5.2 酸性雨等の長距離越境大気汚染とその影響に関する研究
(1) 大陸規模広域大気汚染に関する国際共同研究
〔区分名〕特別研究
〔研究課題コード〕0105AG108
〔重点特別研究プロジェクト名,政策対応型調査・研究名〕
〔担当者〕畠山史郎(大気圏環境研究領域)・中根英昭・村野健太郎・酒巻史郎・高見昭憲・谷本浩志・菅田誠治・杉本伸夫・松井一郎・清水 厚・甲斐沼美紀子・西川雅高
〔期 間〕平成13〜17年度(2001〜2005年度)
〔目 的〕中国の中南部四川盆地から杭州湾にかけての領域は広大な平野とそこを流れる長江を有し,両端には成都,重慶と上海,杭州,中間にも武漢などの大都市を抱えて,人口も多く,排出された大気汚染物質のやりとりにより,自然環境や農作物,文化財・遺跡を含む建造物,さらには人間の健康に対して多大の影響が加えられているものと考えられる。成都・重慶と上海・杭州の間の距離は1,500kmにもおよび,そのスケールはまさに大陸規模である。国内問題といえども,グローバルな視点からの取り組みが必要な所以である。また中国では現在もエネルギーの80%近くを石炭に頼っており,硫黄酸化物系の大気汚染が深刻であるが,経済発展とともに自動車の数も飛躍的に増加し,窒素酸化物を主因とする光化学大気汚染の深刻化も懸念されており,両者を含む大気汚染現象の解明とその将来予測に基づく大陸規模の広域大気汚染の管理・制御は緊急に着手すべき問題である。
従来の我が国における広域大気汚染の研究は高々関東平野くらいのスケール(〜200km)のものであった。また大陸規模の大気汚染に関する研究は北米や欧州等の冷涼な地域のものがあるが,温暖・多湿な地域における研究はこれまでにない。東アジアでは人口の密集,温暖・多湿な気候,モンスーンの存在,硫黄酸化物がまだ多い中での窒素酸化物放出量の上昇など,北米・欧州とは大きな違いがあり,地域の特性を考慮した解析が必要である。今後インドや東南アジアなど高温下での広域大気汚染が懸念される地域にも適用することを考える上で,この地域での研究は不可欠である。
本研究では,現在の中国で問題となっている硫黄酸化物系の大気汚染と,今後益々重要となってくるものと予想される窒素酸化物・光化学大気汚染系の大気汚染が混在する広域の大気汚染を観測,モデルの分野から研究し,中国をフィールドとした共同研究から,今後インドや東南アジアにおいても問題化すると予想される大陸規模の広域大気汚染の現象を解明し,その管理・制御に資することを目的とする。
〔内容および成果〕
本研究プロジェクトは中国中南部におけるいくつかのサイトにおける地上観測により四川盆地−杭州湾地域間の大気汚染の実態を把握し,大陸規模の地域モデルを用いて広域大気汚染の実態を解明する。モデルに組み込まれる発生源インベントリーを詳細に作成して,さらにこれの社会経済モデルによる将来予測をおこない,地域モデルにフィードバックして様々な発生源の変化に基づく広域大気汚染の将来像を描く。これから,大陸規模の広域大気汚染に対する管理・制御の手法を提言する。このため,本研究は以下の3つのサブテーマ,(1)四川盆地−杭州湾地域間の大気汚染物質の輸送に関する野外観測(2)大陸規模のモデルによる広域大気汚染の解明(3)社会経済モデルを基にした発生源インベントリーとその将来予測によって構成される。
各課題の主要な研究テーマは
1)四川盆地−杭州湾地域間の大気汚染物質の輸送に関する野外観測:重慶・成都付近と杭州湾島嶼および武漢付近で地上でのガス・エアロゾル観測を行い,またライダー観測によってエアロゾルの鉛直分布,混合層高度を測定する。この観測により,これまで十分な観測データの得られていない中国中南部の大気汚染状況を把握し,モデルの検証にも資する。
2)大陸規模のモデルによる広域大気汚染の解明:大陸規模の気象モデル,化学輸送モデルによって対象地域の物質輸送,化学変化過程を明らかにする。また欧米でのモデルによる解析との比較より,モンスーンの存在・高温多湿な気候・地形の違い等に基づくアジア地域の特殊性を抽出し,この地域に適した対策の提言に資する。
3)社会経済モデルを基にした発生源インベントリーとその将来予測:中国国内の従来のものよりメッシュの細かい詳細な発生源インベントリー(SO2,NOx,炭化水素)を作成する。また発生源の解析と発生量の将来予測を行い,当該地域に予想される将来の大気汚染物質の発生量を推定して,削減のためのシナリオを描く。
本年度の成果として,観測では,中国環境科学研究院の研究者と調整の上,地上観測は平成14年度より夏季に四川省峨眉山,武漢市武当山,浙江省泗礁島(上海付近)の3カ所で観測を行うことに合意した。また航空機観測は本年度末に冬季ではあるが,広東省珠海から山東省青島までの沿岸部上空で行った。中国との共同研究により中国本土上空で航空機観測が行われたのはこれが初めてである。また可搬性の高い小型のライダーを開発し,中国においてのエアロゾル空間分布の詳細な観測が可能となった。
一方,大陸規模の広域大気汚染の現象を解明し,環境改善施策を検討するための大陸規模の輸送モデルの入力データとして,アジア地域・ロシア共和国を対象として,SO2とNOxの1995年排出強度分布地図を作成した。中国,インド,韓国については,比較的詳細な排出源データをもとに排出強度計算を行った。中国については,2413市別SO2,NOx排出データをもとに,インドについては,465県別SO2,NOx排出データを,韓国については,236市郡別排出データをもとに排出強度計算を行った。その他の東アジア各国,東南アジア,南アジア,中央アジア,ロシア共和国については,国別SO2,NOx排出データをもとに,排出強度の算定を行った。行政区界については,いくつかの境界図を併用したために,若干ながら複数の排出強度推定値を持つグリッドが存在する。その場合には,韓国,インド,中国,国別アジア全域の順に推計値を採用した。分布図作成にあたっては,2分30秒メッシュで計算を行ったが,最終図は0.5度メッシュに集計した。アジア地域のSO2排出量の約半分が1995年において中国から排出されていると推計され,また,局所的な濃度もかなり高い地域が多い。
近年の統計では,1998年までの中国におけるSO2排出量は減少傾向にあったが,2000年以降増加すると予想され,その対策は急務である。SO2排出量は所得がある一定水準より増えると環境対策への投資が進み減少すると言われている。日本等のSO2対策が進んだ国の実績から判断すると,中国においては,2015年ごろ対策が進み,それ以降SO2濃度が大幅に減少すると予想されるが,減少時期を早め,あるいは局所的高濃度を下げるためには早い時期に積極的な対策が必要とされている。
〔備 考〕
共同研究機関:中国環境科学研究院大気科学研究所
共同研究者:王 (環境科学研究院大気科学研究所)
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