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研究成果物



 

(8) 衰退地域の植物の生理生態学的特性と環境要因の複合影響評価・陸域生態系衰退に関する研究者ネットワークの構築による調査解析・ダケカンバの衰退とオゾン等環境要因との関係の解析


〔区分名〕環境-地球推進 C-4(3<CODE NUM=00A5>6<CODE NUM=00A5>7)
〔研究課題コード〕9901BA004
〔重点特別研究プロジェクト名,政策対応型調査・研究名〕

〔担当者〕清水英幸(国際共同研究官)・戸部和夫・馮 延文
〔期 間〕平成11〜13年度(1999〜2001年度)
〔目 的〕現在,世界各地で森林・湖沼等の陸域生態系の衰退が認められており,我が国でも近年,森林衰退が報告されている。国内の酸性沈着は大きく改善される状況になく,国外から飛来する酸性物質は近年増加の傾向にあり,また,東アジア酸性雨モニタリングネットワークの構築が始まっている。このような中で,我が国における陸域生態系の衰退現象の原因は明確化されていない。そこで,関連する専門家による総合的かつ定量的な調査研究を行い,その解明に資することを目的とする。
 これまでに,森林衰退と酸性・酸化性物質にかかわる文献レビュー,奥日光の森林衰退地/非衰退地における調査区設定と植生・環境調査,環境制御室を用いた樹木へのオゾン暴露/水ストレス処理の複合影響実験,東アジア地域における酸性・酸化性物質や陸域生態系に関連する研究者のネットワーク構築等について検討してきた。
 本年度は奥日光の森林衰退地/非衰退地に設定した調査区で,樹木衰退等の毎木調査を継続すると共に,オゾン濃度等の環境計測を実施し,森林被害との関連を検討する。また,ダケカンバ等の樹木に対するオゾン暴露と水ストレス処理の複合影響実験を行い,これら環境要因と植物被害との関係を検討する。併せて,東アジア地域における研究者ネットワークの拡充を図り,当該分野の調査・研究状況を明らかにし,今後の共同研究の具体化に向けた情報収集を実施する。
〔内容および成果〕
(1)奥日光地域の森林衰退に関する現地調査
 奥日光前白根山稜線上の標高2320m付近で,ダケカンバの衰退が認められない北西側斜面を非衰退地,衰退が認められる南東側斜面を衰退地として,ダケカンバ樹木の生育,衰退度,生理生態的特性等について調査した。
 非衰退地におけるダケカンバの樹高,胸高直径の平均値は,各々4.6m,5.1cmであったが,衰退地では4.4m,4.1cmであった。これらから求めた衰退地のダケカンバの樹幹体積は非衰退地のおよそ6割でしかなかった。また,非衰退地では樹高と胸高直径の間に高い相関関係が認められたが,衰退地では認められなかった。さらに,衰退地では1ha当たり約300本の立木密度しかなく,非衰退地の約1500本と比べ,5分の1であった。
 ダケカンバの衰退状況を「酸性雨調査法」の「衰退度測定項目および評価基準」を参考して,目視により衰退度0〜3の評価を行った。非衰退地では,衰退度0の健全木がほぼ7割を占め,衰退度1の比率は約0.5割であった。これに対し,衰退地では,健全な樹木は全く認められず,衰退度1がほぼ5割を占めていた。両斜面におけるダケカンバの衰退状況の顕著な差が確認された。
 衰退地では,ダケカンバの葉のクロロフィル濃度,可溶性タンパク質濃度(TSP),Rubisco濃度等の低下時期,および,葉の黄化や落葉の開始時期が,非衰退地に比べて早く,葉の老化の早期化が明らかになった。しかし,日平均気温とそれらの低下程度は両調査地で差がなく,衰退地での老化促進は気温の違いでは説明できなかった。
 土壌環境に関しては,衰退地の土壌のCa,Mg,K等の元素濃度は非衰退地と同じか低かったが,衰退地の植物葉のこれら必須元素含有量は,非衰退地と比べむしろ高い傾向が認められたので,衰退地のダケカンバの生育不良は植物必須元素の欠乏が原因ではないと考えられた。一方,衰退地における表層土壌の窒素濃度は非衰退地に比べて有意に低く,衰退地の樹木の当年シュート葉の窒素含量も少なかったことから,ダケカンバの衰退に土壌窒素濃度が関与している可能性が示唆された。また,非衰退地に比べ衰退地では,大気の若干の高温・乾燥化,また,土壌含水率の低下が認められ,衰退地の保水能力の低さが水ストレスを与えている可能性が考えられた。
 オゾン濃度については,衰退地と非衰退地で,平均して各々32ppb,28ppb(2001年6月〜11月)であり,有意差が認められた。この濃度の違いには,東京を中心とする大都市地域からの大気汚染物質の移流と関連があると考えられた。なお,オゾン濃度の季節変動パターンは,両地域および前白根山南東麓(標高1460m)にある国立環境研究所奥日光環境観測所でも一致していた。観測所のオゾン濃度(2001年7月30日〜8月6日)の平均値は27ppbであったが,1時間平均値では100ppbを超える場合も計測されており,より標高の高い調査地ではさらに高濃度のオゾンに暴露された可能性が推測された。
