(2) 大気の酸化能と温室効果ガスの消滅過程をコントロールする反応性大気微量気体の大気質へのインパクトに関する研究
〔区分名〕環境-地球推進 B-8
〔研究課題コード〕9901BA109
〔重点特別研究プロジェクト名,政策対応型調査・研究名〕
〔担当者〕畠山史郎(大気圏環境研究領域)・谷本浩志・今村隆史・酒巻史郎・佐藤 圭・高見昭憲・猪俣 敏・Inlia
V. Patroescu-Klotz
〔期 間〕平成11〜13年度(1999〜2001年度)
〔目 的〕東アジアは現在世界でも有数の大気汚染物質放出地域であり,ここからの大気汚染物質の流出が,東アジア・北西太平洋地域の大気環境に大きな影響を及ぼしているだけではなく,地球温暖化物質の面からも酸性雨原因物質の面からも,いまや世界の大気環境に重大なインパクトを与えている。この地域の大気の特徴は,莫大な人為起源大気汚染物質とともに自然起源汚染質(たとえば天然炭化水素等)も高い割合で含まれていること,寒帯から熱帯までの広い気候領域が含まれていること,硫黄酸化物系汚染質の寄与が大きいこと,窒素酸化物系汚染質の寄与が増大していること,黄砂のような不均一反応の場となるエアロゾル粒子の輸送があることなどであり,欧米とは異なるこの地域特有の化学過程が存在する。このような,地域特有の化学過程はその重要性にもかかわらず,まだほとんど研究されていない。本研究ではこのような大気反応のプロセスを明らかにすることを第一の目的とする。一方,アジア地域においても対流圏オゾンの濃度の増加や,酸性雨地域の拡大など大気の酸化能の増大は顕著であり,これと連動して反応性の大気微量成分の分布にも大きな変化があるものと予想される。前記のような窒素酸化物系汚染質の増加は特に大気化学過程に大きな影響を与えるものであり,これとオゾンの空間分布をとらえることは対流圏大気化学全般にとっても非常に重要である。このようなアジア大陸及び太平洋の気団の影響をとらえて,特に対流圏オゾンの変動から大気の酸化能の変化を明らかにすることを第二の目的とする。
〔内容および成果〕
上記のような観点から,東アジア・北西太平洋地域に特有の大気化学過程を解明し,対流圏大気環境の現状を把握することは緊急の必要性を持っている。このため次のような研究を行ってきた。
(1)大気の酸性能など大気化学過程を支配する最も重要なNOy化学種の生成過程,大気中での変質過程,及び除去過程を明らかにする。特に,今後深刻化すると懸念される熱帯地域での光化学大気汚染現象を予測する。黄砂や天然炭化水素の影響の大きいアジア地域の特性から,芳香族炭化水素や天然炭化水素の光化学反応機構の検討,海洋に由来する有機硫黄化合物からのエアロゾル生成などついて研究する。
(2)大気の酸化能を支配するNOy化学種と,その大気化学反応によって生成し,重要な酸化性物質でありかつ温室効果ガスである対流圏オゾンの分布を明らかにするため全NOy,オゾンおよびエアロゾルを低汚染地域で測定する。特に沖縄は大陸の影響と海洋性気団の影響を季節別に示す典型的な所であり,東アジア-北西太平洋地域の大気の酸化能の変動をとらえることができる。
本年度の成果としては,(1)近年大気中で高い濃度のメチルブテンオール(MBO232)の存在が報告され,新たな植物起源の有機化合物として注目されている。もしMBO232が低・中緯度域でも植生から多く放出されているのであれば,その大気質への影響を評価する上で,1)光化学オゾン生成 2)光酸化生成物 3)エアロゾル生成に関する情報は不可欠である。そこで,以上3点に注目して主要な植物起源炭化水素であるイソプレンとの比較から,MBO232の光化学反応について調べた。実験には内容積6-m3の大型光化学反応チャンバーを用いた。MBO232の大気寿命を見積もるため,OHラジカルとの反応速度定数を相対法を用いて測定した結果,7×10−11
cm3molecule−1s−1と決定され,主として日中に放出されるMBO232の大部分はOHラジカルとの反応によって消失されることがわかった。OHラジカル反応で開始されるMBO232の光酸化による光化学オゾン生成に関して,MBO232のオゾン生成ポテンシャルはイソプレンに比べ約1.3倍であると決定された。MBO232の大気寿命はイソプレンと同様短いことから,MBO232の放出量が多ければ光化学オゾン生成に重要であることがわかった。MBO232の主要な光酸化生成物としてはアセトン,ホルムアルデヒド,グリコールアルデヒドが同定された。特に,近年大気中でのOHラジカルソースとしてその重要性が注目されているアセトンの生成収率は約50%と高いことがわかった。このことは,MBO232の光酸化は上部対流圏などでのOHラジカル生成に影響を及ぼす可能性があることを示唆している。一方光化学エアロゾル生成に関しては,同じC5の化合物であるイソプレンと比べてもその生成収率は低いことがわかった。また,エアロゾル生成が主としてオゾン反応によっていることも明らかになった。MBO232の消失が主としてOHラジカル反応であること,イソプレンが大気中での有機エアロゾル生成には大きな寄与を与えていないと考えられていることから,有機エアロゾル生成にはMBO232はほとんど寄与しないことがわかった。
(3)炭化水素類の自動連続測定システムを構築し,沖縄本島最北端の辺戸岬近傍で平成12年3月より平成14年3月までその連続測定を実施した。大気の採取・分析は2〜4時間ごとに行い,また1日に1回,標準ガスを分析することにより定量精度の保持に努めた。測定した炭素数が2〜4の炭化水素類は冬季の1〜2月に濃度が極大を示し,夏季の6〜8月に極小を示す大きな季節変動を示した。この季節変動は季節による大気の光化学活性の違いと支配大気の清浄度の違いを反映した結果であった。また特に春及び秋には濃度の高低が数日の間隔で周期的に現れていることが認められたが,流入大気の後方流跡線解析からも汚染度の異なる大気が交互に入り込んできている結果を反映しているものであることがわかった。後方流跡線解析から辺戸岬への流入大気と炭化水素類の濃度との相関を調べたところ,北から西方面の大陸性空気が流入したときに高濃度となり,東から南にかけての太平洋方面からの海洋性空気が流入してときには低濃度となっていることがわかった。
〔備 考〕
共同研究者:鷲田伸明(京都大学)・坂東 博(大阪府立大学)
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