別
〔研究課題コード〕0005AA272
〔重点特別研究プロジェクト名,政策対応型調査・研究名〕
V.1.5 東アジアの流域圏における生態系機能のモデル化と持続可能な環境管理プロジェクト
〔担当者〕木幡邦男(東アジアの流域圏における生態系機能のモデル化と持続可能な環境管理プロジェクトグループ)・越川 海・牧 秀明・中村泰男・樋渡武彦・須賀伸介・矢部 徹・今井章雄
〔期 間〕平成12〜17年度(2000〜2005年度)
〔目 的〕失われた自然海岸の機能の回復を目的として,また,新たな沿岸開発による環境影響を軽減する措置として環境修復技術が盛んに開発されている。これらは独自に適用されたり,あるいは開発の際の環境に配慮した工法として行われる。しかし,これらを実際に適用する際に常に問題になるのは,その環境影響評価である。環境影響評価の対象となる項目は,地形や海水の流動等の物理因子,水質や汚染物質の化学因子,さらに生態系保全などの生物学的因子がある。平成11年6月に施行された環境影響評価法では,環境基準である水質などの変化予測のほかに,生態系の質も評価項目として重要視されている。
近年,上記のように生態系に対する研究の要請が強い状況を考慮して,本課題では,沿岸域生態系の中で重要と思われる水界生態系と底生生態系との相互関係や,底生生態系において代表的な生物種の生活史や個体群動態に着目し,それらを用いて現在行われつつある環境修復技術について,その評価される点を抽出したりその問題点を指摘する。さらに環境修復技術の生態系に与える影響と修復効果を評価するための科学的な基礎を提供することを目的とする。
〔内容および成果〕
前年度までに,底生生物が水質浄化に大きく貢献することを報告してきた。本年度は,福島県の北東部にある松川浦での調査を基に,生物による浄化量を流入負荷量と比較して解析を行った。
松川浦は,南北約5km,東西約1kmの主水域と,その西側にある南北約0.5km,東西約1.5kmの分肢部で構成され,北部にある幅約80mの水道で太平洋とつながっている。主な流入河川は宇多川である。松川浦は,入り口と出口が限られていて,物質収支が測定しやすい海域と考えられる。また,松川浦は,航路として浚渫された澪筋を除いたほとんどの海域が,大潮の干潮時には干出するほど浅い。
水質浄化の観点から概観すると,まず,河川などから栄養塩負荷が流入し,それが松川浦内で生物による取り込みを受けながら,太平洋の海水と交換するという仕組みが考えられる。浦内の植物プランクトンなど懸濁物質は,ろ食性の二枚貝によってろ過されて,海水が浄化され,この効果は非常に大きい。ところが,二枚貝は排泄により,無機態の栄養塩を海水に回帰するから,水中の無機態栄養塩濃度を高くすると考えられる。したがって,生物による浄化を考えるときに,二枚貝だけを考慮するのは不十分である。一方,アマモのような海草や,アオサ(海藻),そして底生付着藻は,水中の無機態栄養塩を摂取して,水質を浄化する。このようなことから,本研究では,底生の二枚貝,底生付着藻,アオサ,アマモ等からなる系を調査した。これら生物の現存量を調査すると同時に,現場において,チャンバーを用いて,アサリによるろ過速度や海草・藻の栄養塩摂取速度を測定した。
松川浦への流入負荷(L)は,河川流量(Q)と栄養塩濃度(c)の測定から,次式により推算した。
Q=A v (m3/s)
L=Q c (g/s)
ここで,A, vは,それぞれ各河川について測定された河川断面積と流速を表す。窒素量として,主な流入負荷源は宇多川の203
kg/dと新田排水機場の106kg/dであり,これらと小泉川,梅川,日下石川との合計として求めた松川浦への流入負荷量は,488kg/dであった。
松川浦は大変浅いので,干潮時と満潮時でその体積が大きく異なる。浦内の7点で測定した窒素濃度の値と体積から求めた浦内の窒素存在量は,干潮時に1.84
t,満潮時に3.23 tであり,潮汐によって外部と出たり入ったりする量が約1.4
tとかなり大きいことがわかった。また,水道部で一潮汐の間水質を測定し,太平洋との海水交換による収支を計算した結果,窒素量で0.61t/dが,太平洋側から松川浦に流入していた。
松川浦全域にわたる調査の結果,カキは,澪筋の海底に多く存在し,合計は2,341tと推計され,この値を窒素量に変換し8.5tを得た。同様に,アサリ,アナアオサ,アマモについても現存量を湿重として観測し,それを窒素量に換算した(表1)
表1から,底生生物が一日にろ過する窒素の量が,アサリで1.27t,カキで0.90tと求められ,これらの値は流入負荷量と同程度と大きな値であることが分かった。また,アサリ,カキが,松川浦水中の懸濁態のすべてを,数日のうちにろ過する能力があるという推定になる。このことから,底生生物による海水浄化能力が非常に高いことが結論された。
東京湾では,護岸の生物によるCODの除去が,流入負荷量の20%程度と報告されているが,一方,自然環境が残されている松川浦では,生物による浄化と負荷量がほぼバランスしており,健全な生態系が維持されていると言える。
〔備 考〕
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