(8) 砂漠化指標による砂漠化の評価とモニタリングに関する総合的研究
〔区分名〕環境-地球推進 G-2
〔研究課題コード〕0103BA001
〔重点特別研究プロジェクト名,政策対応型調査・研究名〕
〔担当者〕清水英幸(国際共同研究官)・戸部和夫・高永・鄭元潤
〔期 間〕平成13〜15年度(2001〜2003年度)
〔目 的〕1998年に砂漠化対処条約(UNCCD)の締約国となった日本には,アジア地域のテーマ別プログラムネットワーク(TPN)の一つ「砂漠化のモニタリングと評価(TPN1)」に対し,研究支援・技術的貢献が期待されている。そこで,本研究では,アジア各地域における砂漠化の各プロセス(背景情報・直接的/間接的要因・砂漠化の状況・その影響・対策の効果等)に関する調査研究を進めるとともに,砂漠化の統一的な評価システムの確立の基礎となる有効な砂漠化指標を抽出する。また,砂漠化の各プロセスの因果関係を定量的に説明可能な砂漠化総合モデルの開発を進める。さらに,砂漠化地域における広域/地域レベルのモニタリング手法を開発することにより,UNCCD・TPN1に資する研究を展開する。
具体的には,@砂漠化の進行/回復に関連した文献・資料等の情報を収集・レビューし,データベース化する。A中国,カザフスタン,パキスタンの砂漠化地域に調査区を選定し,気象・土壌等の環境資源計測および村落レベルの社会経済調査を実施し,各地域に特徴的な砂漠化プロセスの指標群を抽出・選定する。B環境資源変動と社会経済政策の変化との関係解明について検討するとともに,C生物生産力をキー指標とした砂漠化総合モデルを構築し,各地域に適用してその妥当性を検証する。一方,D衛星データ等による現在の広域的生物生産力推定手法および潜在的生物生産力推定モデルを開発し,比較検討して,砂漠化程度(進行/回復度)の評価を試みる。
〔内容および成果〕
(1)砂漠化の評価およびモニタリングに関する研究
主要な国際機関等の文献等の情報から,既存の砂漠化の評価手法について,スケール(空間・時間等),指標(自然科学的・社会科学的指標,要因・状態・影響・対策効果等の指標),評価の具体的手法等の現状と問題点を整理した。UNCCD,USDA,WRI,UNDP等,各機関の砂漠化評価手法に関する情報からは,気候・土壌等の自然科学的要素と人口等の社会科学的要素を組み合わせた評価手法や,砂漠化対処条約の履行状況の監視を目的とした指標等が検討されていた。また,UNCCD<CODE
NUM=00A5>TPN1では,「圧力」「状態」「砂漠化影響」「実行状況」の4側面を含む指標の枠組が提案される等の動きがみられた。ただし,現状では砂漠化の要因・状態・影響・対策効果等の各側面の指標を包含する総合的指標体系や統一的評価手法は確定しておらず,地域レベルに焦点をあてた指標と汎用性のある指標の両方共策定する必要があることが判明した。
中国内蒙古地域の村落調査データを用いて,生物資源の生産・利用プロセスを定量的に明らかにした。これをもとにして,種々の土地・気象条件や社会経済条件から生物生産量を推定するモデルおよび地域の生物生産が扶養することのできる人口を推定するモデルのプロトタイプを開発した。
中国内蒙古地域を中心に,衛星データ等を用いて現時点での広域的生物生産力(g乾重/m2/年)を推定する手法を開発した。推定モデルとしてCASAモデルを採用し,現地観測データを用いてモデルの改良を行った。さらに,衛星データを用いて植生の季節変動をモニタリングし,解析時点での植生型情報を推定し,モデルの入力データとした。これらの改良により,従来より生物生産力を高精度に推定できるモデルを開発した。モデルの入力データとしては,@NDVI:NOAA
GVI(2000年1〜12月),A降水量:GPCC(Global
Precipitation Climatology Center),B気温:NCEP/
NCAR Global Reanalysis Products,CPAR:NCEP/NCAR
Global Reanalysis Products(日射量より推定),D植生型:NOAA
GVI(地表面温度より推定),E土性:FAO土壌図,等である。さらに,この広域生物生産力地図を用いて,現時点での生物生産力と潜在生物生産力との比を用いた土地生産力の評価や,一人あたりの生物生産力等,新たな砂漠化指標の検討を行った。
(2)砂漠化の植生指標に関する研究
主として中国を対象に,既往の砂漠化植生指標に関連した文献等の収集・レビューを行い,これまでの指標の整理と有効性を検討したところ,砂漠化の進行に伴って,分布植物の種構成・生育状況,地表面植被率,多様性・均一性,土壌表面の特性等が大幅に変化した。これらは砂漠化の指標に適用でき得ると思われた。また,砂漠化地域に生育する代表的な植物6種の種子を採取し,発芽特性を調べた結果,温度および光条件に対する種子発芽の応答特性は種ごとに大きく異なっていた。こうした発芽特性の種間差が,特定種が特定の砂漠化段階の地域に特異的に出現する一要因となっていることが推定された。