 白根山周辺で衰退が観測されるシラビソの衰退木と非衰退木から,2001年6月23日〜10月28日に当年葉と前年葉を採取し,クロロフィル濃度,TSP濃度,Rubisco濃度および数値の元素濃度を測定した。シラビソ衰退木の当年葉と前年葉におけるK濃度およびクロロフィル濃度は非衰退木に比べて有意に低く,衰退木針葉の光合成における光利用効率が低下していることが示唆された。一方,衰退木と非衰退木の間で,針葉のTSP濃度,Rubisco濃度およびRubisco/TSP比は,有意な差が認められなかった。
(2)樹木に及ぼすオゾンと水ストレス処理の影響解析
 森林衰退が問題となっている,ダケカンバ,シラビソ,オオシラビソを材料に,2001年6月14日〜10月14日まで,日平均値0ppbおよび50ppbのオゾン暴露と,3段階の水ストレス処理(対照区:1.0<pF<1.8,処理区1:1.8<pF<2.5,処理区2:2.5<pF<3.0)の複合実験を行った。
 オゾン暴露によって,ダケカンバの葉,根および個体乾重量は有意に減少し,RGRとNARの低下も認められた。これは,オゾンにより葉の乾物生産効率が低下したことを示しており,実際植物葉の純光合成速度の低下が確認された。この原因としては,オゾンによって気孔閉鎖が引き起こされたばかりでなく,CO2固定酵素であるRuBPカルボキシラーゼ(Rubisco)の相対含有量が低下したことが影響したと考えられた。また,オゾンによって根への乾物分配率が減少しており,地上部から地下部への同化産物の転流が阻害された可能性が考えられた。
 水ストレス処理によって葉,茎,根および個体乾重量は有意に減少し,RGR,NAR,LARの低下が認められた。水ストレスで葉内水ポテンシャルが減少し,また,気孔コンダクタンスと葉内CO2濃度も減少したことから,主に気孔閉鎖によって純光合成速度が低下し,乾物生産効率の低下が引き起こされたと考えられた。なお,分散分析の結果,オゾンと水ストレスの複合影響は認められず,両要因はダケカンバの生長に対して相加的に作用したと判断された。
 シラビソに関する実験では,オゾン暴露によって,葉,根および個体の乾重量が有意に減少し,水ストレス処理によって,全器官および個体の乾重量が有意に減少した。一方,オオシラビソに関しては,オゾン暴露も水ストレス処理も,個体の乾重量に有意な影響を及ぼさなかった。これらの樹木の生長に対して分散分析を行ったが,オゾンと水ストレスの複合影響は認められなかった。
(3)陸域生態系衰退に関する研究者ネットワーク
 平成11年度から継続して推進してきた東アジア地域における酸性・酸化性物質や陸域生態系に関連する研究者ネットワークを活用し,東アジア地域における当該分野の調査・研究状況を明らかにすること,並びに,今後の共同研究の具体化に向けた情報収集等の検討を行った。
 フィリピン大学ロスバノス校森林科学部と,酸性・酸化性物質に対する熱帯樹木の感受性に関する共同研究の可能性を検討した。その結果,フィリピン大学演習林内の樹木については,樹種や個体数等の基盤情報が整備されており,暴露実験に供試する種子等の採取も容易であること,また,マニラの都市域から郊外まで共通に植えられているマホガニーがフィールド調査には適している,等の情報が得られ,今後の共同研究を進める準備が整っていることが判明した。本課題については,出来るだけ早期に本格的共同研究を実施すべきであると考えられた。
 研究者ネットワークで特定化された研究者との議論を通じて,東アジアにおける森林影響の評価手法の検討・開発の必要性が指摘されてきた。この点について関連機関と議論を進めてきた結果,EANET(東アジア酸性雨モニタリングネットワーク)と欧州の森林監視ネットワークであるICP Forests(大気汚染による森林影響評価及び監視に関する国際協力計画)が共同して国際ワークショップをベトナムで開催し,東アジアにおける森林影響のモニタリングおよび評価手法について検討を進めることで一致した。ワークショップは,2002年12月にハノイで開催される予定である。ベトナムにおいては,これまで研究事例が少なく,モニタリング活動も十分ではなかったが,このワークショップを機会に,陸域生態系影響に関する議論がさらに高まることが期待される。
 マレーシア,タイにおいては,比較的本分野の研究は進んでいた。現時点では共同研究の具体的なアイデアは煮詰まっていないが,今後,研究者ネットワークを通じて,陸域生態系影響に関する多様な共同研究の可能性について検討していく必要がある。
〔備 考〕
研究代表者:桍田共之(農業工学研究所)
共同研究機関:東京農工大学・酸性雨研究センター・フィリピン大学ロスバノス校
共同研究者:伊豆田猛(東京農工大学)・佐瀬裕之・松田和秀(酸性雨研究センター)・Carandang, W. M.(フィリピン大学ロスバノス校)
本研究は,東アジア酸性雨モニタリングネットワーク(EANET)の活動と連携して実施した。


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