(3)砂漠化回復手法の評価に関する研究
主として中国を対象に,既往の砂漠化地域の植生回復手法に関連する文献等を収集・レビューした結果,以下の必要性が明らかになった。@砂漠化緑化の環境・社会・経済等の側面からの効果程度の評価手法を検討する。A砂漠化回復策を実施するうえで,地域の社会・経済的特性を十分に考慮する。B砂漠化地域の効率的緑化には,緑化植物種の生理生態的特性を明らかにし,各砂漠化地域ごとに適正な緑化植物種や導入方法等を明らかにする。一方,中国の砂漠化地域の緑化植物5種の種子発芽実験を行った結果,Artemisia
ordosica等の種子では光照射下での発芽阻害等が明らかとなった。同種は種子が地中に埋もれると定着が有利になると思われ,飛行機播種による定着率が低いことの一要因となっていることが示唆された。
(4)中国における砂漠化に伴う環境資源変動評価のための指標開発に関する研究
内蒙古中部のフフホト周辺の草原地域で,モニタリング地点選定を目的とした広域調査を行った結果,北部の温帯性草原化荒漠域〜荒漠草原域の植生・土壌は,これまで調査してきたナイマンとは異なり,より砂漠化に対する脆弱性が高い地域であることが明らかとなった。また,南部はナイマンに近い自然条件であるが,砂漠化の実態や社会・経済的条件が異なっており,新たなモニタリング地点の候補となり得ることが確認された。
一方,東部ナイマンのモニタリング地点では,荒廃化した放牧地や固定化した流動砂丘における植生・土壌の回復過程や畑地化による土壌劣化過程の把握のための調査を行った。荒廃放牧地の5年目の回復試験においては,試験地は多年生植物を中心とする植物群落に移行し,回復が進んでいることが確認された。6年目の流動砂丘固定化試験地の砂丘は全く移動していなかった。なお,おそらくはこの2年間の少雨のため,植生としてはキク科の耐旱性植物の優占傾向が顕著になったことが観察された。
(5)中央アジアにおける砂漠化プロセスの解明と砂漠化の評価に関する研究
カザフスタンの北部半乾燥地域(ショルタンディ・ペトロパブロフスク)および南部潅漑農業地域(クジルオルダ)において,砂漠化動態およびそれに影響を及ぼす
社会・経済要因に関する現地調査を実施するとともに,砂漠化総合モデル構築のための資料・文献情報を収集した。その結果,@北部では圃場管理の粗放化に伴う一次生産量低下により,また南部では潅漑排水設備の老朽化に伴う地下水位上昇・土壌塩性化により,砂漠化が加速されていることが示唆され,砂漠化には農業経済的要素が強く絡んでいると思われた。また,A現地農業経営は,旧ソ連邦解体後の混乱から復興しつつあるものと,経営危機に陥っているものとに二極分化しており,経営状況の厳しい農場では粗放的な圃場管理に流れているのに対し,改善されつつある農場では旧ソ連時代の集約的管理を再度構築しつつあること等が明らかとなった。これらの知見をもとに,今後,土壌有機物動態および地下水位・土壌塩性化動態等の砂漠化モニタリングを行うために,経営状況の異なる代表的農場を選定し,基礎調査を行った。
(6)パキスタンにおける砂漠化プロセスの解明と指標化に関する研究
アフガニスタン/パキスタンにおける国際情勢の緊迫化のため,現地調査は見送ったが,現地モニタリングに関して,共同研究者を招へいし,討議した結果,インダス川流域に沿った3地点を選定することにした。
また,インダス川流域に関する情報を既存文献等から収集・整理した。その結果,@パキスタン独立によりパンジャブ州の灌漑システムも分断され,パキスタン側では2支流により全灌漑網をまかなわざるを得なくなった。A灌漑水が絶対的に不足し,地下水の利用が発達し,現在では全灌漑水量の33%が地下水から供給されている。B河川水質は比較的良好であるが,地下水質は特に下流域で悪化している。C塩類集積の問題は1900年代初期から顕在化していたが,地下水の灌漑利用は塩類集積を加速しており,灌漑水路からの浸潤も塩類集積に影響している,等の情報が得られた。
〔備 考〕
共同研究機関:中国林業科学院・中国科学院・内蒙古農業大学・カザフ農業大学・ファイザラバード農業大学
共同研究者:谷山一郎・中井 信・白戸康人・大黒俊哉(農業環境技術研究所)・恒川篤史(東京大学)・小崎 隆・舟川晋也・森本幸裕(京都大学)・石敏俊(筑波大学)・邱国玉((財)地球・人間環境フォーラム)・松本 聰((社)国際環境研究協会)・洲濱智幸((株)パスコ)・藤森眞理子・梶井公美子・安部和子(パシフィックコンサルタンツ(株))
本研究は,砂漠化対処条約(UNCCD)アジア地域テーマ別プログラムネットワーク(TPN)のTPN1「砂漠化のモニタリングと評価」の活動と連携して実施した。
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